『さいはての家』

彩瀬まるさんの作品。


 「てのひら」
 野田さんが読んでいた小説がとても気になった。川端康成の『掌の小説』と、坂口安吾の『私は海をだきしめてゐたい』はまだ読んだことがないので、読んでみたい。


 「ゆすらうめ」
 小学生の時に、塚本はうさぎ小屋に行かせることで清吾を助けた。これは清吾の母親から聞いたことである。塚本はそれを忘れていた。このように、自分が覚えていないことを誰かが覚えていたとき、個人的に嬉しくなる。埋もれていた数々の思い出が引き出しの底から引っ張り出されてくる感じが好きだ。


 「ままごと」
 父のように「男は偉い」と女性を見下すような人間にはなりたくないと感じた。竹平くんのように、ストーカーとなって迷惑をかけることも絶対にしないと思った。


 「かざあな」
 不動産屋の中岡くんがとても面白いから、接客してもらいたいと思った。一つの物件を通じて過去の話がきちんとつながっているのがすごいと思った。


でも、俺には昔からそういうところがあった。いつだって今いる場所から逃げたくなる。逃げた先はだいたい逃げる前より状況が悪い。そうわかっているのに、ふっと気がゆるんだ瞬間に逃げてしまう。
ゆすらうめ
「世話とか、そばにいるとか、自分が昔して欲しかったことを誰かにすると、昔の俺がしてもらったような気になって楽になるんだ。たぶんなんかの錯覚なんだろうけど」
ゆすらうめ

「役が振られて、それを守るの。眉村さんと結婚したらもうずっと、振られた役から出られない気がした」
ままごと
父は母を愛しているし、満のことも真剣に考えていただろうし、私を大事だというのも本当なのだろう。だけどそれは自分と同じ人間としてではない。女という、人間よりもいくらか手軽で、うまく躾をして活用するべき別の生き物として、愛されている。
ままごと
「逃げる、引き返すって判断は、時に現状維持の何倍も勇気が要るんだ。そこで逃げられないで、死んじゃう人もいる。ちゃんと逃げて生き延びた自分を、褒めなよ。少しは。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?