『真昼なのに昏い部屋』

江國香織さんの作品。

大学で教鞭をとっているジョーンズさんと、坂の上の一軒家に住む主婦である美弥子さんの物語。


同じ場面でのジョーンズさんの心情と美弥子さんの心情がそれぞれ描かれていて、とても読むのが楽しかった。

ジョーンズさんと一緒にフィールドワークをするのが楽しそうだと感じた。

美弥子さんが浩さんに対して怒る場面が印象に残っている。


印象に残っている文

長袖のTシャツに裾を折り返したジーンズという普段着ながら、美弥子さんは小鳥のようにかわいい人だとジョーンズさんは思います。小鳥なのに縫いものをしたりお茶をいれたり、歩いたり笑ったりするのですから、見ているだけで胸がいっぱいになります。

けれど一緒に散歩をしたことは話しませんでした。ささいなことですし、話しても浩さんほ気にしなかっただろうと、美弥子さんにはわかっています。でも、だからこそ、話さなくてもかまわないかなと思えたのです。ちょっとした特別なことというのは、言ってしまうとそれまでほど特別ではなくなってしまうものですからね。

「夏は毎年くるのに」まぶしそうに空を見上げて、美弥子さんは言いました。「そのたびにびっくりするのはどうしてかしら」

ジョーンズさんにとって、女性が自分の隣で幸福そうにしているのを見ることほど嬉しいことはありません。たとえ、その女性が自分のものではないとしても。

ジョーンズさんがもっとも驚いたのは、あの小柄な美弥子さんがふくらんだことです。美弥子さんの白い肌が目の前いっぱいになり、ジョーンズさんは美弥子さんに、包まれたと言っても過言ではありません。

「あなたは自分がどんなに魅力的な女性か、わかってるんですか?」布団が干され、再びがらんとした薄暗い部屋のなかで、ジョーンズさんは言いました。「その言葉、そのままお返しします」


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