海賊と暮らすということ


はじめに

この話は、過去にTwitterで途中まで更新していた実体験の話と同じです。
どうにかこの体験を笑いモノに昇華したい思いで改めて文字に起こしますが、事の発端は4〜5年前にもなる為、私の記憶領域では全ての出来事を保存しきれていません。
過去の文をそのまま流用したい気持ちは山々ですが、何故か当時のTweetは無くなっており、元データも機種変更で消滅しました。何をやっているんだ。
よって、うろ覚えになってしまった部分に関しては過去に公開したものと食い違っていたり、消失している可能性があります。何卒ご理解頂きたいです。
当時読んでくれていた方々に対してもなるべく飽きさせぬよう、書いていなかった印象深いエピソードも織り交ぜているので、これで勘弁してねという気持ちです。

ちなみに、この話に本物の海賊やそれに関連するものは登場しませんし海も出ません。こればかりは私も無念です。


それでは何卒よろしくお願いします。



BAD END

『暑すぎて終わった関東の田舎』の夏。当時、身内の伝手でかなり安く一軒家を借りることになった。なんでも身内の間ではお化け屋敷と言われていて、以前の住人が呼んだ霊媒師には「しっかり霊道があるのでどうにも出来ない!」と言わしめた物件だそう。自分はお化けの存在を信じていないので、その話を聞いても安くてデカくて嬉しいだけの物件だった。引っ越しの際、面白半分で試しに自称霊感持ちの友人を“引っ越しの手伝い”と称して呼んだ。
しかし残念ながらその友人は、駐車場を掃いていたら「ねぇ2階から見られてる気がする」と言いだしたり、ある部屋を見るなり「ここは多分入らないほうがいい」と言って封鎖しようとしだしたりして流石に怖くなった。気持ち悪いので俺が住んでいる間その怖い部屋は開けなかったし、後で見てみようと思っていた大島てるは見なかった。もし見たとして、有っても無くてももう救われないから。
そんな物件ではあるが、こんな自分なので引っ越しを終えて数日経った頃にはあの時の恐怖心は忘れ去っていた。陽当たりが良く無い上に虫が多いので換気が大変という点を除いて、順調に暮らしをやっていた。しかしそれも束の間、最重要の分岐点に立たされる事になる。

当時の私の仕事では、不定期に手伝いを呼んでいた。謂わば派遣や日雇いのような人。必要な時に必要な人数だけ雇う単純な仕組みだ。その仕組みを利用して働きに来る人間のバックグラウンドは様々で、浪人や学生、自営業だが経営が奮わない人、仕事をいくつも掛け持ちして貯蓄したい人、そして終わり人。終わり人というのは年齢の話ではなく、『社会的に大丈夫とは言えない』という意味だ。
地方にしては珍しく、日払手渡しで給与を支給するので、即金性を重視する人間が多く働きに来ていた。だが募集する内容には、ある程度体力と柔軟性を必要とする事も多々あって、次第に何度も来る人間は限られてくる。そして何度も働きに来る人とは徐々に打ち解けて、話や気が合えば仲良くなっていくのはごく自然な事象だ。自分がその人等に仕事を振る立場にある為、ある時を境に殆どメンツを固定して決まった4人になっていた。
その4名を簡単に紹介すると、
酒/音楽/アニメが大好きなTHE・破天荒のNさん。
酒/音楽/アニメが大好きな姉御肌のAさん。
酒/服/アニメが大好きないじられキャラのKさん。
彼らの趣味を並べてわかる通り、共通の話題が多い事が功を奏し休憩時間の雑談等を皮切りにかなり意気投合して、今でも定期的に顔を合わせる人達だ。そして欠かす事の出来ないこの話の最重要人物であるX。
4人目となるこのXについてもプロフィールを紹介したい。

上記の3人は離れてはいるものの皆20代だが、Xは40歳前後(だったと思う)。その当時は独身だが婚歴があり、その相手との子供(親権は相手?)も居て、定職は無く派遣を転々としている。九州の生まれで20代の頃に関東へ来たらしいが、その理由はわからない。今までにはヤクザをやった後に土木関係の仕事を自営していた事もあったようだ。そう彼は言っていた。見た目はかなりの巨漢で背丈1.8m弱くらいあり、愛車の原付スクーターのタイヤはいつも苦悶の表情を浮かべている。顔の半分くらいはヒゲに覆われており、いつも髪は伸ばしっぱなしのようで、普段は纏めていてツーブロックが露見している。顔立ちは比較的整っていて、鼻が恐ろしく高い。目もくっきり2重で鋭く、眉毛が殆ど無い事も相まってかなりコワモテな顔立ちだ。そして、歯が何本か無い。出会った日から最後の日まで、変わることなく歯が無い。会話する時に見える限りでも前歯とその周辺で3本くらい欠損していることがわかる。私は、歯が無いまま生活している人の前提条件に“老人である事”を思いがちなので、初めて見た時は衝撃的だった。ちなみに前歯が無い理由についても話してくれたが、関東へ来て間もない頃に近隣のヤンキーと喧嘩をしたらバットで殴られた際に折れてしまったらしい。そういう風に言っていました。容姿と生き様の総合的なところから、まるでエドワード・ティーチのような『悪の海賊』だと思った。もしかしたら苦しそうにしている原付スクーターは、実は陸用小型船舶なのでは無いかと思った。ちなみに容姿を除いてこれらは本人の発言から書き連ねた情報であり、その殆どに確証は無いという事はご理解頂きたい。
少し長くなってしまったが、これを読んでくれる皆さんになるべく実際の彼を想像して欲しい。この『社会的に大丈夫ではない』Xもとい海賊が、俺を地獄の航海へ連れ出してくれる事になる。

その分岐はとある平日に生まれる。いつもの様に応援を呼んだ職場で例の4人が汗を流して働いていた。そんな日の休憩時間に、相変わらず他愛もない話で盛り上がっていた。私を含む20代4人は、前述の通り共通の話題やくだらない雑談で盛り上がれるが、こと海賊に関しては所々輪に入って来れる場面はあっても、基本彼発信の話題でない限りは“会話の参加者”として口を挟めない。こればっかりは単純にジェネレーションギャップという奴だろう。それを海賊自身が悲観することも無く、また20代組が気にかけることも無い。そうやって人間関係は剪定されつつ形成される。と言いたいところだが、あまりに配慮の足らないコミュニケーションは戦争の火種になりかねない。そういう状況を維持し続けると現場には形なきヒリつきが生まれる。歳下であれど、否、歳下だからこそ気を配らなければいけないのだろう。そう思い、良いタイミングで年齢が邪魔をしない話題を持ち出す。私が最近引っ越ししたという話題だ。
いつ頃、何処に、どんな家に住み始めたか。住んでみて面白い話はあるか。そんな会話で、海賊も混ざって皆仲良く話ができた。
「一軒家に一人で住んでみるとかなりデカい。自分が使う部屋以外は全て物置きと化した。」
そんな何気ない私の言葉を海賊がサルベージする。
「結構部屋余ってる感じなんだ?」
私は鈍感だがたまに察しが良くなる。彼のこの発言だけで目標地点を察した。しかし、その終着点を示さず会話を進ませる。結果を纏めると、どうやら海賊はちょうどその月の末日にアパートを出なければいけないらしい。なのでちょうど新しい居住先を探していたという。今こうして書いていてもツッコミどころは沢山あるが、渋滞を避けるため私はこの文章にそれを持ち込まない。
「家賃も払うし暫く住まわせて欲しい。」
予想通りの着地を見せる。そして私に突きつけられた、この話を書く事になるかの分岐点。この会話の間、他の20代組は口を閉ざしている。その気持ちは大いに分かるが、最年少を救う気持ちを少しは見せて欲しいと思った。私はもう自分だけの結論で、否応を選択しなければならない。
私は家賃とおおよその許容できる居住期間を示して、彼に部屋を分け与える事に応じた。当たり前だが、その選択がトゥルーエンドに繋がるイメージは沸かない。しかしその当たり前は、その後を経験した私だからこそ言えるだけであって、当時の私にその後を想像しゆる程のスキルは備わっていない。故に(実質暫く負担する家賃が減って、お化け屋敷の用心棒感覚で置いておけば悪くないな。なんとかなるわー)という短絡的な思考で舵を切った。後々聞いたが、当時20代組は3人揃って(住まわせるんだ...)と思っていたらしい。そうかよと思いながら「お前は優しすぎるからな」という使い捨ての言葉が灰になった後の私の心に投げ入れられた。

その月末には約束通り大荷物と大男が家に来た。
この船出が常に荒れ模様の大後悔とはつゆ知らず。



続く

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