メモ-論文(海外) ADHD症状、実行機能、および学習戦略は、ADHD症状レベルが異なる大学生の遅延割引を予測するか?: パイロット研究

Do ADHD Symptoms, Executive Function, and Study Strategies Predict Temporal Reward Discounting in College Students with Varying Levels of ADHD Symptoms? A Pilot Study

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33540665/

出版年

2021年

掲載誌

Brain Sciences

DOI

10.3390/brainsci11020181

著者

  • Anouk Scheres (Behavioural Science Institute, Radboud University, オランダ)

  • Mary V. Solanto (Zucker School of Medicine at Hofstra-Northwell, ニューヨーク, USA)

研究機関

  • Behavioural Science Institute, Radboud University, オランダ

  • Zucker School of Medicine at Hofstra-Northwell, ニューヨーク, USA

研究の背景と目的

背景

注意欠陥多動性障害(ADHD)は、注意力の欠如や多動・衝動性によって特徴付けられる神経発達障害であり、成人期においても続くことが多いです。特に、実行機能(Executive Function: EF)の弱さが関連しており、これは計画、組織化、抑制、自己制御などの認知能力を含みます。大学生はEFが特に要求される生活段階にあり、ADHDの症状がある学生は学業成績や生活の質が低いことが報告されています。

目的

この研究の目的は、ADHDの症状が大学生における遅延割引(Temporal Discounting: TD)と関連があるかどうかを調べることです。また、TDが日常生活のEFの問題や学習・勉強戦略と関連があるかどうかも検証します。具体的には、以下の仮説を検証しました:

  1. 高いADHD症状は、即時の小さな報酬を強く好む傾向と関連する。

  2. ADHDの症状、特に多動・衝動性の症状は、急勾配のTDと関連する。

  3. TDは日常生活のEFの問題や学習・勉強戦略と関連する。

研究方法

参加者

  • 参加者は39名の大学生(ADHD診断を受けた19名とADHDのない20名)。

  • 対象者は18歳から30歳の範囲で、英語の指示を理解できることが条件でした。

測定方法

  1. 遅延割引課題(Temporal Discounting Task):

    • 参加者は、即時の小額の仮想的な報酬(€5〜€95)と1年後に得られる大額の報酬(€100)を選ぶ選択を行いました。

    • 参加者が即時の報酬を選ぶポイント(切り替え点)を基に、€100の主観的価値を算出しました。

  2. Conners Adult ADHD Rating Scale(CAARS):

    • ADHDの注意欠陥と多動・衝動性の症状を評価する自己報告尺度。

  3. Barkley Deficits in Executive Functioning Scale(BDEFS):

    • 日常生活におけるEFの問題を評価する尺度。自己管理、問題解決、自己抑制、動機づけ、感情調整の5次元を測定。

  4. Learning and Study Strategies Inventory(LASSI):

    • 学習と勉強戦略の認識を評価する60項目の自己報告尺度。スキル、意志、自己調整の3つのコンポーネントで構成。

結果

主要な発見

  1. ADHDの多動・衝動性と遅延割引(Temporal Discounting):

    • 多動・衝動性の高い症状は、急勾配の遅延割引と関連していました。これは、即時の報酬を好む傾向が高いことを示しています。具体的には、多動・衝動性のスコアが1ポイント増えるごとに、€100の主観的価値は€0.42減少しました。

    • ADHDの注意欠陥症状は遅延割引と有意な関連を示しませんでした。

  2. 日常生活の実行機能(Executive Function)と遅延割引:

    • 実行機能の問題が多いほど、€100の主観的価値が低くなることが示されました。特に自己動機づけの問題が遅延割引と強く関連していました。具体的には、実行機能のスコアが1ポイント増えるごとに、€100の主観的価値は€0.26減少しました。

  3. 学習・勉強戦略と遅延割引:

    • 弱い学習・勉強戦略は急勾配の遅延割引と関連していました。特にスキルコンポーネントが強く関連していました。具体的には、学習・勉強戦略のスコアが1ポイント減少するごとに、€100の主観的価値は€0.27減少しました。

詳細な結果と考察

ADHDの症状と遅延割引

多動・衝動性の症状が高い学生は、即時の小さな報酬を選びやすい傾向があることがわかりました。これは、衝動性が高い人々が将来の大きな報酬よりも目の前の小さな報酬を好むことと一致しています。具体的には、多動・衝動性のスコアが1ポイント増えるごとに、€100の主観的価値は€0.42減少しました。

日常生活の実行機能と遅延割引

実行機能の問題、特に自己動機づけの問題が、遅延割引に強く関連していました。自己動機づけの問題が多い学生は、将来の大きな報酬よりも即時の小さな報酬を選びやすい傾向があります。具体的には、実行機能のスコアが1ポイント増えるごとに、€100の主観的価値は€0.26減少しました。

学習・勉強戦略と遅延割引

学習・勉強戦略が弱い学生も、遅延割引が急勾配になる傾向がありました。特にスキル(例:情報処理やメインアイデアの選択)が弱いことが遅延割引と関連していました。具体的には、学習・勉強戦略のスコアが1ポイント減少するごとに、€100の主観的価値は€0.27減少しました。

結論と示唆

この研究は、ADHDの多動・衝動性が急勾配の遅延割引と関連しており、これが大学生の日常生活の実行機能や学習・勉強戦略に影響を与えていることを示しています。これらの発見は、ADHDの大学生に対する効果的な介入方法を開発するための基礎を提供します。例えば、長期的な報酬の価値を強調する訓練や、将来志向のトレーニングが有望な介入方法として考えられます。

この内容は論文「Do ADHD Symptoms, Executive Function, and Study Strategies Predict Temporal Reward Discounting in College Students with Varying Levels of ADHD Symptoms? A Pilot Study」に基づいています​​。

感想 -短期報酬は継続しやすいが、長期報酬になると我慢ができない。ADHDのあるあるのような気がするが、どんな風にADHDの人間達に長期報酬まで繋げていくかの研究を知りたいと考えた。ADHDの人間でも大成をなした人もいるので、長期報酬まで繋げられたADHDの人々がどんな風にアプロ―チしたかを考えたい。その為、科学的に裏付けられた長期報酬まで至れたアプローチの方法を研究したい。

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