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ジャン=リュック・ゴダール追悼

こんにちはRYUです。フランスの映画監督「ジャン=リュック・ゴダール」氏が9月13日に亡くなりました。日本ではヨーロッパの映画が上映される映画館が少ないので知名度が今ひとつ・・・かも知れませんが、世界三大映画祭の全てで最高賞を受賞!した世界的に評価されている映画監督です。私は20代の頃に初めて存在を知ったのですが、当時大学で文学部仏文科に在籍していたこともあり大いに影響を受けました。ファン歴は35年以上なので、今回は追悼の意を込めてゴダールを紹介したいと思います。

ゴダール的映像

最初から私見になりますが・・・ゴダール作品の最大の特徴は、その前衛的な映像にあります。フランス語でAvant-garde(アヴァンギャルド)と言うべきでしょうか。私が最初に見たゴダール映画は、1960年に発表された「勝手にしやがれ」なんですが・・・映画の冒頭で、主演女優ジーン・セバーグが Newyork Herald Tribune (新聞)の売り子として登場するシーンが強烈なインパクトでした。歩きながらアイレベルのカメラで撮る撮影方法やジーン・セバーグのベリ・ショートのスタイルなど、映像の全てが斬新でカッコいい♪  当時のフランスの若者のライフスタイルが、今そこに存在するかのようなリアリティで描かれます。最初の5分でゴダールのファンになりました。

「勝手にしやがれ」のジャン・ポール・ベルモンドとジーン・セバーグ

ゴダール的脚本

第2の特徴は、脚本ほとんど無し!で作る即興映画であること。事前に脚本が無いなんて、現在はもちろん、当時も考えられない事だったでしょうね。
ゴダール作品を見て「よくわからない映画」と感じる人は多いのですが、その原因の多くは、脚本が無いこと(=ストーリーの欠如)によるものだと思います。

「気狂いピエロ」のジャン=ポール・ベルモンドとアンナ・カリーナ。アンナはゴダールの妻だったのですが、撮影時には既に離婚していたとか。

当時のフランス文学の影響

なぜ脚本が無いのか?についてはもちろん理由があります。当時流行したフランス文学「ヌーヴォー・ロマン」(=新小説)が影響しており、ちと難しい話になるのですが、解説させていただくと・・・

20世紀初頭までの文学は「架空のストーリーを作りあげること」に注力していました。作者が緻密にストーリーの本線・伏線を作り、最後は大どんでん返しのラストを迎える!というアレです。現在でも、こうした小説や映画を「面白い」と感じる方が圧倒的に多数派だと思います。

これに対し、「それって作り話だろ?何のリアリティも無いじゃん」という視点を持ったのがヌーベル・ヴァーグの作家たちです。文学に限らず、美術などにおいても芸術の本質は「リアリティの追求」にあると私は思うのですが、「作者が作った架空の話より、現実のシーンを切り取ったほうがリアルだ」と考えた結果、ストーリー構成が無い、シーンごとの現実を切り取った文学が生まれたのです。

この方が「アラン=ロブ・グリエ」。私の卒論テーマでした。

こちらはヌーヴェル・ヴァーグの作家、アラン=ロブ・グリエの小説「消しゴム」(原題:Le Gomme )です。関心がある方は「試し読み」ボタンを押してみてください。読みにくいですけど・・・。

脱線が長くなりましたが、こうした文学の影響があって、ゴダール映画は人為的な脚本を嫌い、即興のリアルを求める作りになったのです。日本の「一期一会」の思想に近いかも知れません。
先に紹介した「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」もストーリーを追うと理解不能になりますが、個々のシーンを見ていると楽しめます。

80年代はいよいよ難解に

こんなゴダール作品、その後はさらに独自の進化?を続けます。80年代に制作された「マリア」「探偵」あたりになると、もはやストーリーが時系列になっておらず、全く「あらすじ」がありません。
時系列で追って理解しようとすると「分からない映画」という評価になるのですが・・・。そんな常識と理性のスイッチをOFFにして、目に入ってくる映像だけを見てみてください。さらに進化した?シュールな映像が楽しめます。

80年代の作品「マリア」「探偵」

ゴダール監督作品を一度では作品を紹介しきれない・・・ので今回はこれくらいに留めますが、如何だったでしょうか?

ゴダール作品はハリウッド映画の対局にある映画で、エンターテイメント性は一切ありません。そこにあるのは、その時代の情景や社会をシュールに切り取った「シーン」だけです。そんな前衛的な映像に心を動かされる少数派の方?だけがゴダールのファンになるので、今後も映画ファンの多数派に評価されることは無いでしょう。ただ、唯一無二の価値があることだけは確かです。興味を持った方はぜひ一度、この機会にゴダールの作品を体験してみてください。(RYU)