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ショートエッセイ:神秘の島、久高島―沖縄の神々に導かれて

久高島は沖縄本島近くにある小さな島。
しかし、行くためのハードルは結構高い。

「久高島の神様に呼ばれないと、島に行くことができない」

という言い伝えがあるくらいなのだ。

だから、久高島を訪れるべく沖縄本島の安座真港を訪れた私たちは絶望した。
海が荒れていて、フェリーも高速船も欠航していたのである。
しかも私たちの沖縄旅行は今日が最終日なのだ。後日リトライというわけにもいかない。
「久高島の神様に拒否られたんだ…」
肩を落としていると、不意に声をかけられた。
「あの~、私久高島の親戚のところへ行くので、よろしかったら水上タクシーをシェアしませんか?」
振り返ると、大学生? 新社会人? 20歳くらいに見える女の子が立っていた。 
同じく港で途方に暮れていた夫婦も誘い、私たちは5人で小さな水上タクシーに乗り込んだ。
揺れる! それほど海が荒れていたのだ。気持ち悪い。胃がひっくり返る。久高島の神よ、私たちが訪れるのがそれほどイヤか。
(もうダメ。吐く…!)
覚悟を決めて何か袋を探そうとした瞬間、船がガーンと接岸した。
私はフラフラと千鳥足でタラップを降りた、た、助かった…。
久高島入島試験、ギリギリで合格か?

いつの間にか輝くような日光が島を覆っていた。
自転車をレンタルして、旦那と私は島一周サイクリングに出かけた。
小さな島だが、ここは沖縄の神秘の宇宙である。

五穀発祥の伝説の地、光に満ちたイシキ浜。

島の北岸にあり、澄んだ海水が波となって大きく砕け散るカベール岬。
遠い昔、琉球の創世神アマミキヨが降誕した地だという。

島一番の聖地、クボ―御嶽。
かつては12年に1度、島の神女たちが「イザイホー」という儀式を行った。
現在では立ち入り禁止である。
うっそうと木の茂った入口から中を覗く程度で諦めるしかない。

一通り島を見て回り、昼食を摂りに食堂に入ると、あの水上タクシーの女の子がお祖父さんらしき人物と、沖縄そばを食べていた。
彼女に少し島の話などを聞かせて貰いながら、島の名産であるプチプチして美味しい海ぶどう丼を頂いた。

帰りはフェリー。行きのあの悪夢のような揺れはなく、落ち着いて航海を楽しむことができた。

あれから何度か久高島を再訪したいと旦那と話し合うのだが、結局一度も実現していない。そういうときは島の神様から呼ばれていない時らしいので、仕方がないのかもしれない。
しかし、唯一の久高島行きだって相当危ういものであった。
あの女の子。港で彼女が声をかけてくれなければ、確実に諦めて帰っていた。
今でもふと、思うのだ。
ひょっとして彼女は、島の神女の子孫だったのではないか。
そしてあの時彼女は、自分でも気づかずに神女の役割をして、私たちを久高島に導いてくれたのではないだろうか。


ヤグルガー(神女の井戸)

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