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トスカ 3月9日〜365日の香水

逸脱したオーデコロン
常識をはみ出ることは、奇跡につながる。
香水は、どのくらいの比率で香料が入っているかによって、パルファン(parfum)、オードパルファン(eau de parfum)、オードトワレ(eau de toilette)、オーデコロン(eau de cologne)の4つの種類に分けられる。
この賦香率によって、香りの持続時間も、香調がライトかヘビーかも異なってくる。
オーデコロンは賦香率が最も低いから、持続時間も短く香りはライトな傾向。
そういう定石から逸脱したオーデコロンがこの世に存在していた。

tosca/4711/1921
よくこれがこんな良い状態で保管できていたと思う。
裏に製造国として「西ドイツ」の記載があるから1949年以降、90年までの間に販売されてたもののよう。
オーデコロンの名門4711社(現在の親会社はmaurer&wirtz)からの販売と言うプロフィールになっている。
こんなオーデコロンは初めてだった。
アンバーが立ち上がりこくのある甘さが続く。重くて深みのあるオーデコロン。アンバーやバニラ、パチョリが使われているからラストノートから香りはかなり持続するので、通常1〜2時間と言われるオーデコロンタイプなのに5〜6時間はしっかり香っている。
リリースが1921年だから、黄金の20年代に色香を漂わせる女性のようにふくよかで余韻のある香り。

オペラ トスカ
何度も観たわけではないけれど、大好きなオペラ。
「歌に生き愛に生き」は、ヒロインのトスカのアリア。歌手であるトスカは芸術の道に精進し、神への愛も持ち続けてきたのに、恋人のカヴァラドッシが死刑台に送られると知った時の絶唱。
1900年にオペラは初上演されたというトスカはとても見せ場の多い作品なので20年後にはすっかり定番、人気作品として定着していたのではないかな。
トスカといえば誰もが一定のイメージを抱くくらいに。
トスカを何度も演じた伝説の歌姫マリアカラスは1923年生まれだから、この香水はカラスのトスカを知らずに創作された。
それでも、スイートパウダリックに落ち着き始めるラストノートはカラスの包容力溢れる声音に重なる。
同時に、恋人カヴァラドッシの悲嘆のアリア「星は光りぬ」の劇的で悲哀に満ちた旋律を、この香りのトップノートからミドルノートにかけての流れに、私は感じる。
私にとってはそのトスカで真っ先に浮かぶのは実は星は光りぬ、の方。
「歌に生き愛に生き」にしても「星は光りぬ」にしても、抗えない悲運を絶唱しながらも、根底にあるのは絶対的な愛であり、美しい思い他人への情愛なのだ。
神でも恋人でも、大切なものを思うとき、人の心はふくよかにたおやかになる。
その血の通うようなドラマを切り取ったのが、オーデコロン トスカだ。

香り、思い、呼吸。
3月9日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。

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