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【詩】魔女の孤独

薄暗くぼんやりした部屋に明かりを灯し、
暖炉に薪をくべる。

ナツメグに、黒すぐりの実、鷹の爪。
埃かぶった写真立てに息をふきかければ、
懐かしい顔がじっとこちらを見つめる。
傍らに置かれた髑髏を撫で、古文書を漁る。

何度も読み通した古代ルーン文字。
今度こそはとフラスコに手をかけ、
アルコールランプに火をかけ、
ビーカーに注ぎ入れる。

ツンとした匂いにつつまれながら、
湯を沸かす。
もはや空腹を感じる事はないが、
惰性に夏ミカンの砂糖漬けをつまむ。

棚の奥底に眠る古びたサンザシの杖は、
一振りすれば、おおむね事足りるものの、
もう使う事はない。

夜型になったのは、いつからだろう。
あと数十年もすれば人の気配が恋しくなり、
また真昼の太陽を拝むのだろう。
そうしてまた繰り返す。

若き勇者を見送ったのは、いつの日だろう。
彼の者はすでに、伝説となりぬる。

不意に、外の扉に提げた胡桃の殻が、
カラカラと乾いた音を立てる。

ハッと目を向ければ、
夜風のいたずらと知らされる。

ため息をつきつつ、
ビーカーに再び目をやると、
黒い煙が輪を描いてコポリとわき、
ああまた失敗かとため息を重ねる。

棚の髑髏を持ち出し、抱えてみる。

大丈夫。時間だけは、たっぷりある。


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