『痴人の愛』

谷崎潤一郎の作品。

サラリーマンの譲治が、カフェーの女給であるナオミを育てあげようとする話である。

ナオミのことを育てあげようとするのを見て、源氏物語における紫の上と似ていると思った。

当時の世の中において、譲治のように考える男性は少なかったのではないだろうか。今の世の中の方が受け入れられそうな話だと感じた。

譲治の背中にナオミが乗って馬のように振る舞うシーンがとても印象に残っている。


印象に残っている文

それから思えばナオミのような少女を家に引き取って、徐ろにその成長を見届けてから、気に入ったらば妻に貰うという方法が一番いい。

よく世間では「女が男を欺す」と言います。しかし私の経験によると、これは決して最初から「欺す」のではありません。最初は男が自ら進んで「欺される」のを喜ぶのです。

ナオミはいきなり私の頸にしがみつき、その唇の朱の捺印を繁忙な郵便局のスタンプ掛りが捺すように、額や、鼻や、眼瞼の上や、耳朶の裏や、私の顔のあらゆる部分へ、寸分の隙間もなくぺたぺたと捺しました。

その瞬間、私は実にナオミの顔を美しいと感じました。女の顔は男の憎しみがかかればかかるほど美しくなるのを知りました。

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