見出し画像

上方落語が10倍面白くなるアニメ「うちの師匠はしっぽがない」を見ない手はない。

2022年の冬アニメもそろそろ終盤。既に最終回まで放映済みのものもあるが、今期は粒ぞろいの大豊作といっていいと思う。個人的には良作が多すぎて持て余している感さえあり逆に手を付けられていない作品(例えば「チェーンソーマン」)も少なくない。そんな中で、屈指の良作でありながらあまりメディアで取り上げたれていない気がするお気に入りの1本を取り上げておきたい。それは「うちの師匠はしっぽがない」だ。

舞台は大正時代の大阪。人をバカしてやろうと淡路島の山奥から街にやってきた豆だぬき(メス)が、妙な流れから落語の魅力に取り憑かれ、一人前の噺家になるべく成長していくというコメディだ。人間の女の子に化けた豆だぬきは、当代きっての人気女流落語家・大黒亭文狐に拾われ弟子入りし、「まめだ」の芸名を与えられ、落語で人々をバカしてやろうと奮闘するが、人間のしきたりも文字を読むことさえもできずドジばかり。それでも、徐々に芸の世界の奥深さを覚えていくまめだ。その滑稽で健気な姿が愉快に描かれているのが本作の面白さだ。

そしてこのアニメのキモと言えるのが、ところどころに登場する落語の描写だ。文狐やまめだらが高座で話す演目は、「辻占茶屋」「寿限無」「東の旅・発端」などどれも上方落語でおなじみの古典。中には往年の桂米朝が得意とした「百年目」などの大作も登場する。またそれだけでなく、ストーリーの節々に落語を元ネタにしたやり取りがさり気なく登場するなど、落語好きの心を心地よくくすぐりにかかる。毎回、本編の最後にミニコーナーがあり、まめだ(CV:MAO)がその回に登場した落語や上方落語ならではの道具の使い方などを小気味よく解説してくれるので、落語がわからなくても安心してみることができる。落語を扱ったアニメと言えば「昭和元禄落語心中」などが有名だが、上方落語を扱ったものは珍しい。どちらかというと、NHKの朝ドラ「ちりとてちん」に感覚は近いと言えるだろう。

物語のテンポもスピーディーで心地よく、天神祭の天神さま(何故か幼女の姿)が神輿の中から飛び出しそれを見たまめだが高座そっちのけで必死で追いかける話などはいかにも落語アニメらしい楽しさが溢れ出ていた。そうかと思えば、文狐とその師匠との絆を描いた人情噺調の物語で場を引き締めることも忘れない。

ほんの100年前の、妙に懐かしく面白おかしい大正異世界浮世話とでも言うべき本作。正月休みにのんびり一気観してみるのはいかがかな?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?