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龍涎香という仮説

干支の香水「Amber Chello」について元日の昨日書いた。

龍涎香の別名を持つアンバーについて、歴史を紐解きながら、人類の不思議について思いめぐらせた。

正体不明のアンバーを巡る人類の仮説
焚香料として、植物性のものにはない香りの重厚さや持続性などで、もてはやされていたアンバー(現在の正式名称はアンバーグリス)。
マッコウクジラの排出物とわかるのは11世紀以降で、それまでは、運がいいと見つかるこの浮遊物について、人類はいろいろ仮説を立てていた。
海底の泉から噴き出した泡が固まったもの、
深海植物が海中の謎の生き物に食べられ排出されたもの、
インド洋にアンバーの元が湧きだしており、怪物がそれを飲み込むが、あまりの熱さに吐き出したもの、
だとか、いろいろな説でこの出自を探った。
中国にもたらされると、中国の人なりの解釈で、龍の涎が固まったものと、換骨奪胎なのか本質は継承されているのか、そんな風になったので「龍涎香」となった。そしてその名で日本にも伝来した。
龍たちの棲む深海の岩にもたれて眠る竜の涎が固まり、海上に浮遊すると鳥が集まってくる。集まる鳥をみて人が採取に向かうという起承転結だ。

『東方見聞録』、『白鯨』にも記述
クジラの排出物と分かると、捕鯨に際しては鯨油や骨肉以上に、アンバーが重要な成果物になっていた。マルコポーロも東方見聞録に捕鯨のこと、クジラの体内からアンバーを探し出す様などを残している。
現在は捕鯨で村八分状態の日本だけれど、明治期まで、日本近海で取れたマッコウクジラから得られるアンバーに血眼になったのは西洋人の方だった。
未読だけれどハーマン・メルヴィルの『白鯨』にも捕鯨時にアンバーを探す描写が詳しいらしい。

現代、再び幻の存在になったアンバー
初めてアンバーに遭遇した時には、正体がつかめず幻の生き物に纏わる出自を人々は想像した。
十数世紀を経て、今度は捕鯨の制約などもあり天然のアンバーは再び伝説の存在に戻った。
天然のアンバー、それは私たちの想像の中にしか存在しない現代。不思議な巡り合わせはやはり龍の名に相応しいのかもしれない。

アンバーを拾った人類の不思議
さて、伝説をよく見ると、得体のしれない怪物から吐き出されたという想像が多い。色や形態、そのままの状態の生臭い(であろう)ことから、きっとそういう想像をしたんだと思う。
そういうものを拾い上げ、ポイと捨てずに、火にくべてみた人類の好奇心。
もし今、得体のしれない灰色の塊を海上で見つけたら、海洋ゴミの塊か、あるいは何かの実験の危険な化合物か、とにかく、拾ってみる気にならなかったのではないだろうか。

ウニを見てなんでこれを食べようと思ったのか、いつも不思議だった。
同じように沈香木も、乳香や没薬も、そのままの状態からは火に焚べた時の類稀な芳香は想像もできない。海上を漂う灰色の塊もそうなら、このアンバーと同じ動物性香料のムスクやシベットにも同じことが言える。動物の生殖器近くにある体内器官に、濃厚で独特の芳香が内包されているなど、想像も及ばない。
何に導かれて、人類は、これらを香りの文化に招き入れてきたのだろう。

アンバーという香料の数奇な歴史は人類の謎の思考言動の歴史でもあるのかもしれない。

#note100日
#コルクラボ
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追記:これを書いている今、令和6年能登地震の被害の状況が新たに伝えられてきている。とにかく祈っています。

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