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危険予測と孤独と冷や汗

免許を取った年齢はわりと遅かった。26歳ぐらいだったと思う。新潟の教習所で、いわゆる合宿免許ってやつだ。車と中型バイクの免許を同時に取得するべく日々講習を受けていたのだが、どちらも一度も引っ掛かることなくすんなりと合格をもらうことができた。後日談だが、数人の先生たちから「免許を一度取り消しになって、もう一度取りにきた人」と思われていらしい。理由は、初めてハンドルを握ったとは到底思えないほど運転がうまかったからだそうだ。たしかに左右のサイドミラーにバックミラーを常にぐるぐる見ながら周囲の状況は全部把握できていたし、左右の前輪が道路のどのあたりなのかなんとなくの位置関係も体感として理解できている感じだったので、おそらくそのあたりを観察してくれていたんだと思う(実際に講習中の車内では、わたしの目線がどこにあるのかを全部チェックされていた)。そして「危険予測」。この角を曲がったらもしかしたら飛び出しがあるかも、この直進してくる車両は信号で止まらないかも、前を走っている車両はウインカーつけずにいきなり曲がるかも、などなどいろんな想像をしながら走っていたよね、と。これもあとから褒められたことだった。
あれから20年。3台の車を乗り継いで、乗り物は電動チャリに変わってしまったけれど、道を走るときの危険予測機能は変わらず発動中。夕暮れ時、中目黒の自宅から白金の事務所に向かう途中、おばちゃんチャリがまあまあなスピードで出会い頭に飛び出してきた。咄嗟にブレーキをかけたので何もなく済んだんだけど、そのブレーキは「急ブレーキ」ではなくわたし的「危険予測ブレーキ」だ。そのおばちゃんにはなんの影響もない。つまりそのおばちゃんからすれば「ん?」ぐらいの離れた距離感でひとり「おおっ」と小さく声だしてブレーキかけてグラグラしてるおじさんがいる、ぐらいの見え方だったと思う。おばちゃんはわたしをチラ見するかしないかぐらいのいや、チラ見もしてないな。ほぼ眼中にない感じでもちろんスピードもゆるめることなくシャーっと直進していなくなったし、でもわたしは久しぶりにけっこうビビったし、ちょっと冷や汗もかいた(寒いのに)。ジワリとかいた冷や汗と一緒に恥ずかしいような悔しさや自意識が招いた孤独も蒸発したのだった。

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