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非文がないのに文法授業?

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて、 もう何年も前のことですが、海外の継承語のクラスを見て驚いたことがあります。そこは国際結婚をしている家庭の方が多くて、特に父親よりも母親が日本人であるパターンが多かったので、日本語はある意味お子さんたちにとって母語でした。ただ、昼間に通っている現地の学校が日本語の環境ではないので、週末の日本語の学校の授業に出てくる言葉の意味が分からなかったり、長くて複雑な構成の文章を読んだりするのはとても大変なお子さんが多かったように思っています。もちろん漢字も難しかったようです。

そういう状況なのに、僕が見学させていただいたところでは文法の授業をしていたのです。品詞名を覚えさせたり、例文を出してその中の言葉の品詞は何かと質問したりしていました。

これには本当に驚きました。

そこに通っているお子さん達は、少なくとも友達同士の会話など(いわゆるBICS)は普通の日本人の子供と同じようにすることができます。日本語を第二言語として勉強している人によくある非文などもありません。ということは、そのお子さん達は日本語の文法を習得していると考えることができます。そして、そのお子さんたちが困っているのは、上にも書いた通り、教科書に出てくる「平行四辺形」などの難しい言葉や、漢字の読み方や、長くて複雑な構成の文章を読んだりすることです。

これはとても多い誤解なのですが、品詞名を知らないとか、例文の中の言葉の品詞が分からないということは、その学習者が文法を習得していないということを意味しません。文法を習得していないために起きる問題は、文法的ではない文を産出することです。文法を教える必要がある学習者は、文法的でない文を言ってしまったりする人であって、品詞名が答えられない人ではありません。

文法的な間違いがないということは、文法がちゃんと使えているということです。ちゃんと使えている学習者に、敢えて品詞名などを教える必要はまったくありません。ゼロです。

だとすれば当然教えなければいけないのは文法ではなく漢字や読解力のはずですよね。

文法だけではなく、「平行四辺形」のような学校の外では使わない日本語も全く教える必要はないのではないかと僕は思っています。なぜならそうした数学的な概念などは昼間に通っている現地の学校で現地語で学ぶことができるからです。

それで僕がおすすめしたいのは、二つです。

まず、その子さんの年齢や知的な関心のレベルに合わせたルビ付きの物語などです。ルビがふってあれば少なくとも漢字の読み方はどんどん自律的に覚えていくことができます。

前にも書いたことがありますが、「かいけつゾロリ」シリーズとか、「ハリーポッター」シリーズとか、おもしろくてどんどん先を読みたくなるようなコンテンツがおすすめです。それがむずかしければ、第二言語として日本語を学ぶための多読シリーズもいいでしょう。

もう一つは、教室のスクリーンで日本語の字幕がついている日本語のコンテンツをたくさん見せることです。文字だけのコンテンツでは難しすぎるお子さんでも、映像と音声があればかなり大量に文字のコンテンツを読むことができるようになります。こうしたコンテンツの字幕には難しい漢字も出てきますが、そういうのは全部スルーしてもいいでしょう。音声も映像もあるので、スルーして困ることはありません。そしてその学年で学ぶべき漢字が出てきたらそこで字幕を止めて、その読みを確認するのです。文法ではないけど、まさにフォーカスオンフォームですよね。こうした経験をたくさんしていけば、じきに映像や音声がなくても文字だけのコンテンツがたくさん読めるようになるでしょう。

繰り返しますが、国際結婚家庭などで文法的には目立った間違いのないお子さんが日本語力で困っている場合、文法を教える必要は全くありません。それよりも足りなくて困っている能力を伸ばしてあげることが先決です。そしてそれは品詞分類などの文法的な知識ではありません。

そして冒険は続く。

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