『夏の体温』


瀬尾まいこさんの作品。以下の話が収録されている。

夏の体温
魅惑の極悪人ファイル
花曇りの向こう

「夏の体温」では、同じ病院に入院する瑛介と壮太の友情が描かれている。瑛介が夜にプレイルームのおもちゃをひっくり返す場面がとても印象的だった。壮太の明るさには驚いた。きっと将来立派な大人になると思う。
「魅惑の極悪人ファイル」では、大学生作家の大原早智が周りから「腹黒」と呼ばれている倉橋を取材する。最初は「倉橋はどのくらい腹黒い人なんだろう?」という目で読んでいたが、バスケットボール部の話を聞いたあとからは、「倉橋くんはめちゃくちゃ良い人だ!」というように印象が変わった。

印象に残っている文

病院で出会ったとなると、どこまで相手のことに踏み込んでいいかわからない。暗くなる会話もタブーだし、ぼくがここにいる手前か、外の話は避けたほうがいいと思うようだ。誰も傷つけずに誰でもわかる天気は、ちょうどいいテーマみたいだ。

なんでもOKになると、わがままは成り立たない。それに、どれだけ買ってもらってと、欲しいものを手に入れた気分にはなれなかった。許されることが増えることは、本当は悲しいことなのかもしれない。

「懐かしい味」ウェハースをかじりながら壮太が言った。「おいしいけど、眠たくなる味なんだよね」「そうそう。甘やかされてた子ども時代を思い出す味」「あのころは自由だったよなー」

「ああ、わかる。キャプテンだとか学級委員とか任務を与えられると、柄にもないことできるもんな。それでもって、俺、こんなにまじめだったんだ、とかって気づくんだよなー」

完全に人を嫌いになれれば、楽になる。相手がひどいやつなら嫌われたっていいと思える。嫌な人がいないのに、友達ができないのは余計につらかった。

ストブラも言ってたように、二十歳にもなると、知らない食べ物は少なくなって、食べたことのないものでもだいたいの味を想像できる。


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