瑞原明奈の見逃しは正しかったのか? (Mリーグ2022-23 3/20 第2試合)

初めましての方は初めまして!
そうでない方はこんにちは! あでのいです!
Mリーグファンの皆さん! いやあ、昨夜の第2戦の激アツMVP争いは痺れましたね!
まあ、かく言う私は残業が予想以上に長引いた結果リアルタイムで見れなかったんですが……。
さて、昨夜の試合で最も話題に登ったのは間違いなくオーラスの瑞原さんの見逃し判断についてでしょう。

(瑞原さんの検討配信より拝借)

この状況から魚谷さんの打ち出した6pで上がらず、の判断ですね。
この時、瑞原さんと下家の伊達さんはそれぞれ個人pt0.8差で1位2位のMVP争いの真っ只中です。瑞原さんが伊達さんとの着順をひっくり返すためには直撃以外ではハネ満が最低条件となります。しかしながら手役は現状リーチ平和タンヤオ赤の4飜止まり。魚谷さんからのロン和了では条件達成に裏ドラを2枚乗せなくてはなりません。
そこで瑞原さんは残り2回のツモに賭けてツモって裏を乗せるか、海底ツモかを期待してロン和了せずの判断をしました。

これについてネット上では色々と議論が巻き起こったようです。今日はこの件について色々書いてみたいと思います。


「チームか? 個人か?」か?

この瑞原さんの選択について、「チームのために和了るべきだったのでは?」「個人MVPのために見逃すのは正しかったのか?」という形で議論対象となった模様です。
確かに伊達さんを捲れずともラスから3着に上がれるので、チームptのためだけなら和了っておくべきです。一方瑞原さんは個人MVP連覇という大偉業がかかっており、そちらを狙うというのも十分理解できる判断です。

しかしながら一見「チームか?個人か?」という構図のようにも見えますが、これはそんな分かりやすい二項軸ではないように思えます。
そもそも現状でチームのレギュラーシーズン通過はほぼ確定しており、セミファイナルではチームptも半減で仕切り直しとなるため、ここでラスから3着程度のptを稼ぐ事の利得はそこまで大きなものではありません。
またMVPは確かに個人賞ではありますが、「2年連続MVP輩出」のブランドがチームに付与されることで得られるチーム利得も十分に大きなものです。
そして何よりですが、そもそもこの瑞原さんの判断基準が、チームで事前に相談して決めていた方針だったであろうことは明白です。
実際、パイレーツの控室配信でもこの瑞原さんの決断に対し、他のメンバーは「個人MVPを狙いに行くべきかどうか?」という議論は一切しておらず、あくまで「個人MVPを狙う上でどっちが正しいかどうか?」という議論しかしておりませんでした。
U-NEXTパイレーツがチーム全体として個人MVPをある程度優先させた打ち方を選択したと考えるべきです。

「瑞原明奈の見逃しは正しかったのか?」というタイトルですが、本記事でしたいのは「チームのために和了るべきだったのか?」「個人MVPのために見逃すのは正しかったのか?」という話ではありません。
個人MVPを瑞原さんに狙わせにいくというのがチームとしての判断である以上、そこは1パイレーツファンとしてその判断を尊重したいと思います。
本記事では「個人MVPを狙う」のを目的とした上で、「裏裏条件に期待してロン和了」と「残り2巡でツモ裏or海底ツモ」とのどちらが良いのかというのを考えてみたいと思います。


裏ドラは運 ツモは自力 という幻想

まず最初になんですが、昨夜の瑞原さんに限らず、麻雀では「ロン和了しても裏ドラ条件。ツモなら無条件で逆転」という状況にはよく遭遇します。このようなシチュエーションでロン牌を見逃してツモに賭ける選択を「自力でツモりに行く」と表現し、さも「裏ドラ期待は運任せだけど、ツモ狙いは実力」であるかのように解説されることがたまにあります。
しかしながらこれは大きな間違いです。昭和の麻雀観の名残りと言っても良いでしょう。
そもそもツモる行為自体が純粋ギャンブルであり、見逃したからと言ってツモれるかどうかも結局は運任せに過ぎません。「裏ドラをめくる」ギャンブルと「残り山をツモる」ギャンブルを天秤にかけただけなので、どちらかが「運任せ」でどちらかが「自力」だという話には一切なりません。
この誤謬は、結構な麻雀打ちがやってしまいがちなので、気を付けると良いと思います。

さて、この事をまず最初に確認し、瑞原さんの選択肢が結局どちらのギャンブルをするかの話でしかない、という事を理解した上で話を進めましょう。


計算できる範囲で計算してみよう。

という訳で、あくまでザックリ計算ですが、以降では「ロン和了して裏裏乗せる」と「残り2巡でツモ裏or海底ツモ」の双方の確率を実際に算出してみたいと思います。
他家の手牌構成への読みなどは一切考慮せず、純粋に瑞原さん目線で確定している範囲の情報だけから単純計算してみましょう。

まずこの時点で瑞原さんから見えていない牌の総数はいくらになるでしょうか。
まずは他家の手牌13×3=39枚。これに残りツモ枚数6と王牌(ドラ表示牌除く)の13枚を加えて計58枚になります。この58枚の中に望んだ牌が望んだ場所にいてくれる確率を考えれば良い訳ですね。

では裏裏条件を考えてみましょう。
瑞原さんが仮にロン和了をした場合、手牌の中の被り牌は4p、5s、8sの3種類になります。つまり3p、4s、7sのいずれかが裏ドラ表示牌になっていれば良い訳です。
この3種の内、瑞原さんの視点から見えているのは3pが1枚、4sが1枚、7sが3枚なので、残り枚数は計7枚となります。
よって裏裏確率は58分の7で 12.07% となります。10%以上なので、思ったより高確率なのでないでしょうか。

次にツモ裏or海底ツモの確率です。まずは次順ツモ裏の確率から考えます。
瑞原さんの和了牌が36pで、こちらが瑞原さん目線で2枚見えの残り枚数5ですので、次順ツモ確率は58分の5で8.62%となります。
さらにツモった際に裏ドラの乗る確率ですが、こちらも詳細に検討すると、瑞原さんから見えていない枚数が
  1p4枚 2p3枚 3p3枚 4p2枚 5p3枚
  2s2枚 4s3枚 5s2枚 7s1枚 6s2枚
以上計25枚です。
ただし、5pは6pでツモった場合にだけ機能しますが、6p2枚見えなので仮にツモったとしてもツモ牌が6pの確率は40%です。ですので5pの3枚をここでは便宜的に1.2枚として計算します。また、60%の確率で3pでツモった場合は3pも3枚から2枚に減るので、こちらも2.4枚として計算します。という訳で実質枚数が計22.8枚とします。
すると裏ドラ確率は58分の22.8で39.31%。という訳で、次順ツモ裏の確率は
  8.62% × 39.31% = 3.39%
となります。

最後に海底ツモの条件です。
こちらは次巡ツモらない上で次々巡でツモる確率を意味するので、
  (100%ー8.62%)× 8.62% = 7.88%
になります。この2つの和になるので、「残り2巡でツモ裏or海底ツモ」の確率は 11.27% という計算になります。

という訳で、「ロン和了して裏裏」と「残り2巡でツモ裏or海底ツモ」との比較は

「ロン和了して裏裏」 12.07%
「残り2巡でツモ裏or海底ツモ」 11.27%

という結果になりました。ほんのわずかにだけ裏裏に賭けた方が数字が良いですが、超々微差と言って良いでしょう。瑞原さんも試合後の検討配信で最後まで「どちらが良かったんだろう?」と言っておりましたが、こんなのがその場で計算して判断できる訳がありません。
数字上だけで言うなら「ほとんどどちらも変わらない」と言って良い結果となりました。文字通りギャンブルですね。
実際、瑞原さん自身、その場ではどちらの確率が高いかは判断がつかず(当然です)、どちらかと言うと本田さんがテンパイして次局に賭けるパターンを重視していたようです。


計算できない事も考えてみよう

さて、ここからは明確な単純計算以外のいくつかの要素を挙げていきましょう。

まずは瑞原さん自身が重視していた本田さんテンパイでの流局続行ですね。
これは本田さんの河もチョイ押し気味ではありましたし、状況的にもオリる理由がかなり薄いのでテンパイ自体はそこそこ期待できます。伊達さんが完全にオリてましたので、テンパイ料で点差も縮まり次局の条件も満貫ツモまで緩和されます。
ただしとは言え、本田さんのテンパイも確定ではないですし、和了れそうなテンパイしたら容赦無くリーチを打ってくる局面に思えますので、意外とテンパイ確率は低かったのではないでしょうか。また、次局に続いたからと言って満ツモ条件も決して簡単ではありませんし、このケースをどこまで重視して良いかはかなり難しい所です。

次にツモ確率についてです。
確かに36pは現状瑞原さん視点で5枚残りではありますが、親の本田さんと明確に押してきた魚谷さんとがここまで筒子を1枚も切っていません。筒子の場況は相当に悪く、魚谷さんが6p手出しなので6p山ゼロくらいに読むのが妥当のように見えます。
上では36pの残り5枚を均等分布しているものとして単純確率で計算しましたが、場況的に残りツモ山よりも他家の手牌にかなり偏っていると考えるべきでしょう。上ではツモ確率8.62%と計算しましたが、感覚的には半減くらいで丁度良いかなという気がします。
実際にはこの時点で魚谷さんと本田さんの2人には3p2枚ずつだけしか持たれていなかった訳ですが、この場況で山2もあったのはかなり幸運な方かなという印象です。
こう考えるとツモに賭ける判断も結構割り引いて良いかなと思います。

最後に伊達さんからの妨害です。
実際に実行は出来ませんでしたが、伊達さんには鳴いて海底ズラしという手段もありました。上での計算を見ると分かりますが、「残り2巡でツモ裏or海底ツモ」の確率は「海底ツモ」側に内訳がかなり偏っているので、海底をズラされた瞬間に確率が一気に下がってしまい、裏裏条件の方が倍ほど高確率になってしまいます。
さらに言えば、チーならまだしも本田さん魚谷さんからのポンをされてしまうとツモ回数自体が1回だけになってしまいます。
これも単純に計算できるようなものではありませんが、それなりの確率であり得る事態であり、こちらもツモに賭ける判断の割引材料になります。


個人的結論

以上の情報を総合した上で、ごくごく個人的な感覚的判断で言わせてもらうと、ここは裏裏期待でロン和了してしまった方が良いのかな?という印象です。
ちなみにキャプテンの小林剛さんもロン和了の方が良かったのではないかという意見だそうです。
もちろん感覚的な判断でしかありませんし、重ねて言いますが結局この2択がどちらにせよ超々微差で、ほぼほぼギャンブル判断でしかない、というのが本記事の結論です。
ですので個人的には、そこはもう卓上で実際に他家の空気を肌で感じながら自分で打ってる瑞原さんの判断が一番正しい、で良い領域の2択だったんじゃないかなあと思います。

という訳で以上! 「瑞原明奈の見逃しは正しかったのか?」でした。いかがでしたでしょうか?
目視と突貫で書いたので、計算間違いや数え間違いもちょいちょいあるように思いますので、見つけたら指摘して頂けると非常に助かります。

もしこの記事が多少なりと皆様のMリーグ観戦に良いものになってくれれば幸いです。


ちなみにですが、瑞原さん対局後、結局裏ドラめくって確認したそうです(優さん控え室で「こういうのは見ない方が良い」って言ってたのにw)。
結果は5pで、仮にロンしてても裏裏乗らずだったとのことです。いやあ、残念!

参考動画



追記

本文では触れませんでしたが、瑞原さんにこの局で明確な判断ミスがあるとしたら、即リーチかけず1巡回した事でしょう。あそこでダマ判断に意味がありそうなケースは天鳳か雀魂の段位戦か、すなわちラス回避の条件戦だけです。本人も配信で「打った直後に『即リーチじゃん!』てなってヤベエヤベエって思いながら1巡過ごした」と自身の凡ミスに焦っていた事を自白していました。それだけ極限の精神状態だったのでしょう。
打牌の正誤について指摘するなら、正解が出そうもない見逃しよりも、1巡ダマに対してでしょうね。

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