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マイ・プレシャス(My precious)(4人用)


利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08

上演の際は、作者名とリンクの記載をお願いします。

♂:♀=2:2

【登場人物】
ソラ:12歳の女の子。他人の目が気になり、素直になれない。途中の赤ん坊も兼任。
ジュドウ:ジュドウ・スミス。ソラの父親。製造業で働く。がっしりした体格と怖い顔を気にしている。
ヘレン:12歳。ソラの友人。
エリック:軍人時代のジュドウの仲間。軍に染まりきってしまった人間。

【本編】

【チャイムの音】

ソラ:はあ…

ヘレン:んー?どうしたの?

ソラ:宿題だよ宿題、

ヘレン:ああ、お手紙ね!

ソラ:うん…ヘレンは誰のこと書くの?

ヘレン:私はねー、ママかな!あーでも、パパもいいな…

ソラ:…パパ、か…(小声)


ソラ(N):…ううん、気にしない。ヘレンにはヘレンの家族ってもんがあるし…

ソラ:どんなこと書くか、決まってる?

ヘレン:うーん、ちょっと話題ふってみようかな。思い出とか聞いてから書こうと思う。

ソラ:思い出か…



ソラ(N):私は、お家の人…ジュドウと、あんまり話せていない。

ソラ(N):いや、正確には、私が「話していない」。

ソラ(N):そもそも、ジュドウと私はちっとも似ていない。私は、生まれつき黒い肌。髪はまっすぐに伸びていて、鼻は低め。ジュドウは私よりも肌が白くて、鼻筋がとおっている。


ソラ(N):…本当の親子じゃないかもしれないって、うすうす気づいていた。



【家】

ジュドウ:おかえりソラ、今日は学校どうだっ…

ソラ:…

ジュドウ:…なにかあったのか?

ソラ:…ううん、何にも

ジュドウ:…まあ、飯にしようか。聞いて驚け?…ハンバーグだぞ!


【食卓にて】

ジュドウ:…んー、やっぱり、なんかあったんだろう?

ソラ:…

ジュドウ:…ハンバーグ、おいしくないか?

ソラ:…ううん、おいしい

ジュドウ:お、よかったー

【しばらく沈黙が続く】


ソラ:…ジュドウ、

ジュドウ:ん?

ソラ:うちにさ、なんかアルバムとか、ない?

ジュドウ:ああ、あるぞ…それがどうした?

ソラ:いや、ちょっと…見たいなって

ジュドウ:…


ジュドウ:ソラ、明日一日、俺にくれないか?

ソラ:え?

ジュドウ:ちょっと、話しておきたいことがあってな、

ソラ:…うん



ソラ(N):知ってる、私は本当の子じゃないって言いたいんでしょう?

ソラ(N):そんなこと言われたって、別に、もう分かってるし…



【その日の夜、就寝中のソラ】

ソラ:…う、うぅ

ソラ(N):…一面、灰色、ここはどこ?

ソラ(N):…っ、煙みたいなにおいがする、血のにおいがする、体が痛い、叫び声がする、分かんない言葉で怒鳴る声がする!助けて!ねえ助けてよ!!

【目が覚める】

ソラ:はっ!…はぁー、またか



【次の日の朝】

ジュドウ:ソラ、おはよう…って、どうした?

ソラ:なんか寝覚め悪くて…

ジュドウ:…怖い夢でも、見たのか?

ソラ:…うん、たまに見るの、灰色の世界にいて、周りにだれもいなくて、…煙と血の匂いがして…


ジュドウ:…


ジュドウ:うしっ、ちょーっと待っててくれ

ソラ:え?どうしたの?

【ジュドウが駆け足で二階へ上がる】

ソラ:…?

【大量のアルバムを抱えてジュドウが戻ってくる】


ジュドウ:…よいしょっと

ソラ:うわあ…何これ

ジュドウ:昨日ソラが、アルバムみたいなんて言うから、ついな、がんばって集めたんだぞ!


ソラ:…こんなに持ってたんだね

ジュドウ:ああ…これなんかどうだ?

ソラ:…え!ねえ!このジュドウ若い!

ジュドウ:ははっ、だろ?

ソラ:へえ…あ!待って、これいつの?

ジュドウ:ソラが10歳になった時だな、1人でろうそく消せて、えらかったぞ

ソラ:…もう、子ども扱いしないで

ジュドウ:フフッ、まあまあ!…あっこれも、ほら

ソラ:…海行った時だね

ジュドウ:こんとき確か…皆に「かわいいね」って声かけられて、ソラ恥ずかしくて泣いちゃったもんな

ソラ:は?そんなことないし!

ジュドウ:でもその後ソフトクリーム買ってやったら、すぐ機嫌なおったんだよな…

ソラ:…むう、次行こ、次!


【ソラがとりだしたアルバムから、一枚の写真が落ちる】

ソラ:…これは?

ジュドウ:ん?ああ、これは…

ソラ:兵隊さんたちがいっぱい

ジュドウ:…


ソラ:あ、ねえこの人、若い時のジュドウに似てる!

ジュドウ:…ん?ああ、…そうだな


ソラ:…?

ソラ:…ねえジュドウ?ここに書いてあるVietnam(ベトナム)って?

ジュドウ:…

ソラ:…ジュドウ?



ジュドウ:アジアの国だよ、自然が豊かで…と、住んでいる人は小柄で…

ソラ:料理とかおいしいの?

ジュドウ:ん?ああ、きっとおいしいぞ、俺は食べたことないけどな

ソラ:ジュドウは、行ったことあるの?

ジュドウ:ああ、

ジュドウ:…

ジュドウ:ソラ、さっきの写真の、俺に似てるやつ…俺で間違いない

ソラ:へえー…ジュドウって、軍人さんだったんだね

ジュドウ:だいぶ昔の話なんだが…聞いてくれるか?


ソラ:…うん

【回想開始】


【1974年:ベトナム戦争】
【密林の中を走るジュドウとエリック】


ジュドウ:はぁっ、はぁっ!

ジュドウ:いつ始まったんだ?なぜ始まったんだ…?

ジュドウ:なあ!…これは何のための戦争なんだ?

エリック:知らねえよ、黙って走れ

ジュドウ:…ああ


ジュドウ(N):敵がどこに隠れているかわからない、仲間が無事なのかも、知らない。

エリック:はっ、伏せろ!

ジュドウ:おう!

【砲弾の音】

ジュドウ:っ、叫び声が…

エリック:ああ、くっそ!木が邪魔だ!


【密林上空を、何かを噴射しながら過ぎる飛行機】

【しばらく走り続け、小川のほとりでつかの間の休憩をとる】


エリック:…そういえば、上官たちの話聞いちまったんだけどよ

ジュドウ:…?

エリック:「軍隊は、軍という組織を守るから、民間人の生命財産は守らない」ってよ。軍隊は、組織を守るから、死んではいけないんだとさ。


ジュドウ:軍隊は、組織を守るから、死んではいけない…死んではいけない…死んでは…いけない


【密林を抜け、集落に辿り着く】

エリック:よし!出たぞ、集落だ!

ジュドウ:っ…あんなに焼けちまって

エリック:そうだな、先に荒らしたやつがいるみてえだ…見込みはねえが、とりあえず食いモンを探そうぜ

ジュドウ:あ、ああ


【民家が燃やされた跡を、注意深く見ながら歩く】

ジュドウ:…ひどいにおいだ、なんてことしやがる……ん?


【焼け落ちた民家の屋根の下、微かに動く小さな手】

ジュドウ:はっ!…待ってろ!


【ジュドウは、屋根に手をかけて持ち上げる】


ジュドウ:ぐっ…、うおおっ


【屋根をどけると、そこには、目を閉じた赤ん坊の姿】


ジュドウ:…っ、…ごめんな

【ジュドウはしゃがみ、赤ん坊の手にゆっくりと手を伸ばす】

ジュドウ:っ…?

【傷だらけになった人差し指が、赤ん坊の手に包まれる】

ジュドウ:生き、てる…?

ジュドウ:お前、なんで…?俺が、俺が誰だか知ってんのか?軍人だぞ、しかもお前たちの国を…


【何を言っても、赤ん坊は指を離さなかった】

ジュドウ(N):何もできない、何も分からない。かわいそうに、どんな境遇でも、目の前の人間を信頼するしかないんだ。

【赤ん坊は目をゆっくりと開いて、ジュドウを見つめてきた】
【「殺してくれるな、これ以上、殺してくれるな」、そんな目】

ジュドウ:っ…(涙をこらえながら)

ジュドウ(N):…いっそ、ひとおもいに、泣いてほしかった。

ジュドウ(N):人でなし、家族を返せと言わんばかりに、泣きじゃくってほしかった…。


ジュドウ:…ごめん、ごめん、間違っているのは、俺だ…

【そっと赤ん坊を抱きかかえるジュドウ、赤ん坊はジュドウをじっと見つめている】

ジュドウ:ああ、…警戒しているんだろう?俺が、敵か味方か、必死に見分けようとしているんだろう?

ジュドウ:…大丈夫、何があっても、俺が守るからな



【先に行っていたエリックが戻ってくる】


エリック:おーいジュドウ!あっちに少しだが食料が…

ジュドウ:っ!

エリック:…おい何してんだ、そいつもアジア人だろう!置け、ぶっ殺してやる…(銃を構えながら)

ジュドウ:…っ!(エリックを睨む)

エリック:あ?んだよ、お前の子じゃねえんだろ?

ジュドウ:俺の子じゃなくても!この子はまだ赤ん坊だ!

エリック:生かしたところで俺たちに恨みもつだけだろう!それに、どうせすぐ野垂れ死ぬんだ


ジュドウ:っ…、撃つな!

エリック:ジュドウ、それは規律違反だぞ、見つけ次第殺せと言われただろうが!

ジュドウ:いやだっ!

ジュドウ:この子だけはっ!!殺させない!!!

エリック:ああ、ああそうかよ、処分されても知らねえからな

ジュドウ:…上等だ、処分でもなんでもしやがれ!こんなクソみてえな組織なんざ抜けてやるよ!!

【数日後】

ジュドウ(N):俺は、上官にしこたま怒鳴りつけられた後、軍をやめさせられた、いや…やめてやった

ジュドウ(N):負傷兵らと一緒に引き揚げて、それから親戚を頼って…何とか家と仕事を見つけて、ひとまず落ち着くことができた


ジュドウ(N):いつ死ぬかわからない、それでも死んではいけない世界から、逃げてやるんだ

ジュドウ(N):俺は死んではいけないんじゃない、この子のために、生きるって決めたんだ

ジュドウ(N):何も後悔しない、もう、何も…


【ジュドウの家】

ジュドウ:さて、ミルクと、おしめと…

赤ん坊:うえぇえぇぇっ

ジュドウ:んっ?どうした~?…よっと(抱きかかえる)、えーと、(時計を見る)…おなかすいたのか?



【赤ん坊の口に哺乳瓶におそるおそる近づける…】

ジュドウ:…の、飲んだ…フフッ…かわいいな、お前



【夜中】
赤ん坊:、ふぎゃあぁあぁぁ

ジュドウ:…ん?…おーおー、どうした~?

赤ん坊:うぅぅ…

ジュドウ:んー?あやしてほしいのか…?あれっ?ちがう?……じゃあなんだろうな…ん…?

【赤ん坊のおしめが濡れている】

ジュドウ:ありゃあそっちか…ちょっと待っててくれよ…


【1年後 ○月×日】

ジュドウ:もう一度…ソ、ラ

ソラ:…お、あ

ジュドウ:ん~惜しいな、ソ、ラ

ソラ:お、わ!

ジュドウ:お、子音(しいん)が出てきたな…great(グレイト)!

ソラ:うえいお!

ジュドウ:そうそう、ぐれいと、ソラ

ジュドウ:俺は、ジュ、ド、ウ

ソラ:う、お、う!

ジュドウ:ジュドウ

ソラ:うおー

ジュドウ:フフッ…

【5年後 ○月×日】

ソラ:ジュドウ!ねえ起きてジュドウ!こうえん、いこ!

ジュドウ:ん…おはよ、って、まだ朝だぞ…

ソラ:はやくしないとブランコとられちゃう!ねえはやくー!

ジュドウ:はいはい…まてまて、せめて朝ごはん食べてからな…


【ソラ10歳の誕生日】

ジュドウ:ハッピバースデー「ソラ」~♪

ソラ:きゃー(ぱちぱち拍手)

ジュドウ:10歳おめでと~う!

ソラ:えへへっ、ジュドウ!ありがとー!

【ソラが寝付いた時】

ジュドウ:10歳…か。早いなぁ、こないだまで、あんなに小さかったのに…。

ジュドウ:仲のいい友達もいるみたいだし、これからはきっと…もっと、手がかからなくなってくるのか。


ジュドウ:それもそれで、寂しいもんだな…

【回想終了】

ソラ:…

ジュドウ:…いつか、言わなきゃいけなかった。気づいていたかもしれないが、俺は、ソラと血がつながっていない。

ソラ:…

ジュドウ:しかも俺は、無意味な戦争ふっかけて、命を奪った側の人間だ

ジュドウ:許してくれなんて言わない、俺は…

ソラ:ジュドウは、

ジュドウ:…?


ソラ:ジュドウは…私の国に償うために、私を育てたんだ

ジュドウ:っ…違…

ソラ:だって、子ども育てるのって、大変なんでしょ!…償うためっていう義務があったら、どんなことがあっても育てなきゃいけないもんね!

ジュドウ:違う!そうじゃない!

ソラ:嘘だ!

ジュドウ:嘘じゃない!

ソラ:絶対嘘だ!

ジュドウ:ソラ!

ソラ:…っ


ジュドウ:…ごめん

ジュドウ:確かに、俺たちはソラの人生をめちゃくちゃにした。お前は、本当はベトナムで、父さんと母さんと平和に暮らすはずだった。でも、俺たちが全部奪ってしまった。

ソラ:だったらなん…

ジュドウ: それでも!…俺は、お前と一緒にいたかった!

ソラ:…っ?


ジュドウ:大変なこともあったけど、でも、それでも…楽しいことの方がずっと多かった!

ジュドウ:ずっと暗かった俺の人生は、ソラがいたから明るくなったんだ!

ジュドウ:だから…義務なんて言わないでくれ。償いもあるかも知れない、でも、それだけじゃないんだ!


ソラ:…っ

ソラ:…ごめん、ちょっと、ひとりにしてほしい

ジュドウ:ソラっ…あ、

【二階に駆けあがっていくソラ】

ジュドウ:…そうだよな、重かったよな…こんな時期にこんなこと知りたくなかったよな、

普通の父さんじゃなくて、ごめん、ごめんよ…

【学校 ホームルーム】
【参観者たちで、教室の後ろが埋まっていく】

ソラ(N):前の子たちが先生に指名されて、次々に手紙を読んでいく。毎回の発表が終わると、すすり泣く声、大きな拍手が聞こえてくる。

ソラ(N):私の番だ。


ソラ:「私が一番感謝したいのは、ジュドウです。ジュドウは、私のために、いつも一生懸命働いてくれて、おいしいご飯を作ってくれます。」

ジュドウ:…ソラ

ソラ:「あと、海とか、遊園地とか、いろいろなところに連れて行ってくれて、とてもうれしいです。」

ソラ:「…ジュドウは、私のことを何でも知っていて、好きな食べ物も、気持ちとかも、隠していてもすぐにばれてしまいます。この間、隠れてプリンを食べてしまったことも、すぐに気づかれてしまいました…」

ジュドウ:フフッ

ソラ:でも…

【ソラが、持っていた用紙を机の上に置く】

ジュドウ:…?

ソラ:…でも、私は、彼のことを全然知りませんでした。

ソラ:彼は…私の本当の父親ではありません。ジュドウは昔、軍人で、ベトナムへ行っていました。そこで、私を見つけて、ここに連れてきてくれたそうです。私は小さかったのでわかりません。

ソラ:でも、ひとつだけ、かすかに覚えていることがあります。

ソラ:…煙と血のにおいがしていて、大きな音がして、体が痛くて、なぜだかとても心細かった時がありました。なんでそうなったのかわかりません。そんな時、大きな男の人が、私のことをぎゅっと抱きしめてくれました。今思いかえすと、あの時そばにいてくれたのが、きっと、ジュドウなんだと思います。

【声を立てる者は、一人もいない】

ソラ:…ジュドウがいないと、今の私はいません。私が今幸せなのは、ジュドウのおかげです。

ソラ:私は、ジュドウ…パパのことが、大好きです!…ソラ・スミス

【割れんばかりの拍手】

ジュドウ:…っ、ソラ…

【家】
ソラ:…ちょっとちょっと!何してんのよ!

ジュドウ:え、だって…これは飾るしかないだろう♪えーと、どこが一番目立つかな~♪…よし、ここかな!

ソラ:聞いちゃいないんだから…はぁ

ソラ:…ジュドウ、

ジュドウ:ん?

ソラ:…ごめんね、私、大人げなかったよ…ずっと意地張っちゃってさ。

ジュドウ:いいや、俺の方こそ…


ジュドウ:…久しぶりに、海でも行くか?

ソラ:…うん!

ジュドウ:もうさすがに浜辺だけじゃ飽きるだろうし…釣りとかどうだ?

ソラ:え!行く!

ジュドウ:じゃあどっちが大物釣れるか、競争な

ソラ:絶対ジュドウより大物釣るから

ジュドウ:お?張り合いがあるねえ

ソラ:フフッ、楽しみにしてるからね!…パパ(小声)

ジュドウ:っ?…ソラ、今なんて

ソラ:な、なんでもない!ほら行くよ!

ジュドウ:待ってくれソラ、もう1回!もう1回言ってくれ…

おわり

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