見出し画像

40歳からの勇気 〜なりたい自分になるためのアドラー心理学〜 【はじめに】


成功への道筋


『きみなあ、成功の道というものは、いろいろの行き方があるけどね。でも結局のところ、おおむね同じじゃないかと思う。それは百人が百人とも持ち味があるからね。多少の違いというものはあるけれども、成功の道すじ、軌道というものは、だいたいにおいて決まっている。いわば共通性があるということや。だからその軌道から離れたら、みな失敗の道になっていく。つまるところ甲の人の成功、乙の人の成功に、個性によって多少違いはあるけれども、成功への道は一つであるという感じがするな。』江口克彦著『成功の法則』*1

 

これは「経営の神様」とうたわれた、現パナソニックの創設者である松下幸之助の言葉だ。

成功の道すじ、軌道というものはだいたいにおいて決まっていて、その軌道から離れたら、みな失敗の道になっていく。松下が言うように、もし成功の道すじというものが本当に存在するのだとしたら、よほどの変人でない限りそれを知りたいと思うだろう。



そして私は、その「成功の道筋への手がかり」となるものがアドラー心理学の中にあるのではないかと考えている。


そう。2013年に発刊された岸見一郎・古賀史健共著による『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)によって一躍有名になった、あのアドラー心理学である。

アドラー心理学の創設者であるアルフレッド・アドラーは、ジグムント・フロイトや、カール・ユングと並ぶ、いわゆる臨床心理学の大家であるが、日本での知名度はあまり高くはなかった。

しかし『嫌われる勇気』の爆発的なヒットによってアドラー心理学は注目され、実に多くのアドラー心理学関連の書籍が出版された。その中身までは知らなくても、「アドラーという名前くらいなら聞いたことがある」という人は、今や日本でも少なくないだろう。

かくいう私も、『嫌われる勇気』を読んでアドラー心理学に興味を持った人間の一人だ。私は今、出版社に勤務するかたわらでアドラー心理学を学び、その研究と普及・啓発に努めている、昭和50年生まれの45歳だ。
 
  




40歳から大人になるという人生計画


40歳を迎える頃、年長者に自分の年を言うと、「まだまだ若いね」とよく言われた。

その時は多少の反発も込めて「どこがだ?」と思っていたが、「人生100年時代」と言われる現代では、40歳はまだまだ若造の範疇なのかもしれない。世間にはそういう認識が、確かにある。そして、これはある意味でチャンスだ。

 

つまり、「40歳くらいから大人になる」という人生計画を立ててみてはどうだろうか? 

 

アドラー心理学を学んでいると、我々人間が、いかに幼稚な信念に縛られて生きているかがよく分かる。我々はみな、遅くとも10歳くらいまでに形成されたセルフイメージ(自己概念)と、自分を取り巻く世界に対する認識(世界像)、そして自分のあるべき姿(自己理想)に縛られて生きている。

アドラー心理学ではこれをライフスタイルと呼ぶが、多くの人たちがこの幼少期に作られた信念を抱えたまま大人になり、老後を迎え、そして死ぬまでこの拘束服を脱ごうとはしない。


もしあなたが今、自分は幸せではない、望んでいる人生を生きていないと感じているならば、おそらくそれは、あなたが今抱えている信念(ライフスタイル)が、今のあなたに合っていないからだ。


私は42歳にして、自分のライフスタイルを知った。私のアドラー心理学の師匠でもある岩井俊憲先生(ヒューマン・ギルド代表)の教育分析を受けたのだ。それは私にとってはショッキングな出来事だった。しかし自分のライフスタイルを知ったことが、自分の人生の転機になったとも思っている。

 

はっきり言おう。もしあなたが今、変わりたいけど変われない、進みたいけど進めないと感じているならば(つまり心の中でイエス・バットを繰り返し、アクセルを踏んでいるのと同時にブレーキを踏んでしまうのは)、あなた自身が、あなたのライフスタイルの奴隷になっているからだ。

こんなに変わりたいと思っているのに変われない。自分の行動を何一つ変えることができず、気付けばいつもと同じ日常を繰り返している。もしそうだとしたら、その「変わらぬ日常」こそが、あなたが幼少期に作り上げ、かたくななまでに守り続けてきたライフスタイルなのである。

 




ライフスタイルは自ら作り上げたもの  


ライフスタイルは、なぜ守り続ける必要があるのか?

 

それは、あなたの幼少期にはそれが必要不可欠だったからである。

 

ライフスタイルは言い換えるならば、「人が社会で生きていくための戦略」なのだ。

つまりあなたが今抱えているそのライフスタイルは、多くの大人に囲まれた、幼きあなたが生き抜くためにはどうしても必要なものだったのである。

そしてそのライフスタイルは、小さなあなたが大人だらけの社会でサバイバルするための戦略として、あなた自身が作り上げた信念なのである。

 

そう、ライフスタイルはあなた自身が作り上げたものなのだ。

 

そのライフスタイルが、今のあなたに(大人になったあなたには)合わなくなった。だとしたら、あなたはどうするだろうか?

 

私ならこうする。自分に合った服(ライフスタイル)をもう一度作り直す。つまり幼少期に自ら作ったその信念を、その戦略を、大人になった今、もう一度作り変えるのだ。


「40歳から大人になる」という人生計画は、言い換えるならば、今まで着用してきたその窮屈なライフスタイルを、今の自分に合うように、もう一度作り変えていくことを意味する。





成功への鍵は、ライフスタイルにある 


話を元に戻そう。松下幸之助の言う「成功への道筋」というものがもし本当に存在するのだとしたら、その鍵を握るのがライフスタイルだと私は考えている。

今仮に、人生を一本の線に例えてみよう。右斜め上に伸びる一本の線を想像してみてほしい。その線上には何本もの旗が立っていて、その一つひとつがあなたが達成すべき目標だ。そしてその線の終着地点に、最後の旗が立っている。アドラー心理学ではこれを最終目標(Final Goal)と呼んでいる。

画像1

ライフスタイルとは、この最終目標へと向かう、その人独自の運動である。そしてほとんどの人が、この最終目標を意識しないままに運動を続ける。(無意識に生き続けるのだ)


松下が言うように、もし「成功への道が一つ」なのだとしたら、この最終目標へと向かう道筋こそが成功への道であり、そして「成功」と呼ばれるものが、この最終目標のことなのではなかろうかと私は考えている。

つまり、何をもって成功とするかは、それぞれのライフスタイルの最終目標によるということだ。

 

この記事は、「40歳から大人になる」という人生計画のもとに、アドラー心理学によるライフスタイルの考え方を使って「なりたい自分になるためにはどうしたらいいか」について解説したものである。

人生なんて、やるかやらないかのどちらかだ。「だからやれっ!」というような体育会系男子校ノリの本がよく売れていると聞くが、結論から言うと、私もこの考え方にはおおむね賛成だ。

アドラー心理学的にも、この考え方は間違ってはいない。


アルフレッド・アドラーは、

『誰もが何事をも成し遂げることができる*2』

と言った。そしてこれが、アドラー心理学の格率(行動の原理・原則)であると言っているからだ。

 

しかし、日本には「石橋を叩いて渡る」という言葉があるように、保証もないのに行動には移せない(リスクを冒すことをためらう)人も少なくはないだろう。中には「石橋を叩き過ぎて壊してしまう」ような慎重過ぎる人もいるのではなかろうか?かつての私がそうだったように。

しかし、繰り返すようだがそのような慎重な姿勢やためらいの態度は、ライフスタイルによる抑制がかかっている(ライフスタイルのコントロール下にある)からなのだ。

 

この連載記事は、変わりたいけど(怖くて)変われない。一歩踏み出したいけど、(不安で)踏み出せない。そんな「慎重すぎるあなた」のために書かれたものだ。

 

アドラー心理学はある種の哲学であると同時に、科学でもある。


まずはライフスタイルがどのように形成され、発達していくのかを論理的に理解してもらう必要がある。ライフスタイルを理解することによって、あなたは変化のための(その最初の一歩を踏み出すための)大きな裏付けを得ることになるだろう。

つまりこの連載の前半は、ライフスタイルの仕組みを知ることによって、ライフスタイルによる「タガを外す」ことが主な目的となる。あなたはこの連載の前半部を読むことで、一歩踏み出す勇気を得ることになるはずだ。

そして後半は、あなたのライフスタイルに変化を加えることで「なりたい自分になる」ための準備と、具体的な訓練方法について語ることになる。あなたはこの連載の後半部を読むことで、成功への道すじを意識し、その一本道を歩き続ける方法を具体的知識として身に付けることができるだろう。

しかし、それをやり遂げるかどうかはもちろんあなたしだいだ。  

 

40歳からでも人は変わることができる。アドラー心理学を使うことによって、あなたはもう一度、新たな人生を生き直すことができるのだ。

 

それでは案内しよう。あなたの人生を劇的に変える力をもつ、アドラー心理学という無限の可能性の世界を。

☞【第1章】へ続く



*1江口克彦著『成功の法則』(PHP文庫)7P
*2ALFRED ADLER THE SCIENCE OF LIVING (Martino Publishing) 186Pより訳出

この記事が参加している募集

#スキしてみて

527,736件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?