見出し画像

《サス経》 最初の一歩はグリーンウォッシュ!?

 最近いろいろなところでグリーンウォッシュについて聞くことが増えてきました。多くの国でグリーンウォッシュに対する警戒が増え、そして実際にそれを規制するルールが作られたり、線引きが厳しくなっていることと関連しているでしょう。

 おそらく最も多いのはカーボンニュートラルやネットゼロなどの主張に関するものであり、そしてカーボンクレジットに対する疑義もあります。

 そこで国連がネットゼロについての厳密な定義を作ることになったり、アメリカやEUはグリーンウォッシュ全般に対するルールを強化し、罰金を増額した国もあります。

グリーンウオッシュが話題になるのは悪いことではない

 かなり混乱しているようにも見えますが、私はこれには良い面もあるのではと思っています。なぜなら、まず一つにはグリーンウォッシュが争点になるというのは、それだけグリーンであるという主張が意味を持つことになって来たことの証しだからです。誰もグリーンに価値を感じなければ、グリーンであるとの主張をすることもありませんし、またその真偽をめぐって議論になることもないでしょう。

 もう一つは、これはグリーンの質がより高度になってきた厳密になってきたということの表れでもあるからです。カーボンクレジットがその例ですが、厳密に考えるとカーボンニュートラルへの意味がないということがわかった、という場合には、そうした議論によってより意味があるグリーンな取り組みや主張が残っていくのですから、これも良いことです。

 一方で、広告等のクリエイターがグリーンを主張することに興味を持ちながらも、グリーンウォッシュになってしまうことを恐れて、あるいは批判されるかもしれないことを恐れて、グリーンであるとの主張を控え始めたということも話題になっています。

 きちんとした根拠なく、雰囲気だけで「グリーンである」と主張することがしにくくなったのはもちろん良いことですし、堂々とグリーンであることを主張できるよう、クリエイターを含めて多くの方が環境、そしてサステナビリティについてきちんと勉強しなくてはいけなくなったことも歓迎すべきことです。

 ただ、知識や情報不足で正しい判断ができず、過度に保守的になってしまうことは残念ですし、本当にグリーンな情報まで届かなくなってしまうことはあってはなりません。そうした懸念から、ユニリバーのような会社がクリエイターたちに正しい知識を提供するなどの支援を開始したのは良いニュースです。


善意の主張が仇となるとき

 グリーンウォッシュにならないために注意すべきことについては、いくつもガイドラインや基準がありますので、ここでは触れません。代わりに、ここでは日本でよく聞かれるある主張について考えてみたいと思います。

 それは「全く何も努力をしないよりは、少しでも努力をしたほうが良いのではないか」、そして「もしそれがグリーンウォッシュだと言うのであれば、誰も前には進めなくなるのではないか」という懸念です。

 確かにその通りなのですが、逆にこうした善意の主張が問題を悪化させてしまうこともあります。

 具体的に例を挙げると、日本における認証パームオイルの問題があります。日本では「認証パームオイル」と言っても今だクレジット方式のものがほとんどですが、これは本来は認証パームオイルとは呼べないものであり、実際、他の先進国では持続可能なパームオイルを実際に含むマスバランスや、100%が持続可能であるパームオイルのセグリゲーション(本来の意味での認証パームオイルはここから)への移行が進んでいます。

 ところが日本ではクレジット方式やマスバランスも「認証パームオイル」と呼び、あたかも問題が解決したかのような誤解を招いています。これは問題の解決を遅らせるだけでなく、当の企業にとっても国際的な競争力を失ってしまうという意味で、決して良いことではありません。


結局どうしたらいいの??

 では、最初の一歩はどうしたらいいのでしょうか? 完全に問題を解決してからでなければ貢献を主張できないのでしょうか? いえ、そんなことはありません。

 そのようなときには、どのような問題があるのかその全体像を自分たちがきちんと把握しており、また自分たちがいつまでに、どのようにその問題を解決するつもりなのかを明言すれば良いのです。

 特に最後までしっかりと解決するのだというコミットメントを示すことは非常に重要です。それを示した上での最初の一歩であれば、全体から見るとまだわずかな進捗であっても、それは致し方ないことです。そして、そうやって全体像、目的地、期限、進捗を示すことは、問題解決に向けて前進し続ける活動力にもなります。

 少しでも努力する、最初の一歩を踏み出すのはとても勇気のいることですし、大切です。しかし、その美しい言葉だけで終わらせず、その先を同時に示すことが、これからの時代ますます重要になるのです。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹


※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)480(2023年11月27日発行)からの転載です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?