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ナイルの庭 4月7日〜365日の香水

自然と調香
「調香師の最大のライバルは自然」、ジャン・クロード・エレナはかつてそんなことを何かに書いていた。
それを裏付けるかのように、エルメスでは、彼はたくさんの「庭シリーズ」を手がけた。地中海の庭、モンスーンの庭、屋根の上の庭、そしてナイルの庭。 
地中海の庭については、そのクリエイティブの発端となった旅先での嗅覚的な体験をエッセイにも綴っていた。
地中海の風が運ぶ海や土の香り、自生する植物、その“場”を感じた途端に始まる匂いの分析、そして実際にはその場にはない果実をそこに加えてみるという想像。
巨匠が創りたい香りのヴィジョンを完成させた瞬間の描写が、とても興味深かった。
特に、その場にはない香りの要素を追加するところ。
調香師は、自然にインスパイアされながら、液体となって表現されるときの香水の“カタチ”を同時に設計できているのだ。
それは、カメラマンが被写体を肉眼で捉えながらも、レンズを通して映した結果を見ることができているのに似ている。

ナイル
香りに携わっているものならば、その歴史に触れる意味でエジプトは訪れたい地の一つ。デルエルバハリの神殿にはプントとの交易でハトシェプスト女王が持ち帰った多くの戦利品がレリーフされている。乳香、没薬、乳香樹と没薬樹、そのヒエログリフもこの目で確かめたい。
神殿で朝昼晩とささげられていた焚香の余韻を数千年を経て想像したい。
何よりエジプト文明の源、ナイル川を臨み昇る日沈む日を体感したい。
調香師は、アスワン地域のナイル川に浮かぶ小さな島セヘルを訪れて、この香水のビジョンが浮かんだということだけれど、岩だらけのこの島の実際の匂い以上に、ナイル川流域のたくさんの光景と歴史そのものが香水に投影されたのだと思う。最も顕著なのはブルーロータスだ。

un jardin sur le nil/ hermes/2005
上空を舞うレースのような軽さがジャン・クロード・エレナの真骨頂と私は思っている。エルメスでの初期のこの香水にもそれが存分に発揮されている。
エジプトをテーマにしながらオリエンタルや乳香などのレジンに持っていかず、グリーン、ハーブ、シトラスで香りはまさに高く空を舞う。
ナイルを渡る風、バザーのフルーツ、ロータスの花、この軽やかな香りは、不眠がちだったあの女王をいい夢に誘いそうだ。

香り、思い、呼吸

4月7日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。

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