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CBLLの鑑賞モードと勉強モード

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

【Pagglaitというヒンディー語の映画】

さて、先日「Pagglait」というインド映画を見ました。正確には「見終わりました」と言わなければいけませんね。というのも、一度この映画を見続けるのを挫折してしまったことがあるからです。

この映画は Netflix で人気があるということで、僕のところにおすすめにも表示されていました。 Twitter で検索してみると、確かにずいぶん人気があるようです。それで僕もヒンディー語の勉強のために見始めたというわけです。

そうそう、理由はなぜかわからないのですが、実は Netflix のヒンディー語の映画の中には、日本語や英語の字幕がついているのに、ヒンディー語の字幕がついていないものがたくさんあります。たとえば Deepika Padukone という女優さんの出てくる作品は「New Year’s Eve」以外はどれ一つヒンディー語の字幕がついていなかったのではないかと思います。

それでこの「Pagglait」は今時の人気があるヒンディー語の映画の中の、数少ないヒンディー語の字幕付きの映画だったので早速試聴を開始したわけです。

ところが、この映画をヒンディー語の勉強の教材として見るのは、かなり苦痛でした。理由は色々あって、そこで使われる言葉が一般的なヒンディー語と少し違うところがあったりもしたのですが、なにしろ主人公の配偶者が亡くなった直後で雰囲気がすごく暗いということと、それにもかかわらず主人公がなぜか全く悲しんでおらず、しかもその理由が自分でもよく分かっていないという視聴者から見れば全く感情移入しにくいという状況にありました。

これは、その時の僕のようにセリフが出るごとに一時停止させながら時間をかけてヒンディー語を読んでいるような学習者にとっては、かなり学習を継続するのが厳しい状況です。僕自身もいつの間にか Netflix を開くのがちょっと面倒くさくなってしまって、ヒンディー語の勉強が進まない状況になってしまいました。

それで多読の時によく言われているように、勉強が進まなくなったのは何らかの問題があるので、そういう時は無理に同じ教材を使わないですぐに他の教材に移ってしまおうと思いました。

それで見始めアミターブ・バッチャン(インドで一番有名な俳優と言っても反対する人は少ないかもしれません)の「TE3N」という映画を観始めたのですが、これが非常に面白く、とりあえずこの映画も最初から最後までセリフごとに一時停止しながら全部視聴しました。
(アミターブ・バッチャンが冴えない老人の役を演じていて「こんな役もやるのか」と驚いていたんですが、終わってみるとやっぱりタダモノではなかったです(^^))

それでこの映画「TE3N」を観ながら気がついたのですが、やっぱり物語に引き込まれて「トイレに行くのももったいない」と思ってしまうようなのは後半なんですよね。この映画でも前半は8年前に孫娘を失った回想などが描写され、ストーリーは特に進みません。別の映画の続編でもない限り、どうしても前半ではその映画の世界観を説明せざるを得ず、物語が生き生きと動き始めるのは後半になってしまうのです。

これは母語話者なら大きな問題ではありません。その説明の部分はすぐに終わるのですから。しかし、第二言語の教材として使うとなると話は別です。なぜなら前半の世界観の説明の部分でつまらなくなってしまって学習から離れてしまうからです。

【鑑賞モードと勉強モードを一つの映画の中で分ける提案】

それでちょっと考えてみたのですが、もしかしたら映画などで第二言語を習得するための CBLL (Content-Based Language Learning) では、もしかしたらその物語の舞台やキャラクターの紹介がある前半は、勉強モードではなく鑑賞モードで視聴するのはいかがでしょうか。

つまり、鑑賞モードの間は一時停止しないで、学習言語ではなく自分の母語や理解できる言語でその映画を視聴するのです。そしてその映画の世界に入りこんで、物語が動き始めたら勉強モードに入るのです。つまり、学習言語の字幕を表示して1文1文を一時停止しながら詳しく読んでいくのです。

単純に映画の真ん中で分けて、前半は鑑賞モード、後半は勉強モードとするぐらいでいいかもしれません。実を言うと、最初に上げた「Pagglait」もちょうど真ん中あたりで、死んだ夫が愛していた別の女性と主人公の未亡人が親しくなり始め、起承転結で言う「転」の部分に入った感じで、僕もこの場面からLLNの自動一時停止機能をオンにして、勉強モードに切り替えました。

このようにモードを切り替えることのメリットは、とにかく学習が止まらないということです。 興味の持てない教材ではどうしてもその教材を開くのに敷居が高くなってしまいます。 自分では意識しないのですが、なんとなくモチベーションが下がってしまって、いつのまにか勉強時間が減ってしまうのです。

その一方で、デメリットもあります。 例えば2時間の映画のうちの前半の1時間を鑑賞の為に見てしまうとすると、その1時間はあまり勉強になりません。(もちろん日本語字幕にしても音声を学習言語にしていれば、少しはインプットはできますが)

とはいっても、僕のヒンディー語のように初級レベルの場合、後半の1時間を勉強モードで視聴するためには何時間もかかります。最近は読むペースが上がってきましたが、台詞を全部読むようになった最初の頃は映画の10分を見るのに勉強時間は1時間ぐらいかかっていました。つまり、後半を勉強モードで見るには6時間ぐらいかかっていたのです。

それを考えると、最初に1時間ぐらいかけてその映画の世界に入るのは、それほど時間の無駄ではないかもしれません。何と言っても、その映画の世界に入り込んで勉強するモチベーションがない場合は、後半の部分を勉強する何時間ものインプットができなくなってしまうのです。そのためにはちゃんと最初に時間を取ってモチベーションをあげておく必要があるでしょう。

また、同じ映画を二度見るという方略もあります。最初は鑑賞モードで見て、次に勉強モードで見るわけです。ただ、これはその映画を心から愛している場合はいいのですが、そこまで愛していない場合や、「もっと広くいろいろな映画を見たい」と思っている場合にはうまくいきません。僕の場合は、いつの間にかネットフリックスを開く時間が少なくなってしまって、結果的にうまくいきませんでした。同じ映画を勉強のためにもう一度見なければならないのが、億劫に感じてしまっていたのでしょう。

【CBLLのレベル別視聴方法の変遷】

これはあくまでも僕の個人的な体験なのですが、学習言語のレベルが上がるにつれて、勉強方法も少しずつ自然に変わっていきました。

最初は、自分の知っている語彙や文法があまりにも少ないので、膨大なセリフの中から「がんばれば意味がわかる」というセリフを抜き出すぐらいしかできません。この頃は、LLNのフレーズに星マークをつけるという方法が非常に効果的でした。自分のレベルでも分かるセリフだけに星マークをつけておくと、LLNではマークしたセリフだけをリストに表示する機能があり、それがまさに自分のレベルに合った初級の教科書になるのです。

この段階での勉強方法については、以下の記事で詳しく書いています。

むらログ: LLNで映画が「初級」教材に! http://mongolia.seesaa.net/article/477884160.html

この段階では、1文ずつオートポーズ(自動一時停止機能)を使いながら見ることは見るのですが、基本的に字幕の翻訳を見ないとほとんど分からないので、まず翻訳を読んでから短くて分かりそうだったらオリジナルのヒンディー語を読むという感じです。全部を読むのではなく、選択的に読めそうな部分だけ読むわけですね。

それでも、自分のレベルと、そこで話されているヒンディー語のレベルの圧倒的な差があるので、あまり長い時間をこの勉強方法には投資していませんでした。毎日Duolingoは使っていたので、一日15分ぐらいのDuolingoが僕のヒンディー語の勉強時間のほぼ全てでした。CBLLとしてこの時期に勉強していたのはバーフバリのヒンディー語版でしたが、この映画一本を視聴するのに何週間もかかったように思います。一文を理解するの10分とかかかることもありました。

そこから少しだけレベルが上ってくると、ようやく、字幕の全てに目を通すことができるようになります。このときに僕がハマってしまった間違いが、前の節で書いたように、一度鑑賞モードで見た映画を、勉強のためにもう一度見るという方法です。これは知らない映画を鑑賞するよりも多くのモチベーションを要求するようで、僕の環境ではうまくいきませんでした。

それで、今度は「まだ見たことがない映画を始めから全部オートポーズ(自動一時停止機能)をオンにして、知らない単語はすべて辞書でチェックしながら見る」という勉強方法に挑戦してみました。辞書でチェックするとは言っても、LLNには字幕に辞書が埋め込まれているので、単に字幕の中の知らない単語をクリックするだけです。それでも、膨大な量のセリフの全てに目を通すのは、この段階の僕にとってはかなり大変なことでした。この方法で最初から最後まで字幕を読んだ映画は「スケーターガール」という作品でしたが、時間をかけながらも何とか最後まで一本の映画のセリフを全部目を通すことができたというのは、僕にとって非常に達成感のあることでした。もちろん、全部を理解できたわけではありません。意味は翻訳から分かりますが、「ヒンディー語のこの表現がどうしてこの字幕になるのか」ということが分からない部分はまだ大量にありました。しかし、それでも「全部目を通した」というのは大きなメルクマールだったように思います。僕が英語の本を初めて読み通せたのは高校生の時で、映画『Heaven can Wait』のノベライゼーションでした。『スケーターガール』を視聴し終えた時も、その時と同じような達成感で、「これからどんどん読んでいくぞ!」という自信に繋がりました。

ところが・・・というのが語学習得のよくあるパターンなのですが、実はその後、「これからどんどん読んでいくぞ!」という風にはいかなかったのです。なぜかというと、最初は「とにかくがんばって一本の映画の台詞を全部読む」ということが目標になって、その目標を達成することがモチベーションになっていたのですが、映画を何本かそうして見てしまうと、それはもはや日常の一部になってしまって、モチベーションにつながらなくなってしまったのです。星飛雄馬の時代ならそれでも頑張る人もいるかも知れませんが、1967年生まれの僕でさえ続けられないような方法では、生まれたときからプレステやインターネットがあった今の若い人が続けられるわけがないでしょう。つまり、CBLLの学習方法として他の人におすすめするのは無理があります。

それが特に顕著に現れてしまったのが、今回お話している『Pagglait』だったのです。

それで、これからしばらくは、映画の前半は鑑賞モードで見て、後半を勉強モードで見るという方法を続けてみたいと思います。この方法で10本ぐらい見たら、もしかしたら字幕を読むスピードも上がって、前と同じように最初から全部1文ずつ読んでもあまり負担に感じなくなるかもしれません(が、やってみないと分かりません)。

さて、今日はCBLLの中のたくさんの映画を教材に使うという立場ついて書いてみましたが、これとは全く別のCBLLのアプローチとして、一つの作品にハマってしまった人がその作品だけを何度も繰り返して視聴しながら螺旋状に語学を習得していく方法もあります。これについても以前ハンガリー語を勉強していたときに僕自身が経験しているので、また別の機会に書いてみたいと思います。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: LLNで映画が「初級」教材に! http://mongolia.seesaa.net/article/477884160.html

Pagglait https://www.netflix.com/title/81242571

TE3N https://www.netflix.com/watch/80113673

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