「恐竜」と出会った人類

「恐竜」という言葉は、おそらくほとんどの人が知っているだろう。また「恐竜」の姿をイメージするのも難しくないはずだ。

このように、現代の多くの人にとって「恐竜」は身近な存在となっている。しかし、「恐竜」という言葉が生まれたのは、1842年と言われている。計算してみると、まだ200年も経っていないことがわかる。「恐竜」は比較的最近できた言葉なのだ。

まだこの世に「恐竜」という言葉がなかった1824年、イギリスの古生物学者である「ウィリアム・バックランド」は巨大な爬虫類の化石を発表した。この化石はメガロサウルス(巨大なトカゲ)と名付けられた。これがのちに、「恐竜」として分類される生物の先駆けとなる。

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ウィリアム・バックランド:イギリスの地質学者、古生物学者。オックスフォード大学教授。奇行でも有名で、研究室でハイエナを放し飼いにしたり、ワニやハリネズミの肉料理を招待客にふるまったりした。

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メガロサウルス:「恐竜」という言葉がなかった時代に発見され、のちにはじめて学名が与えられた恐竜となる。実は、同じ時期に発見されたいくつかの断片的な化石が、とりあえず「メガロサウルス属」として分類されてしまったことが原因で、現在もあまり詳しい実態がわかっていない。

1825年、メガロサウルスの次に「イグアノドン」という恐竜(当時はまだ巨大爬虫類として認識されていた)の化石が発表される。

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マンテルの論文に記載されたイグアノドンの歯

イギリスの開業医だった「ギデオン・マンテル」は、奇妙な歯の化石を発見する。専門家に鑑定を依頼するも満足する答えを得られないマンテルは、この化石を自ら調べていくうちに、イグアナの歯によく似ていることに気づく。そしてこの歯は巨大なイグアナのような植物食爬虫類のものであると確信し、この生物をイグアノドン(イグアナの歯)と命名することになる。

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ギデオン・マンテル:イギリスの医師。本業の傍ら研究を行った。1833年にはヒラエオサウルスという巨大爬虫類の化石も発見している。

このように、大昔に巨大な爬虫類が地球上に生息していたことが次第に明らかになってきた。

イギリスの古生物学者「リチャード・オーウェン」は、イギリス各所で発見されたこれらの化石を再検証した結果、現生爬虫類とは異なる特徴を有していることを発見する。そして1842年、これらの大型陸生爬虫類の総称を「ディノサウリア(恐ろしいトカゲ)」、つまり「恐竜」とすることを発表する。

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リチャード・オーウェン:イギリスの古生物学者。「恐竜」の名付け親。生涯に800以上の論文や著書を発表している。

私たちは、小さい頃から「恐竜」という存在を身近に感じている。図鑑には多種多様な恐竜が描かれているし、ドラマや映画に登場することも珍しくない。博物館に行けば、実際の化石を見ることもできる。

しかし「恐竜」という言葉の歴史は浅い。逆に言えば、「恐竜」という言葉が短期間で多くの人に知られるようになったことがわかる。ここには人間の「恐竜」への知的好奇心の高さが読み取れる。どんな姿だったのか、何を食べていたのか、どれほど獰猛だったのか…。未知の部分がまだまだ多いからこそ、私たちは恐竜をもっと知りたいと思う。

しかし、彼らは「化石」としてしか私たちの前に現れてくれない。私たち人類は、「恐竜」と出会ってからずっと「片想い」をしているのかもしれない。


参考文献

平山廉「新説恐竜学」株式会社カンゼン

川上利人「鳥類学者無謀にも恐竜を語る」新潮文庫


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