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ココイチしか食べない 十四日目

昨日は英傑大戦のプレイでヘトヘトになっていたので、初稿として前回の記事を書き上げたのち倒れ込むように眠った。起きたら完全に寒くなっていて、いつもより慎重に着る服を選び、いつものようにちいさな栞子さんと一緒に家を出た。

27食目


27食目 ベジカレー300g チキンカツ ダブル

ふざけるなよ、とひと目見て思った。手なりで栞子さんと写真を撮る間も、落胆と失望、それから怒りが胸の奥にふつふつと煮えていた。

何の味付けもなく量もない、前時代的な冷凍のチキンカツである。同じものを店で金を払って食べた経験が思い出せないから本来の価格はわからない。だがそれはあまりにもチープすぎるように目に映った。携帯で以前食べた一枚ヒレカツの時の写真を取り出し、見比べ、ため息をついた。自分の中にある、こうあって欲しいと思う揚げ物の姿と、何もかもがかけ離れている。カツと呼ばれる、肉を揚げたものの料理に対して失望を覚えたのはこれが初めてだと思う。これが295円で提供されていることを考えると気が狂いそうだった。それが自分のせいとはいえ目の前に二つも提供されていることを認めたくなかった。ベジカレーにすら失礼だと感じた。トッピングランクぶっちぎりでワースト。比較することさえもおこがましい。
このクオリティが続くようなら、今日まで14日間続けてきたこの生活もnoteも全て反故にして、何の意味もなかったと吐き捨ててインターネットから姿を消そうかとすら考えた。誤解のないように言っておくが、これは鷺ノ宮がお金を払って、他のトッピングと比べてみて感じている怒りだ。お店のアンケートに書こうかとも考えたが、失意に沈む時間が長すぎて昼休みが終わりそうになっていたし、この店舗が悪いわけでは断じてない。もっと然るべき部署に連絡するべきだ。だが食べきるには食べた。お残しは赦されない。


28食目


28食目 ベジカレー300g パリパリチキン ダブル

救世主だ、と思った。灰色に染まった視界に鮮やかな狐色だけがリアルな色彩を放っている、救国の日の出を連想させるその色を前に、思わず一緒に来ていた栞子さんと写真を撮った、のち、ため息が漏れた。

美しく、そして力強く輝いている。

この二週間ココイチに来ていて、他の客がオーダーするトッピングの中で一番登場回数が多い、それがこのパリパリチキンだ。鷺ノ宮も肉類トッピングの中ではこれを一番期待していた。逆に言えばこれがダメだったらココイチとの付き合い方を考え直そうとすら思っていた。

それがどうだ、巨大な一枚肉を狐色に揚げた、この鶏脂の輝き。実際ファミチキのような衣付きの成型肉よりも、名の通りセブンイレブンの揚げ鷄に近かった。そして揚げ鶏と同等かそれ以上のボリュームが展開されている。美しかった。確かな存在感に頼もしさを感じた。一口食べた瞬間、色彩の失われた灰色の世界で、ヘルスが回復したのと全く同じ様に色が戻っていった。これは人類全ての希望の権化だ。瓦礫まみれの街で芦田愛菜がイェーガーを見上げて微笑んだように、おれの心の雨も止み、心の中には笑顔が広がっていた。世界を救う唄が聞こえるかのようだった。

これを書いている今も、昼に食べたチキンカツと夜に食べたパリパリチキンが同じ295円台のトッピングである事実を全く受け止めきれないでいる。それでも同じ日に彼らに出会えたことは決して偶然ではないのだろう。きっと落ち込むべくして落ち込み、救われるべくして救われたのだ。ココイチも鷺ノ宮も本気で生きているからこそ、こういう日がある。



すぐには語ることのできない、だけど人生で忘れようのない大切な一冊に出会えた。読書という体験が劇的に刺激的なものであることさえも思い出させてくれた。最高のひとつ上にある本だった。やっとまた、今日ここから始められそうだ。



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