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新型コロナ感染症の用語解説ー特に紛らわしいあたりを中心にー

 kは画像診断医なので感染症に詳しくない医師※・・・のはずなんですが、勉強してるうちにそれなりに詳しくなったようなので、以下の内容を説明します。基本事項も含まれますが、今も区別が付いていない方から質問をいただくので、個別対応するよりnoteにまとめようと思いました。

※現在は米国 Johns Hopkins University COVID-19 Contact Tracing修了。

【目次】

1.ウイルス名と病名

2.無症候性感染と潜伏期の違い

3.PCR検査とCT検査の違い(おまけとして抗体検査も)


【本文】

1.ウイルス名と病名

 まず、一般的にテレビなどで言われる「新型コロナ感染症」とか「新型コロナ肺炎」というのは、医学的な名称では有りません。

 医学的な正式名称は、SARS-CoV-2がウイルス名、COVID-19が病名になります。

 ウイルス自体は、昔からある風邪のウイルスの1つである、コロナウイルスの一種です。昔流行したSARSやMERSもコロナウイルスの一種です。

 普通の風邪のコロナウイルスを旧型コロナとすると、SARSは新型コロナ、MERSは新新型コロナですから、SARS-CoV-2は「新新新型コロナ」なんですが(前前前世風に)、なんとなく新型コロナと言われてます。

 ところで・・・前前前世といえば「君の名は」に出てくる口噛み酒について。新型コロナは唾液にもウイルスが含まれます。やるなら相当アルコール度数上げないと危険です。いやどうでもいいですね、ごめんなさい。

※フォロワーさんから、アルコール度数が低くても、何年も熟成すれば大丈夫とのご意見がありました。全くもってそのとおりです。掘り下げる場所がそこでいいのかという問題はありますが。


2.無症候性感染と潜伏期の違い

 一般のヒトが混乱するのはここかと思います。どちらも症状が出てない状態で、本人自身が感染に気がついていない感染者という意味では同じですから、似てますね。でも臨床的な意味がぜんぜん違います。

 無症候性感染(不顕性感染)というのは、感染はしたけど症状が出ないまま終わるケースのことです。これはウイルスを出す量が少ないので感染力は少ないようです。

 これと似て非なるのが、潜伏期の患者。症状がないから無症候性感染と似てますが、数日後には発症する人です。新型コロナでは、発症直前の潜伏期の感染力が最も高いという話。これが感染コントロールを難しくしているところです。元気で気づいてないから動き回って他人にうつしてしまう。だから、一番ケアしないといけない人達です。

 この潜伏期の患者(まだ自覚症状はない)が布マスクでもいいからマスクをすることが、集団としての感染拡大を防ぐ(公衆衛生的にはR値を下げる)重要なファクターになります。

 この辺の話はこちらの記事と関連します。


3.PCR検査とCT検査の違い(おまけとして抗体検査も)

 どの検査も完璧ではありません。

 感度(病気の人を拾い上げる確率)は100%ではないし、特異度(正常な人が陰性になる確率)も100%ではありません。特に問題になるのは偽陰性率(本当は感染しているのに検査は陰性になってしまう率)です。これが高いと、本当は感染しているのに自分は大丈夫だと勘違いして、他人にうつしまくるヒトが増えてしまいます。

●PCR検査

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 ウイルスの中にある核酸(新コロの場合はRNA)を検出する検査です。元々日本の技術力の高さもあり工学的な精度は高い検査です。しかし新コロの場合は肺の奥の方に感染していることが多く、採取した検体の中にウイルスがないことも多いので、臨床的な精度はかなり下がってしまいます。まあBALF(気管支肺胞洗浄液)を検体として出せば感度は高いのですが。(人はそれを鬼という)

 という脱線はともかく。

 Lauren M. Kucirka, MD, PhD らによる7論文(合計1330検体)を用いた検討で、平均的潜伏期5日と設定したときの、RT-PCR検査の偽陰性率(本当は感染しているのに検査は陰性になってしまう率)は以下の通り。

感染初日 100%
発症前日 67%
発症当日 38%
発症3日 20%
発症4日 21%
発症16日 66%

 発症当日でも6-7割、発症3-4日でも8割しか陽性になりません。残りが偽りの安心感(陰性証明という免罪符を貰ったという勘違い)でうつしまくる世界は・・・ゾッとしますね。

※注 感染前日までのデータが不十分というご指摘あり。確かにそのとおりなので解釈に注意を要する論文です。ただし3日目以降のデータはこんなものかなという印象。(けんもう新型コロナ対策本部@kenmomd様、ご指摘ありがとうございました)

 PCR検査のこの辺の問題点を " ついったらんど " で根気よく啓蒙してくれたのが医クラの先生達で、この先生たちの働きと、これに耳を傾けてくれた日本人の民度の高さが、ファクターXの1つじゃないかと踏んでます。

 PCR検査は「不安だから全員にやる」のは明らかな間違いであると同時に「検査前確率を十分に上げて行う」ことは望ましいのです。全否定も全肯定もだめ。

 これを(不安なら全員)PCRシーヤ派 vs.(不安を理由に)PCRスンナ派と喩えて、キャッチーにして拡散した先生たちのユーモアセンスもすごいですね。キャッチコピー大切。


●CT検査

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 これはkの専門分野。新型コロナの肺のCTでは、初期に丸みのあるすりガラス用所見(マリモサイン)が見られるという話をTwitterに投げて、ドクターの皆様にご賛同いただけているやつですね。

↓ こういうの ↓

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 CTでの肺炎像は結構早く出ます。症状出る前から肺炎像が出る人もいるし、症状出て2日で44%CT陽性とか、PCR陽性より3日くらい前に出るという論文もあります。論文と自験例あわせると、症状出る直前から4日目までに肺炎像が出る感じでしょうか。

 画像は初期像はかなり特徴的で、他にこんな丸いすりガラス像を作るウイルス性肺炎なんてないですから、特異度が高い、かなり有用な検査です。

 問題はこちらも偽陰性があること。新型コロナ感染症は必ずしも肺炎を起こすとも限りません。(恐らく)消化管から全身に回って血管炎になるケースもあるようなので、そういうケースは肺のCTで検出できません。ウイルス性の腸炎や血管炎はCTではほとんどわからないし。まあどの検査にも限界はありますね。

 とはいえ、CT検査のほうがPCR検査より時間が経っても所見が残るし、all overでの感度は高いと思います。


●おまけの抗体検査キット

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 一滴の採血で検査できるキット・・・というと夢のように聞こえますが、新型コロナに関しては問題山積で、ぶっちゃけ現時点で信頼できるものはないです。なのでおまけ扱い。

 なにしろキットの感度特異度がどの会社のものも低くて、外部調査では同じ検体を使っても各社の製品で結果がバラバラという始末。もはや、何も言ってないのと一緒。

 さらに抗体検査は、IgMですら免疫が確立されないと陽性にならず、最も感染力のある発症直前の潜伏期に間に合わない。だから個人の検査結果を見て二次感染を防ぐ目的でやるのはあまりにも・・・馬(自粛)。

 なおそのへんはこれがわかりやすい。


 あと一般人に多い大勘違いとして「陰性でよかった♪」というもの。抗体検査は一般的に、IgG抗体陽性(=既感染で免疫がついているからもう感染しないしワクチンも不要な状態)を確認して喜ぶための検査です。風疹の抗体検査とかまさにそうですから。

 こんな基本もわからずに検査を受けるなんてお金と時間の無駄遣いでしかないです。一般人が最初からそこまで理解しているのは無理な話なので、検査を受けるお客さん(病気ではないので患者さんではない)には検査の目的と結果の意味とlimitationを病院がしっかりと教えるべきです。

 儲けたいヒトの 養 分 にならないように気をつけましょう。

 もし優秀なキットが出れば、公衆衛生的に集団免疫がどの程度進んだかを見るために、無作為サンプルを一般人から選んで検査するなら意味があります。個人には何のメリットもないけどね。

 最後に、マリモサインを " ついったランド " で呟いた者として。

 検査について追記すると、日本はPCR検査が少ないって叩かれることがありますが、日本のCT保有台数は世界に類を見ない多さなので、症状から確実な時はいきなりPCR検査とCT検査を同日施行、微妙な症例はとりあえずCTをやってスクリーニングしてるのが現状です。PCR検査する前に多少はCTで絞り込んでいるので(偽陰性もあるので過信は禁物ですが)、PCR検査だけを見て検査が足りないと叩くのは、現状知らないなあと思うところです。

↓COVID-19における「CTが先」の戦略。Lancet Respiratory Medicine

https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30071-0/fulltext

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 そのCT所見を言えた自分は、少しは日本のコロナ事情に役に立てたかもしれない。・・・・だといいな。


 末筆になりますが、PCR検査の適正化についての情報発信にご尽力いただいた医療関係者の皆様、ジャーナリストの方々に御礼申し上げます。私がフォローさせていただいているアカウントを中心に2~3月頃に影響力が大きかったアカウントを、独断と偏見で載せております※

(※2020年8月現在、検査体制も当時より整い、エッセンシャルワーカーへの検査を検討し始めています。2-3月当時はむやみなPCRは非常に危険でしたので、当時のPCRへの熱狂を抑える方向は極めて妥当です。)

 もちろん、ここに載せきれていない先生も沢山いますし、多分私が知らない先生も活動していたと思います。

 本業が忙しい中のボランティアにも関わらず、これだけ多くのヒトが一枚岩で「不安に駆られてPCR検査に殺到すると危うい」ことを啓蒙なさったことが、ギリギリの所で医療崩壊を免れた原因の一つと考えています。

 なお仲が悪いので隣に載せるなとかそういうクレームがあればできる限り対応しますw

 なお以下に挙げる方々は「適正化」にご尽力なさったのであって、検査を否定しているわけではありません。誤解なきようにお願いします。

岩田健太郎@georgebest1969
病理医ヤンデル@Dr_yandel
EARLの医学ツイート@EARL_Med_Tw
岩永直子@nonbeepanda
坂本史衣@SakamotoFumie
Takayuki Miyazawa@takavet1
Taka@mph_for_doctors
おると整形外科医@Ortho_FL
ふろ仙人@肝胆膵内科@doctorhirosan
産婦人科医@syutoken_sanka
kutsunasatoshi@kutsunasatoshi
仲田洋美@drhiromi
岸田直樹@kiccy7777
ひまみみ耳鼻科医@ent_univ_
たぬきち@TOTB1984
萩野昇@Noboru_Hagino
峰 宗太郎@minesoh
Medtoolz @medtoolz
ちんにい@chinniisan
Sekkai @sekkai
ばりすた脳神経内科医@bar1star
キュート先生呼吸器内科医@cutetanaka
ぽろりおかあさんといっしょ@ampc20160430
いちは@BookloverMD
Drゴクウ@Drhimajin
麻酔科まるか@Masuika_Maruka
iJohannes5430@iJohannes5430
コードブルーフラワー@codeblueflower
早川智 @francescodamil6
小野昌弘@masahirono
KGN@KGN_works
Tomo@Tomo20309138
きゅーさん産婦人科@kyusan_obgy
やっくん ERxICU@ERxICU_yakkun
ふくろう@放射線科医@tk2cafe
simesaba0141/MJ号@simesaba0141
Nagata Harunori/永田晴紀@nagataharunori
るんばーる@coffee_lumbar
佐々木俊尚@sasakitoshinao
田舎の元外科医@inakashoge
暇プリン@bored_cvs

(敬称略・順不同)


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