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生傷が絶えない日々


子供の頃と比べるまでもなく
治りは遅いし
不自然な色をした傷跡は
おそらく生涯残りそうだ
歳を重ねる毎に生傷が絶えない
because
なぜなら
走り出したからだ
歩き
ならば水域は低い
駆け出した瞬間に
不穏さが身に纏う
エネルギーの発露
は不安定さも伴う
思い返すと
足元が疎かになってしまっている時ほど
転倒している
急いでいるとき
焦っているとき
考え事をしているとき
意識が頭に
上へ
上へと
囚われていると
足元を掬われる
転ぶときは
いつも顔から
ノーガード
アスファルトに打ち付けられている
試合後のボクサーフェイス
腫れ上がる瞼
頬から溢れる赤
脈打つ心臓
ポンプが血を巡らせる
裂け目を目指して


転倒するたびに
肝が据わる
考えてもみてほしい
アスファルトに全体重を乗せて
ぶつかりにいくのだ
無防備で
重量に逆らえないままに
全身の8か所
左の頬

左肩
左胸
左右の掌
左の脇腹
右膝
この間転んだ時の負傷箇所だ
一度の転倒で
このザマだ


やあそこの無頼漢
あなたは
あなたの拳は
このコンクリートよりも硬いのか?
私はこのコンクリートにぶん殴られても
すぐさま立ち上がれるし
それでも
走り続けているよ

ふとグレンを思い出した
誰にやられたんだ?
数年前のクリスマスパーティーの出来事だ
その時も転んだ直後で
目の周りが腫れ上がっていた
いや
転んだだけだよ
夜道は危ないね
なんのメタファーもなにもない
でも
殴られた人間が
転んだだけだって
弁明しているようにも
受け取られかねないような
そのくらい酷い怪我をしていたし
グレンは本気で心配をしてくれた
実際のところ
ほんとうに転んだだけなんだけれどね

みんなそんなには走らない
走る理由もないだろうし
だから転ぶ事にも慣れていない
慣れなくてもいいんだけれど
傷みを知ることで
傷みを想像できるようになる
実感が湧くんだ

足が地についている
足が地を離れる
足が地に着地する
繰り返し
繰り返し
離陸して
着陸して
そうして前に進む
はしることってつまり
地上3センチメートルの
フライトなのだ
飛ぶ
跳ぶ
翔ぶ
早く早く
速く速く
無限にも感じる
今も
まだ旅の途中
終着駅は誰も知らない














雨ニモマケズ 風ニモマケズ