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【声劇】それぞれの色(4人用)

利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08
男女…3:1
約10分~
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。

とある学校の美術部にて、部員たちは、文化祭の出し物を決めかねていた。そんな中、1人の編入生が入部希望を申しこむ。彼と部員たちは、ぶつかりながらも自分たちの思いを伝え合って…

【登場人物】
青都(あおと):高校3年生。男子。編入して美術部に入部希望を出してきた。明るく活発。
明里(あかり):美術部の部員。男子。絵に対して情熱をかけるが、空回りすることもしばしば。
真白(ましろ):美術部の部員。女子。ふわふわしている印象。誰にも気さくに接する。
拓朗(たくろう):美術部部長。男子。歴史が好きで、好きなものに関することなら饒舌になる。人間をよく観察する。


【本編】

真白:…ということで、今年もついにこの季節が近づいているわけだけど

明里:…

真白:な、なにか展示のアイデア…ありませんか?

拓朗:…(考え事をしている)

真白:…た、例えばっ、今年はもっと自由な、なんて言うか…楽しいテーマにしてみようか!ね、明里(あかり)くん?

明里:…ああ、

【スパァン!と美術部の扉が開く】

真白:うわあっ!なになに!?

明里:…?

蒼都:すいません!美術部ってここであってますか!

真白:え?うん、そうだけど…

拓朗:…君は、

蒼都:蒼都(あおと)だ、よろしく!

真白:…あ!もしかして、今日来たって噂の編入生?

蒼都:ああ!…って、もう噂まわってんのか

真白:たしか拓朗くんのクラスだよね?よろしくっ!私は真白(ましろ)だよ

拓朗:…拓朗(たくろう)、です

明里:…明里(あかり)、

蒼都:みんなよろしくな!へへっ

真白:…ところで、蒼都くんはどうしてここに?

蒼都:ん?ああ、そうだそうだ、えっと…(ポケットの中を探る)

【蒼都はくしゃくしゃな入部届を出す】

蒼都:美術部入りたいんだけど、いいかな?

真白:えっ!わ、私はいいと思うけど…でもそんな急に

明里:…こんな時期の入部なんて聞いたことねえよ

拓朗:…蒼都くん、あお…。はっ!(何かに気が付く)

真白:…拓朗くん?

拓朗:…わかった、部長権限で、君の入部を認めよう

蒼都:ほんとか!やったぁあ!!

【明里、真白は唖然としている】

拓朗(N):…突然やってきた蒼都くん。今年こそ、明里は…

【次の日 教室内にて】

拓朗:あ、あの…あお、と…くん

蒼都:ん?どうしたんだよ拓朗

拓朗:ひっ!い、いや、その…

蒼都:声小さくね?部活んときと全然違うな

拓朗:…か、環境が変わると、ついね?

蒼都:へへっ、たしかに分からなくもないな…ていうか、どうしたんだよ?

拓朗:…実は、ちょっと、話しておきたいことがあってね

蒼都:…?

【屋上に向かう途中 階段をのぼりながら】

蒼都:それでそれで?どうなったんだ?

拓朗:(饒舌に語る)お雇い外国人の給料が高すぎて、いっつも製鉄所は赤字だったらしいんだ…そりゃあ明治政府の懐もさみしくなるよね

蒼都:へえー、まだそこ習ってねえや!すげぇな拓朗!

拓朗:え…い、いや…たんに好きなだけだよ

蒼都:好きなこと話してるお前、なんかキラキラしてるぜ!

拓朗:ふふっ、そうかな…

【屋上にて 青空に白い雲が映える】

拓朗:君を呼んだのはほかでもない。蒼都くん…僕はね、君がこの部活に入ってくれたことが、どうも偶然じゃない気がするんだ…

蒼都:…どういう意味だよ?

拓朗:ヒントは「名前」

蒼都:名前?

拓朗:ふふっ、まあこの続きは部室で、じゃあね…

蒼都:あ!ちょっと待てよ!…ええー

【数日後 美術部部室にて】

拓朗:…一応、考えてみたよ

真白:なにかいいアイデア!?

拓朗:い、いいアイデアというか…あくまで一案ね?一案…

蒼都:聞かせてくれよ!オレすっげえ焦(じ)らされたんだぜ!

真白:ええー!気になるぅ!

拓朗:うんうん、明里もおいで

明里:…(怪訝(けげん)な顔で拓朗をみる)

蒼都:…?

真白:…(一瞬明里の方を見る)。…ね!どんなの?

拓朗:えっとね…みんな、自分の名前を言ってみて

真白:はいっ!ましろ!

蒼都:あおと!

明里:…あかり

拓朗:たくろう、何か共通している部分がないかい?

蒼都:…同じ文字は、入ってないよな…?

真白:うーん…あ!

真白:…色の名前?

拓朗:ご名答!

蒼都:しろ、あお、あか、くろ…うわっ!ほんとだすげえ!

拓朗:ふふっ、蒼都くんにはもう言ったけど、どうやらこのメンバーは、集まるべくして集まったんじゃないかって思うんだよ。

拓朗:今年は、この4人にしかできないものを作ろう!どう?

真白:たしかに!やってみようよ!

蒼都:…オレたちにしか、できないことか

【ガタッ!と椅子から立ち上がる音】

明里:俺、降りる

拓朗:明里…

真白:…明里くん!最後の文化祭なんだよ、頑張ろうよっ!

蒼都:…

明里:ちっ、馬鹿馬鹿しい…お前らで勝手にやれ!

真白:あ、明里くんっ!

拓朗:…

蒼都:…明里っ!

【美術部部室から出て行く明里】

真白:…行っちゃった

拓朗:…

蒼都:…なあ

真白:…ん?

蒼都:…気になってたんだけど、あいつどうしたんだよ?オレが入ってきたのが嫌だったのか?

拓朗:違うよ

真白:…うん、蒼都くんのせいじゃないよ

蒼都:じゃあどうして…

拓朗:…前は一生懸命ないい子だったんだ

真白:そう…絵が大好きで、部活がない時もいっつも描いてたぐらいだし

蒼都:そんなに…なんか、きっかけでもあるのか?

拓朗:ない、わけじゃないんだよね…

蒼都:…?

【回想 去年の文化祭後 部室にて】

拓朗:…今回も、あんまり見てもらえた気がしないな

真白:うん…全然お客さん来なかったね

明里:…

明里:…やっぱり、無駄なんだ

拓朗:明里

真白:そんなことないよ!去年も今年も、みんなで頑張って作ったじゃん——

明里:——っいくら俺たちが頑張ったって、どうせ見てもらえないんだろ?

拓朗:…それは違うと思うよ

明里:だって!…今年こそ、今年こそ見てもらえるって思ってたのに!これ以上どうしろって言うんだよ!!

真白:落ち着いてよ!やだよけんかなんてっ…

明里:(溜息をつく)どうせ、来年もダメだ…

真白:明里くん…

拓朗:…

【回想終了】

蒼都:…そんなことが、

真白:ごめんね、せっかく入ってくれたのに、こんなことになって…

拓朗:仲の良いところを見せられたらよかったんだけど、今回ばっかりは…

【蒼都が椅子から立ち上がる】

蒼都:…オレ行ってくるよ!

真白:蒼都くん?

蒼都:みんなで作らなきゃいけないんだろ?だったら4人そろわなきゃ!

真白:でも——

蒼都:——大丈夫!きっと何とかなる!

拓朗:…くれぐれも気をつけてね

蒼都:ああ!

【蒼都は部室から出て、明里を探す】

【2人がいなくなった後の部室】

真白:ど、どうしよう…大丈夫かな?

拓朗:僕も本気で部活をしてるつもりだ…明里の気持ちはわからなくもないよ

【回想】

明里:…(悩みながらキャンバスの1点を見つめる)

真白:…あ、明里くん!もう電気消すよ?

明里:ん…もうちょっと待ってくれ、この部分気に入らないし描き直してから帰る!

真白:…

【回想終了】

真白:…私もだよ、むしろ明里くんがいたから…いつも頑張ってる明里くんを見てたから、それがモチベになってたんだ

【校舎から少し離れた河川敷にて】

明里:…

【回想】

拓朗:明里…

真白:…そんなの分かんないよ!最後の文化祭なんだよ、頑張ろうよっ!

蒼都:…

【回想終了】

明里:…なんで、なんでそんな——

蒼都:(遠くから走ってくる)——はぁっ!はぁっ!待てよ明里!

明里:…は?んだよテメェ、ついてくん——

蒼都:——戻ってきてくれ、オレたちにしかできないことなんだ!誰が欠けてもいけないんだ!

明里:…っきれいな言葉ばっか並べんな、俺がいないほうがみんなまとまんだろ!

蒼都:そんなことない!どうしたんだよ!何か理由があるならオレも力になるから—

明里:だからどうもしねえって——

蒼都:そんなわけないだろ!なんかお前つらそうだよ!

明里:…っ絶対戻らねえって伝えと——

蒼都:——いやだ! 絶対連れて帰る!

【お互いをまっすぐに見据える2人】

蒼都:明里…

【蒼都がこぶしを突き出す】

蒼都:けんかで決めよう

明里:…は?(びっくりした顔)

蒼都:オレが勝ったら一緒に部室にもどってもらう。負けたら、今後一切関わらない、どうだ?

明里:ふん…いいぜ、相手してやるよ

蒼都:…っしゃ、いくぞぉぉおっ!

明里:うおぉぉおっ!

【美術部 部室にて】

真白:蒼都くん、大丈夫かな?

拓朗:…似てるよね

真白:え?

拓朗:明里と蒼都くん

真白:なんで?ぜんっぜん違うよ!

拓朗:今じゃなくて前の明里

真白:前…か

拓朗:蒼都くんははっきりしていて芯が強い子だ…明里もそうだったよね。

真白:…たしかにその辺は似てるかも。すぐ熱くなるところとか、わかりやすいところとか…

【回想 一昨年の文化祭前】

明里:拓朗、ここ…もう少し躍動感を出したほうがいい。俺も頑張る!

【回想 昨年の文化祭前】

明里:…っ妥協なんかしない!中途半端なもん出すぐらいなら初めから描かねえよ!

【回想終了】

拓朗:…「火」ってあるよね

真白:うん?

拓朗:火の色と言えば?

真白:…赤って感じがするけど、青い火もあるね

拓朗:そう、しかも晴れているときには、空の色も青と赤だ

真白:…

拓朗:さっきのアイデアのつづき、少し聞いてくれる?

真白:え?う…うん、いいよ?

拓朗:一般的に「対立する色」と言えば、何が思い浮かぶ?

真白:…紅白歌合戦っていうから、赤と白?あとは、白黒つけるっていう言葉もあるし…

拓朗:そう、民主党と共和党は青と赤であらわすし、スタンダールは『赤と黒』っていう本を書いてる。反対の色の組み合わせって言われているのはそんな感じだよ

真白:じゃあ…反対にならない色は?

拓朗:さっき以外の組み合わせ。青と白、青と黒…

真白:…青って、白とも黒とも反対にならないんだ

拓朗:そう。できすぎた話だけど、蒼都くんは、僕にも真白にも壁を作らなかったよね

真白:たしかに、蒼都くんはだれとも仲良くできそう…私なんかと全然違う。

拓朗:…?

真白:拓朗くん、私、実はね…

【河川敷にて】

明里:っ!(蒼都の頬を殴る)

蒼都:ぐ…っ(殴られる)、こんのっ!

明里:うっ!(殴られる)

蒼都:はぁっはぁっ、…明里っ!

明里:っ…、あ?

蒼都:お前はどうしたいんだよ!

明里:っ?

蒼都:お前が抜けて何か変わるのか!?オレも、真白も拓朗も、みんなお前のこと心配してるん―

明里:お前に何がわかる!!

蒼都:っ!?

明里:俺は一生懸命やってきた!でも無駄なんだよ!どうせ、どうせ…俺のやってきたこと全部っ!!

蒼都:…っ

【回想】

明里:——っいくら俺たちが頑張ったって、どうせ見てもらえないんだろ?

明里:…今年こそ、今年こそ見てもらえるって思ってたのに!これ以上どうしろって言うんだよ!!


蒼都:ああ、また離れるのか…せっかく仲良くなれたのに…

【回想終了】

蒼都:…ない

明里:あ?

蒼都:無駄なんかじゃない!!お前はずっと、ずっと自分に嘘ついてる!…見てもらえないから?そんな理由で、大好きなもん諦めんじゃねぇよっ!!

明里:…っ!…っクッソがあああ!

【美術部 部室にて】

真白:私、実はね…

拓朗:…ん?

真白:怖かったんだ。明里くんのことも、拓朗くんのことも

拓朗:…知ってたよ

真白:え、ええ!?…っばれないようにしてたのに

拓朗:ふふっ、真白はわかりやすいんだよ。もし嫌じゃなければ、理由を聞いてもいい?

真白:うん…拓朗くんはね、何を考えているんだろうって思ってた。いっつも教室の隅っこにいるし、誰とも話さないし…

拓朗:…

真白:でもね、すごい人だって思った。私たちが考えもしないこと思いつくし、いつも周りを見てくれているんだって

拓朗:…「黒」っていうのは、

真白:え?

拓朗:黒は、得体がしれないとか、暗くて怖いって気持ちにさせる色なんだ。でもね…

真白:…

拓朗:同時に、底知れない魅力を持っている色なんだよ。どんな資源が眠っているかわからない山のことを「黒山(くろやま)」って言うからね。

真白:…たしかに、黒ってミステリアスな感じがする

拓朗:ああ、反対に「白」はね…明るくて、はっきりしていて、安心できる色なんだ。…病院の壁は白を基調としているところが多いよね。

真白:あー。…ほんとだ!

拓朗:でも、例えば「頭が真っ白」って、どういうときに使う?

真白:え…!うーん、今みたいに、何も考えられないってときかな?

拓朗:そう、考えが「ない」ってことも表すんだ

真白:…い、言っとくけどこの間のテスト頑張ったんだからね!

拓朗:ははっ、今のはちょっと悪かったって…

【夕方5時半 空が少しずつ赤くなる】

真白:…明里くんさ

拓朗:?

真白:焦っていたのかも知れない。せっかく頑張った自分たちの絵を、見てもらえなくて。

拓朗:たしかにね

真白:…明里くんの顔から余裕が消えたんだ。大好きなはずの絵を描いても、楽しくなさそうで…

【回想】

明里:小さいころから絵を描くのが好きだった。上手だねって言われたり、こうしたらもっと良くなるよって言われたりするのがうれしかった。…でも、その絵を見てもらえなくなった。1年のときも、2年のときも、俺たちが頑張って作ったものは、ほとんど誰にも見てもらえなかった。たしかに「美術部」ってのは地味だ。ほかに目を引く展示なんてたくさんある。でも…

【回想終了】

真白:私たちさ、明里くんにちゃんと向き合ってたのかな?

拓朗:…言い聞かせる努力はしたよ。でも、どんな言葉をかけても、明里に刺さった感触がなくてね。

真白:…私は、何もできなかった。変わってしまった明里くんが怖くて、言葉をかけられなかった…

【回想】

蒼都:…オレ行ってくるよ!

真白:蒼都くん?

蒼都:みんなで作らなきゃいけないんだろ?だったら4人そろわなきゃ!

真白:でも——

蒼都:——大丈夫!きっと何とかなる!

【回想終了】

拓朗:…蒼都くん

真白:…?

拓朗:無責任なようだけど…明里を、頼むよ

【河川敷にて】【2人同時に、ばったりと芝生に倒れる】

蒼都:っはぁ、はぁっ!

明里:ふぅっ…、お前、なんかやってたのか?

蒼都:ん?…いろいろだよ、スポーツもしてた。

明里:…そうか、

蒼都:明里は?

明里:…中学んときは美術部に男がいなかったから、陸上部に

蒼都:…どうりで動きが速いはずだ、へへっ

明里:ふん…

蒼都:なあ、明里

明里:…あ?

蒼都:ずっと絵が好きだったのか?

明里:…ああ、

蒼都:どうして?

明里:…小さいときから、絵だけは褒められてたんだ。だからもっと上手くなりたくて、小学校のクラブも部活も、絵を描けるところしか選びたくなかった。

蒼都:そんなに…

明里:ああ…でもさ、俺、ほかに何もできねぇんだ。勉強も運動も。俺が唯一ありのままでいられるもの、それが絵だった。だから、それを評価されないのが怖かったんだよ。

蒼都:…

【美術部 部室にて】

拓朗:…青と聞いて思い浮かぶものは?

真白:うーん…空とか、海とか…あ、サファイアとか!

拓朗:サファイアは置いておいて…空と海ってどこにある?

真白:え?どこって…

拓朗:手をのばしたら届く?

真白:届かない…遠いところ?

拓朗:そう、青は、人間から遠いところにあるものを指すことが多い

真白:遠いところ…

拓朗:…編入生なんだってね、彼

真白:うん

拓朗:僕たちからすれば、彼はほんとうに「外」から来たんだ…

【河川敷にて】

蒼都:…オレさ、ひとつのことをずっと続けるのって、すごいことだと思う

明里:…?

蒼都:オレにはできなかった…親が転勤ばかりしてて環境が変わるから、次々に新しい場面にぶち当たるんだ

明里:…

蒼都:友だちとも長いこと一緒にいられなかった…だから、どうでもいいって思ってた。…心を許せる奴なんかいたことないよ。

明里:はっ、嘘つけ——

蒼都:嘘じゃない、はやく馴染もうとしてるだけなんだ!深くかかわった人なんてほとんどいないよ…

明里:…

蒼都:…でも、拓朗が言ってただろ?「この4人にしかできないものを作ろう」って

蒼都:人なんて代わりがきくって思ってた。でも、自分にしかできないことがあるんだって、はじめて教えてもらったんだよ。このオレに…オレたちにしかできないことがあるんだって

明里:俺たちにしかできないこと…

【少しずつ、夕焼けが青空を覆っていく】

蒼都:…明里、絵が大好きなら、絵しかないなら!自分ができることめいいっぱいやろう!

明里:…自分にできること

蒼都:部員みんながいいなって思うものを、満足できるものを!お客さんに「どうだ!」って見せつけるんだよ。…ほかのだれにもまねできない「これがオレたちだ!」ってさ。

明里:…でも、また見てもらえねえかもしれないだろ——

蒼都:——そこは見てもらうんだよ!とびっきりすげえの作って!お客さんの方から来てもらうんだよ!

明里:…

蒼都:できるさ、オレたちなら!

明里:…蒼都、

蒼都:帰ろうぜ、みんな待ってる

明里:……っ…仕方ねえな!

【美術部 部室 夕方6時すぎ】

真白:ほんとに、戻って来るのかな?

拓朗:…

【廊下をどたどたと走る音が近づいてくる】

真白:っ!まさか…

拓朗:…ふふ、

【部室の扉が開く】

蒼都:よおっ!…へへ、遅くなっちまった

真白:蒼都くん!明里くん!

拓朗:無事で何よりだよ

真白:無事‥っていうか、2人とも傷だらけだよ!どうしたの!?

明里:まあ…、いろいろと、な?

蒼都:ああ、…へへっ

明里:…ふふっ

真白:…なんか、仲良くなってる?

拓朗:ふふっ…そうだね

【数日後、美術部部室にて】

明里:…みんなの色を出す作品?

拓朗:そう、前も言ったけど、この4人の名前には色が入っている

真白:じゃあ、この4つの色をテーマに絵を描くんだ!

拓朗:うんうん、でも…どういう方針にするかはまだ決まってないんだよ

蒼都:…それなら!これからみんなの色にかかわってるもの探してこうぜ?

明里:…赤と言えば、みたいにか?

蒼都:そう!次の部活までに考えてきて発表しないか?

拓朗:…そうしようか、ね?

真白:りょうかーいっ!

【数日後 部室にて】

真白:じゃあ、私からいくね!…古典の先生が言ってたんだけど、生まれたての子どもって何て言うと思う?

蒼都:あかちゃん…?

明里:ああ、あかちゃんっていうな

拓朗:嬰児(みどりご)…

明里:みどり?

蒼都:あかちゃんは緑じゃないぞ?

真白:昔の言い方なんだって!若いことを青とかみどりって言うの

明里:…青年とか青二才って言うな、

蒼都:ああーたしかに!

真白:ふふっ…明里くんはどう?

明里:俺か、俺が調べたのは「四季」だ

蒼都:四季?

明里:ああ、青は青春(せいしゅん)、赤は朱夏(しゅか)、白は白秋(はくしゅう)、黒は玄冬(げんとう)って言い方をするらしい

蒼都:オレ青春!?

真白:キャーあおはるじゃんっ!

明里:ずりーぞお前っ!

拓朗:ははっ、へえー…ということは北原白秋はここから来てるのか…(小声)

明里:太陽の出ている時間が長いのは夏だから、夏は赤色。反対に夜が長い冬は暗いから、黒であらわせるんだってよ。

拓朗:季節も面白そうだね…

蒼都:じゃあ次はオレ!…中国から来た、伝説の四体の獣(けもの)と言えば、なーんだ?

真白:…白虎(びゃっこ)?

明里:朱雀(すざく)っていたな

拓朗:玄武(げんぶ)かな

蒼都:そして青龍(せいりゅう)…

蒼都:んでこいつらは方角にも関係してるんだ!青龍は東を守る、白虎は西を守る、朱雀は南、玄武は北らしいぞ!

明里:…よくできてんなぁ

拓朗:…蒼都くん歴史苦手じゃなかったのかい?

蒼都:ああ、でも調べてるうちに面白くなってきちまって

真白:こういうのなら私も興味あるなっ

蒼都:だろ!…拓郎は何調べたんだ?

拓朗:僕は4色の関係について調べてきたよ。…真白には少し話したね。

真白:あ…うんっ!

拓朗:黒は「暗い」が語源なんだ。日が当たらなくて暗いとか、あの人腹黒だよとか、得体のしれないっていう意味。赤は「火」とか、熟(う)れた木の実とか、血液の色で、昔から人間と関わるものに使われる。白は、毛の白い動物とか、雪とか、なんというか…神聖な自然っていうイメージ。青も似ていて、空や海みたいな自然のものに当てはまる色だ。人間の世界を「外」から見ているような色なんだよ。

蒼都:「外」か…

真白:…

蒼都:オレ、父さんが転勤族で、いろんなところに転校してきたんだ。だから友だちと仲良くなってもさ、どうせいなくなっちゃうんだって

拓朗:…蒼都くん

蒼都:オレ、拓朗の言う通り、きっと本当に「青」なんだ。どこまでいっても「外」なんだ…

明里:――紫ってあるじゃん。

蒼都:紫?

拓朗:青と赤でできるね

明里:そう…紫って、偉い人の印なんだろ?人間と昔っから、しっかり関わってきてんじゃねえか。

明里:しかも…蒼都は俺のこと連れ戻しに来てくれた…

真白:明里くん…

拓朗:悪かったよ

明里:いいんだ…俺が荒れてたからいけないんだ

明里:でも、蒼都は俺たちをつなぎとめてくれた。それでも、青は「外」のもんって言えるのか?

蒼都:…明里

真白:明里くん…めっちゃいいこと言った!

明里:…っ、あーっ!もう言わねえ!

蒼都:…へへっ、なんかありがとうな!

拓朗(N):青は…少し冷たいところがある。人間の世界に入りこまず、遠巻きに伺っているような色。でも…ここにいる「青」は、そうじゃないみたいだ

【文化祭 前日の昼】

蒼都:こ、これは…

明里:まさか…

拓朗:せ、先生に頼んで、教室まるまる貸してもらったよ…はぁー緊張した…

真白:壁に白いボードをみっちり貼って、そこにできるだけいろんなものを描くの!私たちの色に関するものぜーんぶ!

拓朗:東の面は蒼都くんの分、西は真白の、南は明里、北は僕が担当する。

蒼都:はいっ!しつもーん!

真白:はい蒼都くん

蒼都:はみだしてもいいですかーっ!

明里:あ、俺も気になってた

拓朗:…自由に、楽しくやろう!ぶ、部長命令だっ!

真白:はいっ!拓朗部長!

【各自 ペンキ、水彩・油絵具、色鉛筆、書道筆などをもちだす】

真白:よしっ!全力で私たちの「色」を出すよぉ!

明里:おおっ!

蒼都:なぁ!どうせならみんなで声合わせねえ?

明里:ははっ!やってやるか

真白:いいね!ねっ、部長っ!

拓朗:え、えぇ……ふふっ…よしっ、わかった!

【4人みんなで手を重ねる】

拓朗:すぅーっ(息を吸う)、ぼ、僕たちのっ!

明里:今年の!

蒼都:テーマは!

真白:せーのっ

4人全員:それぞれの、色!(そろわなくていいので4人で!)

終わり


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