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誰でも気が向いた時に働きに来られる場所を、まちの中につくろう

いつ来てもいいし、
いつ帰ってもいい。
たくさん働いてもいいし、
ぜんぜん働かなくてもいい。

そんなウソみたいな仕事場が、京都府の久御山町にあります。もちろん、働いたらその分のお給料をもらえるそうです。

「どんな人が来てるの?」
「どうやって管理してるの?」

色々な疑問が浮かんできますよね。

住宅街の一角にある「ACWA BASE」にお邪魔して、この場所をつくった株式会社アグティの代表取締役 齊藤 徹さんにお話を伺いました。

靴をぬいでお部屋に上がらせてもらうと、作業台が4つと、お菓子の並んだ休憩用テーブルが1つ。冷蔵庫やドリンクコーナーもあって、なかなか快適そうな空間です。お話ししている間にも、一人、また一人と地域の方が集まってきました。

僕たちも助かるし、皆さんにもお金を稼いでもらえる

── ありそうでなかった働き方だと思うのですが、なぜこういう場所をつくろうと思ったんですか?

齊藤:もっといろんな働き方をつくれないのかなって、ずっと思っていて。アグティでは、障がいのある方や高齢の方、引きこもっていた方など色んな人が働いてくださっています。

でも、会社での業務は、決まった日の決まった時間に来て働くことが前提になっていて、それが難しい人はやっぱり採用しにくいんです。どうしたら雇用契約以外のやり方で働く場所をつくれるんだろう……と考えて、誰でも気が向いた時に働きに来られる場所を、まちの中につくろうと思いました。

── 働きたいけれど、週に何日も働けるのか、ちゃんと求められた仕事をこなせるのか、自信が持てないという方がきっとたくさんいますよね。ACWA BASEの存在はすごくありがたいと思います。

齊藤:ここでは、工場で洗濯した衣類やタオルを、たたんで袋詰めしてもらっています。この「たたむ」っていう仕事がちょうどいいんですよ。おうちでも日常的にすることだから、気負わず参加してもらえます。

時給ではなく歩合制で、ノルマもないので、それぞれのペースで作業していただいて。僕たちも助かるし、皆さんにもお給料を持って帰ってもらえる。

── 今年2月にオープンしてからまだ数ヶ月なのに、すごくにぎわってますね。

齊藤:1日に5人来てくれるように頑張ろうって言って始めたんですけど、その目標は1ヶ月で達成しました。3月には7人になり、4月に10人になり、人が多い時には休憩スペースも作業台にして、どんどん仕事を進めてくださっています。

楽しいからもっと働きたいと言ってくれて、本社で採用になった人もいます。その流れは予想していなかったので、嬉しい驚きでした。逆に、本社で働くのがしんどくなった人には、ACWA BASEでいったん仕事のペースを落としてもらうこともできると気づきました。

仕事を通じて人のつながりを生むことが、企業の役割だと思った

── 今の社会には「働く」と「働かない」の間の選択肢が足りていないのかもしれません。効率や管理のしやすさを求めた結果なんでしょうか……。ACWA BASEでは、1日あたりの作業量が読めなくて困ることはないんですか?

齊藤:ありがたいことに、予想よりもたくさんの量を、わりと安定してさばけているんです。アグティスタッフが常駐していて、その日の様子を見ながら仕事量のコントロールをしています。

どれだけ自由な環境でも、仕事をしているとやっぱり責任感が生まれるみたいで、「あとこれだけ残ってるし、がんばって終わらそう!」って呼びかけてくれる方がいて。それも、必死にこなす感じじゃなく、ゲーム感覚で楽しみながら取り組める場所になっているのが嬉しいですね。

── 来られる方の年代や性別は、どのような感じですか?

齊藤:現状、20〜30代が2割、40〜50代が3割、60代以上が半分。口コミで広がって、さまざまな年代の方が集まってくれています。性別は100%女性です。小さいお子さんを連れてこられる方もいますよ。こちらからは何も決めないんですけど、だいたい同じ曜日の同じ時間帯に来られる方が多いみたいです。

今後、もっと幅広い方に参加してもらえたらという思いはあります。たとえば、認知症の方や障がいのある方など。でもこの場所は運営側がコントロールするべきじゃないと思っているので、なりゆきに任せるスタンスで見守っていくつもりです。

── お話を伺いながら働く皆さんの表情を見ていて、いい場所だなぁと改めて感じます。

齊藤:うん、僕もそう思います。毎日のように来てくださる方から、「ここがなかったら、私、引きこもったままやったわ」と言っていただいたことがあって。その方は去年ご主人を亡くされて、なかなか外に出る気になれなかったそうです。でも、友達に勧められてACWA BASEに来てみたら、人と話せるようになって、お金も稼げて、元気が出たって。

孤独・孤立が社会課題として注目されるようになって、人のつながりを生むために、行政や各団体が色々な取り組みをしています。その中で僕たち企業の役割は何かと考えると、仕事を通じて人がつながる仕掛けをつくることなのかなと。

── 仕事をして誰かの役に立っている実感が持てることって、生きていく上ですごく大事ですよね。

齊藤:2年前からこういう場所をつくりたいという思いはあったんですけど、僕一人では実現できないから、構想を伝えながら、社内の仲間がやろうと言ってくれるのを待っていました。嬉しいですね、こうやって皆さんが来てくれる場所ができて。すでに別の地域の方からも一緒にやりたいと声をかけてもらっているので、それぞれのまちに合うかたちで活動を広げていけたらと思います。

まちの中で仕事が循環する活動にしたい

── ACWA BASEの他にも、社会貢献という軸でどんどん新しい取り組みをされていますよね。その原動力は何なんですか?

齊藤:創業者から受け継いだ「会社は働く人のために存在する」という理念が全てですよ。自分なりに体現しようと考えるうちに、働く人が幸せでいるには、その人たちが住んでいる地域や社会が良い状態じゃないとあかんなと思うようになりました。

一方で、アグティは病院や施設の洗濯や掃除をさせてもらっているので、事業としてわりと安定してるんです。急に仕事が無くなるリスクもあまり高くないので、挑戦や成長をしなくてもある程度存続できてしまうという危機感は昔からありました。本当はそんなことないはずなのに。

── 齊藤さんは、常に新しいことに挑戦されている印象があります。

齊藤:社長の大切な仕事のひとつが、未来をつくることやと思うんです。リスクを負って新しいことに挑戦する決断はトップが一番しやすいから。そうやって本業から少し離れたところで動いていると、会社の今を支えてくれているスタッフに対して感謝の気持ちがものすごく湧いてきます。もっといい会社にしなあかんなと。

変化がないと、つまんないじゃないですか。人も成長しないし。失敗しても、そのぶん経験が増えるから結局プラスなんです。だから、ACWA BASEを始める時も「誰も来なかったらどうしよう」とは思ったけど、試すこと自体に意味があるという考えでした。

── ACWA BASEを通して実現しようとされている「地域循環ワークシェアリング」とは、どのような考え方ですか?

齊藤:ここの仕事は地域の中で循環することが重要だと思っています。遠くのまちから仕事を持ってきても、あまり意味がないような気がして。「あぁ、あそこの病院の洗濯物やな」って場所やイメージが浮かぶことや、施設の前を通った時に「私ここのお手伝いしてるねん」と話ができることを大事にしたい。ACWA BASEがきっかけで、その病院や施設を利用したり、就職したり、まちの中のコミュニケーションが豊かになっていくと嬉しいですね。

ここで働く人たちと、洗濯を依頼してくれている病院や施設の見学にも行きたいです。あとは、製造業が盛んな地域なので、工場の作業着の洗濯をお手伝いする仕組みを模索していたり。仕事を通して地域の人と事業者がつながって、「ここ知ってるわ」「いつもありがとう」って言い合える関係性が増えていく。そういうのが、まちが良くなるってことなんじゃないかな。

── 間に仕事があるからこそ、しっかりと温度感のあるつながりが生まれるんですね。ここからどんな風に広がっていくのか、楽しみです。ありがとうございました!

「明日〇〇ちゃん来るって言うてたしおいでよ」

「ちょっと出かけててな、バスがこの前に停まるやろ。ほな素通りできひんやん」

昼過ぎからお邪魔したのですが、雨の中でもだんだん人が増えてきて、明るい声が飛び交う中でインタビューをさせてもらいました。お喋りしながらマイペースに進めていく人もいれば、粛々と洗濯物の山を片付けていく人も。

「また来てや〜」と笑顔で見送っていただき、とってもあたたかい気持ちで帰路につきました。

▼地域循環ワークシェアリング ACWA について
くわしくはアグティのwebサイトへ

運営:株式会社アグティ
文・写真:柴田 明 

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