『おさがしの本は』

門井慶喜さんの作品。以下の話が収録されている。図書館ではお静かに、赤い富士山、図書館滅ぶべし、ハヤカワの本、最後の仕事

図書館のレファレンスカウンターで働く和久山。ある日、市の財政難で図書館が廃止されるのではないかという話が上がる。


「図書館滅ぶべし」で受けたレファレンスの依頼を解くのがとても面白かった。

石原慎太郎の『太陽の季節』は読んだことがないので、今度読もうと思う。

「最後の仕事」でレファレンスカウンターに来る最後の利用者を予想できた人は、多分誰もいなかっただろうと思った。


印象に残っている文

何より屈辱的なのは、館長のポストが、本庁の局長クラスーー水道局長とか秘書室長とかーーの天下りの定番といわれることだった。

就職して二年目、市内の実家から通う二十四歳のお昼の糧は、毎朝たらちねの母親が心をつくして調えると聞くけれど、母ははたして愛娘のこんな感謝のかけらもない聞こし召しぶりを知っているのかと隆彦はよけいなことを考えた。

というのも、いま見るこの総合電波塔の高さは三三三メートルだけれど、当初の計画では三八〇メートルになるはずだった。

「人間は案外、レファレンス・カウンターに相談に来ると視野が狭くなるものです」

「単なるモラトリアムだ。本質的な解決になってない」「本質的な解決か」潟田はふっと息をもらし、つかのま遠い目をした。「君もまんざら知らんでもあるまい。大人の世界でそれを得るのは、宝くじで三億円を当てるよりもむずかしい。当面の解決がすなわち解決だ」

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