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その場しのぎでゆるく要領よく生きたい

ある人から「人付き合いも合理的にするんだね」と言われたことがある。

それまで私は自分のことを合理的だとは気づかなかったが、常に彼の意見には一目置いていたこともあり、とても納得した。

彼は私にロックミュージックやライブに関してのありとあらゆることを教えてくれた人。

私の音楽の好みを把握しておすすめバンドを教えてくれたのが始まりで、ライブに行くときには黒Tシャツを着たほうがいい、会場近くの空いているコインロッカーはここ、などなど、何かにつけ面倒見のいい人で。
アルコールを飲まない私にとって、ドリンク代500円でミネラルウォーターかウーロン茶は高いからと、彼が私からビールを500円で買い取ってくれたりもした。

何事も細かいところまでよく気が付く彼に、合理的だと指摘されたことが、私は嬉しかった。

思い返せば昔からそうやって人付き合いをしてきた自覚はある。
10代のころ、ロリータに熱中したことがあったのだけど、当時はお店の情報も分からない。
私は方向音痴なので、お店に連れて行ってくれる友達、写真映えする場所を教えてくれる友達、ロリータ友達を増やしてくれる人脈のある友達など、友達の協力を仰ぎながら、自分の趣味を満喫していた。

でも今の時代、AIよりも物知りな友達などいやしない。
いや、ネット情報は不確かだ、ということもよくわかる。
それはそれで、非常にありがたい。

だって、ネット情報なんていい加減であいまいだから、ゴスラーが稼げるのだ。
私はネット情報の不確かさによって稼いできたのだから、ネット情報によって嘘情報をもたらされても文句は言えない。

真実かどうかなんて、ほとんどのことは本人が決めればいいとも思う。
この薬が効くのかどうか、ネットで口コミを見れば、投稿者の数だけ意見が存在する。

アイドルに寄せられるファンレターには、多種多様な妄想話が登場する。
「〇〇くんがライブで私のことを見つめてくれて嬉しかった!」
「私が結婚してって声に出したら、〇〇くんがうなずいてくれましたね。ありがとうございます! 私は〇〇くんとなら結婚してもいいと思っていたので、感謝してます」

最初は冗談かと思っていたが、たまにアイドルの熱愛報道などがあると、「〇〇君が変な女とデートしていたせいで娘が自殺しました」なんて母親からのお便りも届くので、どうやらアイドル相手に本気になる人も多いらしい。

本気の人には本気の人なりの真実があるわけで、真実というのは人の数だけ存在する。
ただ、自分の確固たる真実を持たずに、その都度、相手に合わせられるような人もいる。

そんな人のことをいいなあと思った時期もあった。
相手が白と言ったら、黒いものでも白に見えてくるような人。

相手がすすめてくる食べ物を世界で一番おいしいと思えて、相手にうまく寄り添いながら会話ができて、そう、いわゆる共感。
共感力の高い人に、なんとなくあこがれを感じたことがあった。
共感力を高めたいと思ったり、自分は自分でいいやって思ったり、そういう揺れ動きも含めて自分なんだ、と思う。

42年間に感じ取ったすべての感情や感覚が、今の私を形成している。
すべての積み重ねがあって、今の私になれている。

たまに、「あー30歳の時にあの人にああ言われたなあ。あの時はろくな返事ができなかったけど、今ならこういう言葉を返せるのになあ」と思うことがある。

20歳の時よりも30歳のほうが少しはましな会話ができて、30歳の時よりも40歳のほうが少しは納得のいく返しができる。
10年長く生きればそれだけ知恵もつくのだろう。
早く50歳になりたいし、早く60歳になりたい。

こんな私でも年を重ねれば少しは深みのある人間になれるのか。
まあ十中八九無理だろうけど、それならそれで、ゆるく浅くその場しのぎを続けた10年後なら、今よりもっと楽に、要領よく生きられるようになっている気がする。

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