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数ヶ月よりも長い5時間で、彼女が教えてくれた大切なこと

僕は2004年の冬から2016年の春までずっと、某都立高校の女子サッカー部でもコーチをしていた。約11年半という長い年月の中では数え切れないほどの女子高校生達と関わらせてもらったのだけど、その中で、高校1年生の春に入部してきて、2年生になる前にサッカー部を辞めてしまった子がいた。

高校時代の彼女はいかにも「サッカー少女!」という感じだったけど、その半面、とてもナイーブで繊細な子だなという印象だった。
サッカー部を辞めてしまった理由はいろいろあったらしいのだけれど、その理由の中には、僕の思慮不足もあったことは確かだろうと思う。もっと彼女とちゃんと向き合って、もっともっと気をかけてあげるべきだった。

彼女が部活を辞めてからは顔を合わせることも話すこともなく、そのまま月日は流れ彼女も高校を卒業していき、もちろんそれ以降は交流も何もなかったのだけれど、ふとしたことから、Instagramでまた彼女と繋がりはじめた。

これは偶然なのだけれど彼女の家と僕の家がとても近くて、そんなこともあってせっかくだから久しぶりに会おうかということになり、2018年の秋、24歳になっていた彼女と久しぶりに再会して、地元のお店で一緒にランチをした。

自転車で颯爽と駆けつけた彼女と、ご飯を食べながらいろんな話をした。
ランチだけじゃ時間が足りない、店を替えてお茶でもしようとなり、近くにある寂れたドトールに移動して、2人でまたずーっと話をした。気づいたら、5時間も話していた。

高校卒業式の日、彼女は僕に手紙を書いて持ってきてくれていたらしい。サッカー部を辞めてしまったことを彼女も引目に感じていたらしく、そんな想いを書いていてくれたとのことだった。

でも僕は、その卒業式に行けなかった。

だから彼女があの日にそんな手紙を書いていてくれたことも、6年後に再会するこの日まで、まるで知らなかった。彼女は僕が卒業式に来ると思ってわざわざ手紙を書いてくれていたのに、本当に申し訳ないことをしてしまった。

でも、彼女が僕にそんな手紙を書いてくれていたということを知れて、すごく嬉しい気持ちにもなった。

彼女と話したその5時間の間で、本当に本当に、いろんな話をした。
高校時代の話から、仕事の話、最近のあれこれの話、その他いろいろ⋯5時間ずーっと。

この日の5時間で彼女と話した量は、彼女がサッカー部にいた数ヶ月にふたりで交わした会話の総計よりも、間違いなく多かった。

それくらい、話が止まらなかった。僕も昔の時間を取り戻したかったし、その5時間が、僕はとっても嬉しかった。

でも。でも、だ。
「昔サッカー部にいる時に、こうやってもっとたくさん話せばよかったね」と、ポツリ。

そう、この日たくさんのことを彼女と話したけれど、例えば彼女の兄弟構成とかも、この日の5時間の話の中で、僕は初めて知ったんだった。

俺はいったい何をやってたんだと。

そんなこと、彼女が入部してきた初日に知れることじゃないか。

一人一人と、フランクに、ゆっくりしっかり話をしていれば、そんなことはいつでも知れたはず。
でもそんな些細なことでさえ、僕は彼女がサッカー部にいた数ヶ月の間に、一度も聞くことはなかった。

「この日の5時間だけであの数ヶ月よりも多く喋ったね!」なんて浮かれる前に、俺はあの時どれだけ彼女に向き合えてなかったんだ、どんだけダメなコーチだったんだと、彼女と別れた後に、猛烈に落ち込んだのです。

こっちがそんなに意識せず発した言葉でも、こっちがすっかり忘れてしまった言葉でも、選手はずーっと覚えているなんてことはよくある。良い言葉も、悪い言葉も。

それだけ選手は僕らコーチのことを見ているし、気にもしてくれている。向こうからしたら「ひとり対ひとり」という目線でこちらを見てくれているのに、僕らコーチはつい、選手一人一人を「大勢の中の一人」として接してしまうことがよくある。
それは僕だってそう。あの時彼女に気づかせてもらったはずなのに、今でもまだ、きっとある。

何かを教えるとか、選手を育てるとか、チームを強くするとか。
それも大事だけど、でもそれらは所詮「そんなこと」だ。その程度のことでしかない。

それよりももっと大事なことは。
選手一人一人とゆっくりしっかり話すことで、一人一人を、ちゃんと理解しようとしてあげることじゃないか。
そんな当たり前のことを、あの頃の僕はまるでわかっていなかった。

6年ぶりに会った彼女が、大切なことを教えてくれた。

そんな彼女は裁縫が得意らしく
日本でもコロナ禍が深刻になりマスク不足に陥っていた春には、手作りのマスクを何回も僕に届けてくれた。
また自転車で、近くのファミマで待ち合わせして。

たった数ヶ月しか一緒にサッカーしていないけど
僕にとってはなんだかとても特別な、大切な大切な教え子の話でした。

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