eスポーツのリーグ設計について考えてみた

こんにちは。昨今はeスポーツ以外にも推しコンテンツができて、うひー可処分時間が少ないと嬉しい悲鳴をあげている”観るe”あでりーです。

最近、PMJL(PUBG MOBILE日本プロリーグ)がSEASON3で昇降格制度を廃止したという話を聞きました。PUBGはかなりチーム数が多く、SEASON2まではオープントーナメントのPMOTの上位チームとPMJLの下位4チームの入れ替えが行われていたのですが、これが無くなりSEASON3は16チーム固定で争われました。他のゲームを見ると、LJL(League of Legends日本プロリーグ)も2019年度に昇降格制度を廃止しています。
今日では色々なeスポーツでプロリーグが立ち上げられていますが、日本のeスポーツプロリーグのリーグ設計はどのようになっているのでしょうか。他のリーグを含めて俯瞰してみましょう。


1.リアルスポーツから見るリーグ設計

さてその前に聞いていただきたいお話があります。リアルスポーツのプロバスケットボールリーグ、B.LEAGUEが将来構想として2026年からリーグ設計を大きく変えることを発表した、B.革新についてです。
※以降、二重鍵括弧内は同サイトからの転載です。

現行のB.LEAGUEはB1-B3まで昇降格のある制度を採っていましたが、2026-27シーズンからは昇降格のないエクスパンション制となります。B.革新では制度変更の理由を以下のように述べています。
『競技成績により昇降格が発生する現行制度のもとでは、高いレベルで事業・競技を両立し順調に成長するクラブが現れる一方で、昇降格リスクがあるためチーム投資が優先され事業投資が後手になった結果、地域やステークホルダーに貢献するための経営資源を割けないクラブも多く存在しています。
新たな制度では、クラブが長期的視野で事業投資ができる環境を整えるため、競技成績による昇降格を撤廃。事業やスタッフへ投資ができる環境を作ります。』
また、エクスパンション制の導入に伴いサラリーキャップ制・ドラフト制度の導入を計画しています。サラリーキャップ制導入の理由を以下のように述べています。
『降格撤廃により戦力格差が広がる可能性があり、接戦を増やすため。魅力あるリーグ(=戦力均衡)の実現』
これ一つ見るだけで、ヨーロッパ・サッカーに代表される昇降格制度と、アメリカMLB・NBAに代表されるエクスパンション制の利点と欠点が概ね語られています。すなわち、昇降格制度ではシーズン終盤の見どころを産む利点はあれど、チームが降格のリスクを抱える以上選手・チームに投資額が偏重しやすい。一方でエクスパンションはチームの経営は安定すれど、投資がままならないチームが登場すれば戦力格差が広がる。
実際にヨーロッパ・サッカーが移籍シーズンごとに高額の移籍金がニュースを賑わす一方、MLBやNBAではサラリーキャップを超過した場合の『贅沢税』ラグジュアリータックスについて話題になることがあります。
日本ではどうでしょうか。NPB(プロ野球)ではサラリーキャップは無いものの、ドラフト制度で(それでも入札抽選なので完全ウェーバーよりは緩やかな形で)ある程度の戦力均衡が図られており、20世紀には『たけし軍団より弱い』と言われた阪神が令和の世にアレするレベルには戦力が均衡しています。サラリーキャップがないのに『金満チーム』が度々コケているのもアレレな感がありますが。あ、だからサラリーキャップみたいな話にならんのかも。。。
Jリーグが昇降格制をメジャーにして、B.LEAGUEも同じ川淵チェアマンの下に当初は昇降格制から開始しました。しかしながら、お手本となるべきNBAがエクスパンション制だと言う以前に、そもそも日本はエクスパンション制のプロスポーツを長年娯楽の王様としてきた国で、B.LEAGUEのエクスパンション制への『回帰』はそれほど違和感がありません。

2.日本におけるeスポーツのリーグ設計

さて、こうしたリーグ設計の考え方を頭に置いて、日本におけるeスポーツのリーグ設計を見ていきましょう。
冒頭でPMJL・LJLの昇降格制度の廃止について触れましたが、日本国内のeスポーツプロリーグで昇降格制度を持つものはほとんど無くなってしまいました。
この背景には2つの要因があると考えます。一つは日本リーグの上に国際戦があること。国内だけを見れば昇格のない世界でも、リーグ上位には世界戦のチャンスがあることで、昇降格制のエッセンスが含まれているとも言えます。
そしてもう一つはチーム運営の基盤がまだまだ脆弱であると思われること。前述のとおり昇降格制はチームへの投資がかさみ、また降格は容易にチームの財政基盤を脅かします。そのリスクに耐えられないチームも少なくなかったのでしょう。
ところでエクスパンション制(LJLではフランチャイズ制と呼んでいるようですが同様のものと考えます)で考慮されるべき戦力均衡の仕組みについては、特に導入されていないようです。SFL(ストリートファイタープロリーグ)では2021,2022では部分的にドラフト制を導入していたものの、4名中1名のドラフトかつ入札抽選制で前年レギュラーシーズン1位のチームが希望の選手を引き当てて同シーズンは優勝する形となりました。ドラフトは戦力均衡と言うよりむしろ見世物・コンテンツの一つであったと言うべきでしょう。
さて、戦力均衡を放置したままのエクスパンション制導入によって何が起こったか。LJL2022ではV3 EsportsがSpringで0勝21敗、Summerで3勝18敗。LJL2023では0勝7敗、プレイオフはLower bracket初戦敗退。PMJLはSeason50戦通してドン勝0のチームが2つ、トップと最下位のポイント差は3倍以上。各チームの投資額の差がどのくらいのものなのかは分からないですが、外から見たときにこの状況を続けていていいのかな、と思えてしまいます。

3.独自の道を行くKONAMI

そんななか異彩を放っているのが、KONAMIが主催するeスポーツリーグです。こちらも昇降格制度を採らないのは他リーグと同じですが、BPL(BEMANI,音楽ゲームプロリーグ)では毎年のドラフトを開催し、スピリーグ(プロスピA,野球ゲームプロリーグ)は1名を除いて選手は総入れ替え、しかも予選による選抜を行い、戦力均衡には他リーグよりも大きな配慮が図られています。
これは一面で当然であると思います。プロゲーミングチームが参入している他リーグとは違い、スピリーグはNPB・BPLはオペレーター(ゲームセンター運営会社)をチームオーナーとしています。言ってしまえばどちらもKONAMIのビジネスパートナーであり、戦力差を放置したままにして一部チームがリーグ継続に異議を唱えるような事態は避けなければいけないはず。
またサラリーキャップは採られていないものの、リーグが短期(期間が短いというよりは試合数が少ない)かつ選手も本職を持ったまま参加する兼業前提という形で、本業があるオーナー企業にとって、金銭面を含めて運営負担とならない形の設計になっていると考えられます。
果たして2章で述べた他のリーグよりは運営設計として優れているように見えるものの、リーグの将来の成長という意味では疑問がある、厳しい表現をすれば『片手間』の印象を一面抱かざるを得ません。KONAMIは2021シーズンでeBASEBALLプロリーグ(パワプロ)を中止してしまった過去があります。身軽な制度設計が成せる技であり、KONAMIもオーナー企業もより投資対象として魅力があるプロスピAに注力すべき状況だったのでしょうが、一方で少なくない数のパワプロプレイヤーの運命を狂わせたことはどうなのでしょうか。

4.終わりに

結構ネガティブな論調で語ってしまいましたが、結局のところeスポーツが稼げていない、プロゲーミングチームが十分にチームに投資できなかったり他業種の会社がゲーミングチームを持つにあたり本格的な投資対象と見ることができなかったりすることが、リーグ設計の歪みが放置されている原因なのかな、と想像しています。
1章で触れたB.革新では冒頭から経営の強化に触れ、トップリーグ参戦チームに売上レベルと収益のエンジンとなる大規模アリーナを要求しています。プロスポーツにおいて、言うまでもなく収益は重要な要素です。ただeスポーツの現状からすればいきなり高いハードルを設けるのは難しく(※)、直近ははこのいびつさを甘受せざるを得ないのかもしれません。
(※LJLもフランチャイズ制を導入する際に参入チームに対して資本金・売上の条件を課したと聞いていますが、それがチームや事業の投資に有効に働いているかどうかは言及を避けます。私はLJLについては門外漢ですが、少なくとも2章の数字だけを見るとポジティブな評価を与えづらく。)
将来的に、eスポーツがリアルスポーツに肩を並べるようになるまでに制度設計が磨かれ、eスポーツプロリーグがさらに健全に発展し、何年何十年と続くことを願って止みません。

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