プレゼンテーション8

ミルクボーイの漫才は何が新しかったのか

前回、ミルクボーイの漫才について知の深化と知の探索の点から考察を行いました。今回は、ミルクボーイの漫才の新しさを新結合の点から分析をしてみます。

シュンペーターが著書の経済発展の理論で指摘したように、イノベーションは新結合(new combination)から生まれると言われています。ミルクボーイの漫才の新しさを新結合から分析することで、新規事業のヒントを探したいと思います。

ミルクボーイの漫才の構成を考えると以下の図のように図解できると考えます。

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以下ではそれぞれの構成要素について見ていきましょう。

あるあるネタ

最初のあるあるネタは、お笑いでは定番化しています。テツアンドトモの「なんでだろう」やレギュラーの「あるある探検隊」のネタ等が代表的でしょう。

ミルクボーイの漫才も個々のパーツ自体はあるあるネタから構成されています。例えば「栄養素の五角形がすごい」「子供の頃みんな憧れた」「パフェのかさ増しに使われる」といったのは、コーンフレークのあるあるネタです。ただ、コーンフレーク一本に絞りあるあるネタをすることで知の深化が行われています。

他方で、「晩御飯でもいける」「ジャンルでいうと中華」と言ったことはあるあるネタではなく、コーンフレーク可能性に言及しており、まさに知の探索が行われています。「コーンフレークちゃうやないか」については、新規事業の視点で見ると、「晩御飯でもいけるコーンフレーク」、「中華風コーンフレーク」という風に新しい事業アイデアとも考えられます。個人的には「晩御飯でも食べられるコーンフレーク」をどこかの会社が販売するのではいかとにらんでいます。

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リズムネタ

二つ目はリズムネタです。リズムネタは多くの場合、先述した「なんでだろう」や「あるある探検隊」のように、あるあるネタと一緒に使われることが多いですが、8.6秒バズーカのラッスンゴレライやピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」のように必ずしもあるあるネタと一緒に使われるわけではありません。

ミルクボーイの漫才はしゃべくり漫才に分類でき、音楽が伴ってるわけではないので、いわゆるリズムネタではないですが、ボケの駒場による「おかんが言うには」とツッコミの内海の「やっぱコンフレークやないか」「ほなコーンフレークとは違うか」の繰り返しにより、結果的に絶妙なリズムでテンポよく漫才が繰り広げられるようになっています。さらに、内海の話し方の滑舌が良く決して早口でスピーディではないにも関わらず、聞いていて心地よい感覚にさえなります。

加えて、ツッコミについては、「やっぱコンフレークやないか」は知の深化、「ほなコーンフレークとは違うか」は知の探索となっていて、この二つがリズムよく行ったり来たりするので、お笑いの幅も広がり、飽きが気にくいという特徴もあります。

天丼

ミルクボーイの漫才には、天丼といったお笑いの技術も活用されています。天丼とは、ニコニコ大百科では以下のように定義されています。

同じギャグやボケを二度、三度と繰り返して笑いをとる手法のことを指す。余り間を置かずに畳み掛けるように使ったり、他者のボケに乗っかる形で重ねる場合は、かぶせ(る)と称することもある。

私がはじめて天丼の概念を知ったのは、1990年代のダウンタウンのHey Hey Heyで以下のようにまっちゃんが解説してくれた時です(ゲストは瀬戸朝香)。

これね、天丼というですけどね。同じことを2回いうんです。ほな、1回目より2回目の方がうける。3回目はね、いまいち受けないんですよ。

まっちゃんは連続で同じことを言うパターンの天丼をたまに使い、浜ちゃんが「なんで二回言うねん」と突っ込むことがほぼ定番になっています。脱線しますが、漫画ハンター×ハンターはこのダウンタウンのやり取りからハンターを2回入っているタイトルをつけたとのことです。

ミルクボーイでは、「やっぱコーンフレークやないか」と「ほなコーンフレークとは違うか」という言葉を通じて、天丼を駆使することで、使えば使うほど笑いが増えていくテクニックを使っています。

伝統的しゃべくり漫才と近代漫才が土台にある

ミルクボーイの漫才では上述した、あるあるネタ、リズムネタ、そして天丼の3つのお笑いのスキルを駆使しながらも根底には、しっかりとしたしゃべくり漫才と近代漫才のツッコミを駆使することで新たな新結合を生み出しました。

しゃべくり漫才は前回のnoteでも書いたように「ネタの途中で2人とも特定のシチュエーションを模した芝居に突入しない形式の漫才を指す。いわゆる、正統派漫才と言われるもの」といったものです。

他方、近代漫才については、M-1グランプリ2018での霜降り明星の漫才に対するオール巨人のコメントを以下で、引用して説明をします。

最近の漫才、近代漫才というか何年か前からツッコミの言葉の多さ、ボキャブラリーというんですか、粗品くんがそれを完全にやっている。せいやがぼけて粗品が今度突っ込むときにもう待ってるもん。次何言うんかな、何いうんかな、みんながもう待っているもん。そのみんなが思っていることのちょっと上のことを言うからどんどんはまっていて、最初から最後までずっと爆笑でしたね。

端的にいうと、ボケに対して、観客の想像力を超える、語彙が豊富なツッコミを入れるということでしょうか。タイプでいうと、フットボールアワーや銀シャリのツッコミが近代漫才と言えるでしょう。

ミルクボーイも典型的な近代漫才です。すなわち、駒場の「おかんが言うには」からはじまり、ちょっとしたボケを大きく広い内海のツッコミのボキャブラリーで笑わすというものです。

例えば、コーンフレークにおける「おかんが言うにはみんな憧れた」というボケに対して、ツッコミでは、すかさず「コーンフレークやないか!コーンフレークとミロとフルーチェはみんな憧れたんやから。あと、トランシーバーも憧れましたよ!」とボケの3倍ぐらい話します。もちろん、ここではあるあるネタ、リズムネタ、天丼といったスキルも使われれることでさらに笑いが何倍にも増す仕掛けがあります。

このようにミルクボーイの漫才は伝統的なしゃべくり漫才に近代漫才のツッコミを入れることで、懐かしくも新しい漫才となっています。

実際、審査委員だった上沼恵美子はミルクボーイの漫才を以下のように評していました。

もーう、一番笑いましたね、今日は。それとこのセンスね。ネタのセンス。これは抜群ですよ。この角度のセンスを持ってくると言うのは本当考えられない顔立ち。いや顔立ちは少し老けられていらっしゃるのでね。(司会の今田が「昭和の顔立ち」とフォローする)すごい垢抜けている!新しい!

顔立ちは昭和で伝統的なしゃべくり漫才ですが、センスとしては近代漫才を用いていて新しいと言うことなのだと理解しています。

イノベーションは新結合から生まれる

上述したように、ミルクボーイの漫才は、伝統的漫才と近代漫才をベースにあるあるネタ、リズムネタ、そして天丼といったスキルを総動員して行われる漫才です。漫才のタイプや個々のテクニックに分けるとそれぞれを使いこなせる芸人は当然にいるでしょう。

しかし、これらをすべて高いレベルで使いこなし、さらに統合して新たな漫才として世に出せる芸人はどれぐらいいるでしょうか。おそらくミルクボーイだけでしょう。ここで、M-1グランプリ2019の審査委員だったナイツの塙のミルクボーイの漫才時のコメントを引用します。

誰がやっても面白いネタプラスこの人たちがやったら一番面白いというのがベストなネタだと思うんですよ。考えたことがあるんですよ、こう言うパターンも。だけどこんなに面白くできなかったですし、たぶん人の力と言葉の力とセンスが本当もう凝縮されていたので、もうほぼ100点に近い99点です。

塙のコメントのように、それぞれのスキルに加えてミルクボーイがやるからこそM-1史上最高得点となるベストなネタが生まれたものだと思います。

新規事業における新結合

新規事業や起業に取り組むにあたって、ミルクボーイのネタからどういった学びがあるでしょうか。

まず既存の技術の組み合わせはやはり重要だと言うことがわかります。その際には、近いものだけを組み合わせるのではなく、遠くを組み合わせる知の探索がやはりキーワードになります。

今風の若手の芸人がミルクボーイのネタをやっても、ミルクボーイのような爆発力は出ない可能性が高いです。ミルクボーイのような昭和な出で立ちが、昭和とは遠いところにある近代漫才をすることで、一層個性が引き立つようになります。

次に、知の深化の重要性です。新結合においては知の探索が注目されがちですが、その前提としては知の深化が当然に必要となってきます。ミルクボーイのネタで言うと、一つのことをとことん深ぼるといったスタンスです。

2010年以来の復活となったM-1グランプリ2015において、ジャルジャルは言葉遊び的な斬新なネタをやりました。例えば「幼き頃」といった普段は使わない言葉をいったり、「子供小便百たたり」のような聞いたことがないような諺をいったりするようなダブルボケのやり取りをし続けるというような漫才です。この漫才自体、個人的にはすごく面白く感じたのですが、初代M-1王者の中川家の礼二のコメントは少し厳しいものでした。

よううけてましたし、良かったと思うんですけども、まぁ細かい言葉のそういうのが、ラリーが多かったなと。大きなネタの枠があって付録でそういうのをつけてもらえるとより漫才っぽくはもっとなったかなと、ちょっと。

当時は礼二のコメントの意味がいまいちわからなかったのですが、ミルクボーイの漫才をみて、さらに前回のnoteで記載したようなブラックマヨネーズやチュートリアルの漫才を振り返ってみて、漫才の大きな枠としてひとつを深ぼる知の深化がいかに重要かと言うことを再認識させられました。

ジャルジャルの漫才は知の探索という点では確かに縦横無尽に探索してたと言えますが、知の深化という点で深掘りが弱かったのが課題だったのかもしれません。

最後に個性を活かすです。企業で言うところのコアコンピタンスというところでしょうか。経営学の点で言うと、希少な資源をを活かすResourced Based Viewとも言えます。まさに塙のいう「誰がやっても面白いネタプラスこの人たちがやったら一番面白い」ということを新規事業でも実践することが重要になるでしょう。

このように、新規事業もミルクボーイの漫才のように知の深化、知の探索、そして企業の個性が絶妙に重なり合って初めて産まれるものと考えます。

新規事業に行き詰ったら、お笑いを見ることで気分転換をするとともに、新たな事業のタネを探すきっかけにしても良いかもしれません。新しいことを生み出すといった点では、お笑いも新規事業も同じですしね。

GOB Incubation Partners株式会社 CFO
村上

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