KONAMI『BEMANI PRO LEAGUE』が示す eSportsプロリーグの新しい形と未来像

1.eSports市場の成長と”曲がり角”

ゲームをeSportsとして観戦する文化は、2020年代に入ってすっかり定着した感がある。世界のeSports市場は、2022年度には市場収益が12億ドルの規模に達し、日本国内においても年平均20%を超える成長率を見せ、およそ125億円の市場規模にまで拡大している。この記事を目にしている方も、それぞれお気に入りのタイトルのeSportsプロが争うプロリーグを毎週の楽しみにしている方も多いのではないだろうか。

しかしながら、個々のタイトルに目を向けると選択と集中が行われており、市場の曲がり角を示す事象も見られる。人気タイトル『ストリートファイター6』のプロリーグ『ストリートファイターリーグ: Pro-JP』が人気を集めて2024年は参加チームを9から12に増やして開催される一方で、老舗タイトルで世界的な人気を誇る『League of Legends』の日本リーグ『League of Legends Japan League』は全世界的なリーグ再編の波に飲まれ、今年はチーム数を8から6に減らしての開催となった。また、NTTドコモのeSportsリーグブランド『X-MOMENT』の終了に伴い、開始当初は賞金総額3億円を争った『PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE』も今年は1000万円に"縮小"した形で開かれることとなっている。

2.eSportsプロリーグと収益構造

eSportsタイトルの中でも、複数のプロが属するチーム同士が争うプロリーグを開催するタイトルは少なくない。前述の『ストリートファイターリーグ: Pro-JP』の2018年度の開催のように、黎明期は大会向けの即席チームを編成する例もあったが、現在は法人化してプロ選手と契約を結んだプロゲーミングチーム同士が争う形のリーグが大半である。

プロゲーミングチームの運営にあたっての売上に関しては、グッズ売上や賞金等複数の収益要素がありながらも、スポンサー費が大きな割合を占めるのは否めないところだ。強豪eSportsチーム『DetonatioN FocusMe』を抱える『GameWith』の決算資料を観ると、大会賞金・支援金に次いでスポンサー費が売上中の大きな割合を占める。

前述した一部タイトルのリーグ縮小やスポンサーの撤退に伴い、プロゲーミングチームも厳しい運営を強いられている例も見られる。13年の歴史を持つ老舗チーム『SunSister』のチーム解散などは記憶に新しいところだ。

3.KONAMI 『BEMANI PRO LEAGUE』の取り組み

日本国内のアミューズメント事業大手『KONAMI』もeSportsプロリーグの運営に取り組む法人の一つだ。しかしながら、その運営は前述の各プロリーグとは一線を画するものとなっている。『プロ野球スピリッツA』のプロリーグ『eBASEBALLプロスピAリーグ』も開催しているが、ここでは独自の取り組み例として音楽ゲーム『BEMANI』を競技タイトルとした『BEMANI PRO LEAGUE』(以下、『BPL』)を取り上げる。

3-1.オペレーターとの二人三脚

『BPL』も他タイトルのプロリーグと同様、複数のプロプレイヤーと契約を結んだチーム同士でタイトルを争う構図となるが、特徴的なのはチームの運営母体がいわゆるプロゲーミングチームではなく、ゲームセンターを運営するオペレーターである点だ。

いわばアミューズメント事業のビジネスパートナーとしてのオペレーターに『BPL』への参加を促すことは、リーグ自体を直接顧客にリーチする広告媒体として提供する形となる。それだけではなく、『BPL』と連携した各種ゲーム内イベントにおいて参加オペレーターを優遇し、顧客誘導を促す仕組みも設けられている。例えば各シーズンごとに開催されるイベント『みんなで応援!プロ選手サポーターズ』では、参加オペレーターの店舗でゲームをプレイすることで、通常よりも多くのイベント用アイテムを手に入れることができる。

オペレーターはこれらの効果に期待してBEMANI各種タイトルの機器を追加導入し、音楽ゲームファンに環境の充実ぶりをアピールする。『BPL』を通じてKONAMIは機器売上の増加、参加オペレーターは集客とインカム増加を目指す互恵関係にあると言える。

3-2.兼業前提のセミプロによる構成と夢舞台の提供

プロプレイヤーとの契約形態も独特である。『BPL』は開催当初こそ賞金総額2,000万円を謳っていたものの、初回の『BPL2021』の表彰式を観る限り賞金が渡された様子はなく、翌年の『BPL Season2』以降は特に賞金に触れられていない。

また、『BPL SEASON4 beatmania IIDX』はドラフト会議でのチーム結成から5カ月強に渡るシーズンを戦うことになるが、選手への報酬額は『最低220,000円』と定義されている。プロ選手と言えど、リーグないしはチームから与えられる報酬だけでは到底生計を立てられない形だ。

これは、『BPL』が選手を安価で使い潰すことを意味しない。『BPL』は基本的に1カ月1回の週末に集中して試合を行い、週刊のYouTube配信は収録の形で行われる。収録日を少なくすることで選手の負担を軽減し、プレイヤーが本職を辞することなく参加できるような設計となっている。報酬額が抑えられていることでオペレーターによるチーム運営のハードルを下げるとともに、専業での参加には二の足を踏む強豪プレイヤーの参加を可能としてリーグのプレイレベルを向上させる仕組みである。

前述のとおり控えめの報酬額でありながら、『BPL』の舞台を目指すプロプレイヤー希望者は後を絶たない。これは『BPL』がDJによる進行やオープニング・エンディングライブといった演出面、また自社スタジオ『e-Sports 銀座 studio』での音響効果に力を入れることにより、『BPL』はプレイヤーたちにとって憧れの『夢舞台』となっているからである。報酬に限らず魅力的なプレイ環境を提供することでプロプレイヤーに報いる形になっているのも、『BPL』の特徴の一つである。

3-3.スポンサーに頼らない運営と収益構造

さて、本来eSportsプロリーグを開催するにはスポンサーがつきものである。例えば『ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2023』では大会賞金を提供する『太陽ホールディングス』や『マウスコンピューター』、シャンプーブランド『CLEAR』(ユニリーバ)等がスポンサーに名前を連ねている。

ところが『BPL』では、Red Bull以外にスポンサーのロゴが見当たらない。参加各チームは母体オペレーター以外にもスポンサーを募っているものの、リーグ自体にはスポンサーが付いていないも同然なのである。

では『BPL』はどのような形で売上を上げているのか。まずユニフォームを始めとした公式グッズの販売を行っているが、これは他のe-Sportsリーグでも珍しくない施策である。他には有観客開催時のチケット販売が挙げられる。

ここで注目したいのがチケットの販売価格である。『BPL SEASON3 SOUND VOLTEX』決勝の会場での観戦チケットは最低価格が9,350円と、他イベントに比べ心持ち高めに設定されている。単純に高価に設定しているだけではなく、会場では準決勝・決勝合わせて3試合の合間に合計3時間弱のDJライブが行われ、高価格ながらもユーザに対して高付加価値の環境を提供しようとする姿勢が徹底している。

一方で自社拠点のコナミクリエイティブセンター銀座1階を改修してeスポーツCAFE&BAR『STROPSe』を設け、『BPL SEASON4 beatmania IIDX』からはパブリックビューイングも自ら手掛ける。他のeSportsリーグでは飲食店チェーンと協業したりパブリックビューイング用のチケットを事業者向けに販売し他者に委ねる形もあるなか、あくまで関連サービスも自社で提供していく姿勢だ。

自社でサービスを提供しコアユーザに収益を頼る構造は、一面ではリーグの運営方針が既存ユーザにばかりおもねることを招きかねない欠点はあるものの、経済状況によるスポンサー撤退の影響を受けにくい面ではプラス面でもある。

3-4.KONAMI eSports推進室が描く未来

KONAMI決算資料を辿ると、アミューズメント事業では2023年の売上高は264億円、利益は52億円と、コロナ禍の影響を受けた2020年度の減収減益を完全に取り戻している。もちろんこれは『BPL』や音楽ゲームだけの収支ではないが、決算短信資料では毎期のように『BPL』に触れる記述が存在する。『BPL』は一定以上の成功を収めているように見える。

では『BPL』はどのような将来像を描いているのか。
コナミアミューズメント・eSports推進室長の植松斎永氏は『BPL』について将来的には音楽とゲームが組み合わさったフェスのような形態を目指すと語っている。

2024年3月に船橋アリーナで開催した『BPL SEASON3 SOUND VOLTEX』決勝では、楽曲提供アーティストによるCD・グッズの即売スペースやキッチンカーによる飲食物の提供などを新しく行った。決勝戦後の表彰式で植松氏は大会運営・イベント開催にあたり「今回は色んなチャレンジをさせていただいた」と振り返っている。

同じeSportsの枠として年頭にあるのは、おそらく『RAGE VAROLANT』や『RIOT Games One』などの、大会を核としてゲームファン向けのサブイベントやフード提供を行うような形だろう。しかしながら『BPL』はそれらのイベントで取り上げるゲームの規模には残念ながら及んでおらず、同じ規模感で真似ることにはまだ無理があると感じる。

ここでeSportsから離れた参考例を取り上げたい。3on3バスケットボールのプロリーグ『3x3.EXE PREMIER』は、DJによる音楽プレイとスポーツの融合、兼業前提のプロ契約と『BPL』に近い方向性を指向しながら、ショッピングモールやイベントスペースにて試合を開催し半無料にて観客を集めることで、発足から10年にわたり各地に賑わいを作り出している。eSports推進室が目指す『BPL』の将来像への参考事例は、広い視野で見ればまだまだありそうだ。

4.終わりに

コロナ禍の下での発足から決勝戦の有観客開催、そして最新シーズンではリーグ戦を含めたオフライン・オンライン有料視聴と、シーズンを重ねるごとに新たな施策を試みる『BPL』。今後の発展にもぜひ期待したい。

『BPL SEASON4 beatmania IIDX』はいよいよ7月24日から週刊の無料配信が始まる。『BPL』の配信は基本的に2時間前後に収まるようにできており、eSports初心者でも見やすいパッケージである。『BPL』の競技自体の楽しみ方については、公式ページ以外にも熱心なユーザのnoteやブログにて多くの発信が行われている。本noteやこれらの記事を読んで興味を持たれた方は、一度配信をご覧になってみてはいかがだろうか。


参考文献

https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS71098/d7559107/c116/47c1/8503/7628b614f818/140120240410568282.pdf


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