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ゴールまであと9年。取り組み加速とパートナーシップを目指す、 ヨコハマSDGsデザインセンターの「Y-SDGs認証制度」


SDGsの取り組みが各地で進むなか、より加速させるための仕掛けとして「指標」や「認定制度」などのツールが国内外で続々と出てきています。

長野県の企業登録制度に続き、横浜市でも横浜市SDGs認証制度「Y-SDGs」が設置されましたが、これを読むみなさんのなかには、自分の地域ではどうなんだろう?つくろうかな?そんなふうに考えている方もいるのでは。

今回はそんな方のために、制度設計のプロセスや認証の中身について、認証制度づくりを主導したヨコハマSDGsデザインセンターの総合コーディネーター麻生智嗣さんにお話をお聞きしました!みなさんのお取り組みのヒントになったら幸いです。


認証ができるまでの経緯について教えてください!


ヨコハマSDGsデザインセンターは中間支援組織のような位置づけで、横浜市内の方々の持つニーズとシーズをマッチングし、SDGsの実現に向けてそれらをデザインしていくということをやっています。

神奈川新聞社と凸版印刷、エックス都市研究所が運営募集に手をあげて選ばれたかたちです。スタートは環境の取り組みからやっているものになるので、温暖化対策統括本部が横浜市役所内の主要なプレーヤーとなっていて、横浜市と民間企業と半官半民のかたちで運営しています。

今年度は体制が変わって、エックス都市研究所が主幹事業者となって、サスティナブル・デザイン都市戦略研究所と凸版印刷、日本総研が入っています。それ以外にも協力団体に株式会社クレアンや神奈川大学が入っています。

横浜市は2018年にSDGs未来都市に選定されていますが、この認証制度はその主要事業のひとつ。今回の認証制度は、内閣府から各自治体に対して、企業の取り組みを加速させるための「地方創生SDGs金融」を進めて経済の循環をつくっていこうという話が出たところから始まっています。

認証制度は、2020年11月に第一回目の公募をしまして、29者を認証しました。第二回は2021年3月末に行って、119者認証して、現在第三回を公募したばかりだったんですが、あまりの申請の多さに締め切っています。


基準はどのように設定されたのでしょうか?

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出典/ヨコハマSDGsデザインセンターHP

制度設計にあたっては、金融機関、行政、デザインセンターが主体となって、そのあとさまざまな関係者に意見を聞きながらつくりました。ESG投資の視点で日本総研が、金融の視点でSMBCが入り、横浜市とデザインセンターで何度も議論を重ねてできたものです。

評価は最上位「Supreme(スプリーム)」上位「Superior(スーペリア)」標準「Standard(スタンダード)」と三段階になっています。認証には、長野県の企業指標だったり、蟹江先生のオープンソースになっている指標だったりを参考にしつつ、ESG指標の視点も入れて項目を選んでいます。

もちろん企業だけではなく、市民活動団体にも応募したいとの声があったので、認証のチェックシートの項目について言葉のよみかえをしたものを出したりもしています。デザインセンターの会員になると、マイページからチェックリストがダウンロードできるようになっているので、企業版と読み替え版があって、それぞれに合ったものをご提出いただいています。


認証が実現したいことは具体的にどんなことでしょうか?

SDGsの取り組みを広めていくこと、企業のみなさんのモチベーションを上げて取り組みを増やしていくことです。さらに金融機関にY-SDGsの金融商品をつくっていただきながら、認証をとった企業や団体にお金が流れる仕組みをつくっていきたいということがあります。


横浜市の企業のみなさんのSDGsに関する温度感は?

横浜だけでなく日本でも有名になった大川印刷さんの存在もあって、企業の皆さんのなかではSDGsのキーワードに敏感になっている印象です。認証が市の入札(総合評価落札方式)の際の加点評価に反映されているので、建設業からのご応募が非常に多くて、ほぼ毎日お問い合わせが来ています。

テレビでも扱われるようになったからか、それ以外の事業者さんからも、よく目にするから調べたら認証を見つけましたという声も出ていて、昨年末からまた盛り上がっているのかなと思います。


ステークホルダーが多様な建設業が取り組むと大きな動きとなりそうですね。認証に対するみなさんの反応はどうでしょうか?

評価基準と各社の評価は公表されていないので、1社ずつ面談のようなかたちで、なぜこの評価になったのか、ここをこうすればいいんですよ、とコミュニケーションをとっています。

フィードバックでは「ESGの視点でここが足りなかったんだ」「ジェンダー平等やらないといけないんだ」「健康経営って言葉自体知らなかった」「こんな制度があるんですね、問い合わせてみます」とさまざまな声をいただきます。

最初は加点評価だから受けてみようというきっかけでいらっしゃる企業さんも、いろんな視点が盛り込まれているので、新しい気づきを得られるようなものになっています。

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(認証されるまで)出典/横浜市HP


各社の評価を公表しない理由は「認証を取ればいい」というところに陥らないようにするため、ということでしょうか?

公表してほしいというご要望はたくさんいただいていますが、あまり評価の公表はしたくないと思っています。

単なる点数稼ぎではなく、今までやってきた取り組みを評価して、どこがどれくらいできていないのかという達成度を見てもらうものになっているので、「ここをやれば点数が入る」というところでやるようになってしまうと、コミュニケーションや取り組みもその場限りになってしまうのではと思います。

この認証によってコミュニケーションをとっていくことに意義があるのだと思いますし、なんで評価が悪かったのか、一緒に考える・一緒に取り組むための機会にしたいと思っています。好事例もお伝えしたりもして、やってみようと社内に持ち帰っていただいて、その後の行動にもつながっています。


横浜らしい認証にするのに、どのような工夫をされたのでしょうか?

「L(ローカル)」の項目の地域性のところで、横浜への貢献についての視点を入れています。ここには紆余曲折あって最終的には4つに収まったんですが、SDGs未来都市・横浜のビジョンと整合的な形で「雇用を生むか」「コミュニティと関わり合いを持っているのかどうか」「文化芸術の取り組みをしているか」が入っています。

あまりハードルを上げて取り組みが促進しづらくなってはよくないので、イベントの開催や芸術家の支援など、基本的には数値目標というよりもやっているか・やっていないかのところが基準となっています。


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出典/ヨコハマSDGsデザインセンターHP


現状の課題はありますか?

認証のやり取りなどの運営面での課題があります。企業のみなさんにお取り組みを書いていただいて、直接ヒアリングさせていただくんですが、現状は無料で実施しており、この取組を安定させ、拡大するためにも、一定の資金づくりが必要です。

また、企業のガバナンスや環境のことなど、多面的に知っている人がヒアリングしないと正しい判断が難しいことも課題となっています。さらに、最初甘い設定だったものも、事例をある程度積み重ねていったときに、ここまでやっていくことは当たり前だってところがあると思っています。

例えば情報セキュリティの話でも、10年前にはある対策で十分だったのが、今はここまでやらないといけないというふうに、時代に合わせて評価基準を変えないといけません。どのタイミングで、どう変えていくのかも課題のひとつかなと思います。


SDGsの17ゴールは不可分で統合的に取り組む必要があるなかで、その点はどのように取り組んでいくのか、お考えはありますか?


ひとつの制度だけでやるのは厳しいのかなと思います。運用側のリソースにも限界があるので、きっかけづくりとしての認証制度だと思っています。

だからこそこれをきっかけに取り組みが変容していくような"フォローアップ"が大事だと思っていて、コミュニケーションをとりながら、各社の取り組みの底上げや発展性を視野に入れながら、マッチングしたりアドバイスしたりしています。

そのなかで、企業の方々にも評価を上げるためにやるのではなく、何のために認証を取得するのかを考えて取り組んでいただくことを働きかけています。企業の評価の軸がわかってきたところで何か取っ掛かりがあれば、そこからSDGsのことをより考えていただくとなるのが大事かなと思います。


その他には、上位の評価を受けた企業の好事例を紹介したり、認証を受けた企業のご担当の人が伝道師になっていただいて彼ら自身が伝えていくかたちなどを模索できるような、交流の場、サロンも計画しています。


今後の展望について教えてください!


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出典/内閣府


内閣府の金融の自律的好循環の図がありますが、このようになっていったらなと考えています。数社の銀行さんで非財務指標に使えるのではと検討しているところもあるので、それでうまく中小企業にも使っていただきながら、利用しやすいように制度いけばいいなと思っています。

もちろん中小企業さんだけでなく、市民団体やNPOのみなさんにもメリットとなっていくかたちにしていきたいと考えています。そうなってくると経済の好循環が起きてくるのかなと。いろいろな人と取り組んでいくことができる、パートナーシップを生み出すものになっていったらいいなと思います。


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麻生智嗣さん

民間コンサルタント会社の主任研究員として、中心市街地活性化基本計画、総合計画など自治体のマスタープランの策定や、多変量解析などのデータ分析、エリアマネジメント、民間と地域をつなぐコーディネート業務に従事。ヨコハマSDGsデザインセンターの総合コーディネーター、中小企業診断士

ヨコハマSDGsデザインセンター https://www.yokohama-sdgs.jp/



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