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はなのように 5
頼ることをしらない人
「そうですよ、奥田さんだけなわけないじゃないですか…」
逃げ道が完全に絶たれたのを目の当たりにした。
茫然と促されるまま戻ると、そこには談笑してる馨さんと宇野さんが居た。
「馨が走って追い付く訳が無いだろう?」
でも、ほっとした。
逃げ出した自分はまた明日には何事もないような態度をとったに違いない。
そういう自分を知っている、だからこそ、逃げたことに狼狽えていたことも知っている。
宇野さんは、馨さんとごく自然に話していて、あの人等に警戒心はないのかと思った。あれが表面上とは見えないのであった。
そして、戻るまではよかったが、席に戻るにはかなり躊躇がありなかなか踏み出せなかった。
その間にも奥田さんは四人ぶんの追加を注文し、それを受け取るだけの時間があり、半ば引き戻されるように席についた。
ちらりとみた、宇野さんは、明らかにほっとした顔をして、ますます肩身の狭い思いをした。
「さあ、何故逃げ出したの?」
いきなり核心をつく質問をされた。いや、これは尋問か、査問か!?
「こ、怖くなったからです…」
なにが。
なにを。
聞かないで。
「宇野くんが?」
「いや、それはありません。むしろ、感謝してます…」
余計なことを言うな。
自分から話すな。
「るるは、助けてもらうことが嫌なの?」
「助けて…もらう?私が?」
出来ないの?
やらないの?
「あの、馨さん、宇美野さんのが様子がおかしいですって、止めましょう」
宇野さんは、心配をしている。私の。私を。
【ワタシが、ダレかに、助けてもらわなければならない状態。】
「大丈夫ですよ、宇野さんみたいな男性に優しくされなれてないなら恥ずかしながら、逃げました。」
そう笑って私は氷の融けたオレンジジュースを飲み干した。
にこやかで、たおやかな。
ワタシ。
2
何を話したのか、どうやって帰ったのか、どんな風に見えていたか。
全部見えていた。
あれから、馨さんとも奥田さんとも会話を普通にして、質問にも何食わぬ顔で答えた。何を聞かれてもちぐはぐな返答はしない。
あまっさえ、新品の携帯を使いこなして見せ、連絡先さえ交換してある。
そして部屋に帰り着いた私は、殺風景な部屋に電気もつけず、薄いカーテンの先にある月を眺めていた。
満月まであと2週間くらいだろうか、夏至を迎える。
馨さんがいつだか、私のことを「透明な」と言った。あれは「曖昧」と言いたかったのだろうか、「見えない」と言いたかったのだろうか。
「薄っぺら…」
隣の部屋のテレビの笑い声がする。
3
「宇野さん!」
振り向いた宇野さんは、かなり驚いたように私をみた。
「宇美野さん、どうしたの?」
あの日以来、たまに話をしているのに、声をかけるといつも驚かれているのは何故だろうか。
そして話しかけると宇野さんの友人は先にいくと言って席を外すが、たいした話しはしていないのだ。
「バーベキュー、いつでしたっけ?よく読んでなくて、まだチラシありますか?」
「あぁ…、これ、ありますよ」
少し、拍子抜けしたような宇野さん。
あの日、私に付いてきた度胸はあれで使い果たしたのだろうか。わかりかねる態度がなんだか少し、イラッとするので話しかけなくとも良いのだが。
携帯を使うことをしない私は、だいたい本人がいればこうして聞くのが間違いないと思っている。
「あの、少し、大きめの公園ですか、キャンプ場でもあるのですかね、バーベキュー出来るなら。」
「そうそう、だから、有志はテント持って泊まりらしいよ。晴れるといいね。」
「そうですね、これ、いただいていいです?」
「うん、あの、宇美野さん、敬語じゃなくていいんだけど…、それって変えられる?」
「言葉遣いですね、よく言われちゃうのですが、たぶん無理かな、てお返ししますね、誰にでもそうなんですよ?」
では、と、次の講義に嬉々として向かう私の背中に宇野さんは、なにか言葉を投げ掛けた。
「以前にも増して、シールドが固いというか…手強いなぁ…」
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