マイ・プレシャス(My precious)(4人用)
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上演の際は、作者名とリンクの記載をお願いします。
♂:♀=2:2
【登場人物】
ソラ:12歳の女の子。他人の目が気になり、素直になれない。途中の赤ん坊も兼任。
ジュドウ:ジュドウ・スミス。ソラの父親。製造業で働く。がっしりした体格と怖い顔を気にしている。
ヘレン:12歳。ソラの友人。
エリック:軍人時代のジュドウの仲間。軍に染まりきってしまった人間。
【本編】
【チャイムの音】
ソラ:はあ…
ヘレン:んー?どうしたの?
ソラ:宿題だよ宿題、
ヘレン:ああ、お手紙ね!
ソラ:うん…ヘレンは誰のこと書くの?
ヘレン:私はねー、ママかな!あーでも、パパもいいな…
ソラ:…パパ、か…(小声)
ソラ(N):…ううん、気にしない。ヘレンにはヘレンの家族ってもんがあるし…
ソラ:どんなこと書くか、決まってる?
ヘレン:うーん、ちょっと話題ふってみようかな。思い出とか聞いてから書こうと思う。
ソラ:思い出か…
ソラ(N):私は、お家の人…ジュドウと、あんまり話せていない。
ソラ(N):いや、正確には、私が「話していない」。
ソラ(N):そもそも、ジュドウと私はちっとも似ていない。私は、生まれつき黒い肌。髪はまっすぐに伸びていて、鼻は低め。ジュドウは私よりも肌が白くて、鼻筋がとおっている。
ソラ(N):…本当の親子じゃないかもしれないって、うすうす気づいていた。
【家】
ジュドウ:おかえりソラ、今日は学校どうだっ…
ソラ:…
ジュドウ:…なにかあったのか?
ソラ:…ううん、何にも
ジュドウ:…まあ、飯にしようか。聞いて驚け?…ハンバーグだぞ!
【食卓にて】
ジュドウ:…んー、やっぱり、なんかあったんだろう?
ソラ:…
ジュドウ:…ハンバーグ、おいしくないか?
ソラ:…ううん、おいしい
ジュドウ:お、よかったー
【しばらく沈黙が続く】
ソラ:…ジュドウ、
ジュドウ:ん?
ソラ:うちにさ、なんかアルバムとか、ない?
ジュドウ:ああ、あるぞ…それがどうした?
ソラ:いや、ちょっと…見たいなって
ジュドウ:…
ジュドウ:ソラ、明日一日、俺にくれないか?
ソラ:え?
ジュドウ:ちょっと、話しておきたいことがあってな、
ソラ:…うん
ソラ(N):知ってる、私は本当の子じゃないって言いたいんでしょう?
ソラ(N):そんなこと言われたって、別に、もう分かってるし…
【その日の夜、就寝中のソラ】
ソラ:…う、うぅ
ソラ(N):…一面、灰色、ここはどこ?
ソラ(N):…っ、煙みたいなにおいがする、血のにおいがする、体が痛い、叫び声がする、分かんない言葉で怒鳴る声がする!助けて!ねえ助けてよ!!
【目が覚める】
ソラ:はっ!…はぁー、またか
【次の日の朝】
ジュドウ:ソラ、おはよう…って、どうした?
ソラ:なんか寝覚め悪くて…
ジュドウ:…怖い夢でも、見たのか?
ソラ:…うん、たまに見るの、灰色の世界にいて、周りにだれもいなくて、…煙と血の匂いがして…
ジュドウ:…
ジュドウ:うしっ、ちょーっと待っててくれ
ソラ:え?どうしたの?
【ジュドウが駆け足で二階へ上がる】
ソラ:…?
【大量のアルバムを抱えてジュドウが戻ってくる】
ジュドウ:…よいしょっと
ソラ:うわあ…何これ
ジュドウ:昨日ソラが、アルバムみたいなんて言うから、ついな、がんばって集めたんだぞ!
ソラ:…こんなに持ってたんだね
ジュドウ:ああ…これなんかどうだ?
ソラ:…え!ねえ!このジュドウ若い!
ジュドウ:ははっ、だろ?
ソラ:へえ…あ!待って、これいつの?
ジュドウ:ソラが10歳になった時だな、1人でろうそく消せて、えらかったぞ
ソラ:…もう、子ども扱いしないで
ジュドウ:フフッ、まあまあ!…あっこれも、ほら
ソラ:…海行った時だね
ジュドウ:こんとき確か…皆に「かわいいね」って声かけられて、ソラ恥ずかしくて泣いちゃったもんな
ソラ:は?そんなことないし!
ジュドウ:でもその後ソフトクリーム買ってやったら、すぐ機嫌なおったんだよな…
ソラ:…むう、次行こ、次!
【ソラがとりだしたアルバムから、一枚の写真が落ちる】
ソラ:…これは?
ジュドウ:ん?ああ、これは…
ソラ:兵隊さんたちがいっぱい
ジュドウ:…
ソラ:あ、ねえこの人、若い時のジュドウに似てる!
ジュドウ:…ん?ああ、…そうだな
ソラ:…?
ソラ:…ねえジュドウ?ここに書いてあるVietnam(ベトナム)って?
ジュドウ:…
ソラ:…ジュドウ?
ジュドウ:アジアの国だよ、自然が豊かで…と、住んでいる人は小柄で…
ソラ:料理とかおいしいの?
ジュドウ:ん?ああ、きっとおいしいぞ、俺は食べたことないけどな
ソラ:ジュドウは、行ったことあるの?
ジュドウ:ああ、
ジュドウ:…
ジュドウ:ソラ、さっきの写真の、俺に似てるやつ…俺で間違いない
ソラ:へえー…ジュドウって、軍人さんだったんだね
ジュドウ:だいぶ昔の話なんだが…聞いてくれるか?
ソラ:…うん
【回想開始】
【1974年:ベトナム戦争】
【密林の中を走るジュドウとエリック】
ジュドウ:はぁっ、はぁっ!
ジュドウ:いつ始まったんだ?なぜ始まったんだ…?
ジュドウ:なあ!…これは何のための戦争なんだ?
エリック:知らねえよ、黙って走れ
ジュドウ:…ああ
ジュドウ(N):敵がどこに隠れているかわからない、仲間が無事なのかも、知らない。
エリック:はっ、伏せろ!
ジュドウ:おう!
【砲弾の音】
ジュドウ:っ、叫び声が…
エリック:ああ、くっそ!木が邪魔だ!
【密林上空を、何かを噴射しながら過ぎる飛行機】
【しばらく走り続け、小川のほとりでつかの間の休憩をとる】
エリック:…そういえば、上官たちの話聞いちまったんだけどよ
ジュドウ:…?
エリック:「軍隊は、軍という組織を守るから、民間人の生命財産は守らない」ってよ。軍隊は、組織を守るから、死んではいけないんだとさ。
ジュドウ:軍隊は、組織を守るから、死んではいけない…死んではいけない…死んでは…いけない
【密林を抜け、集落に辿り着く】
エリック:よし!出たぞ、集落だ!
ジュドウ:っ…あんなに焼けちまって
エリック:そうだな、先に荒らしたやつがいるみてえだ…見込みはねえが、とりあえず食いモンを探そうぜ
ジュドウ:あ、ああ
【民家が燃やされた跡を、注意深く見ながら歩く】
ジュドウ:…ひどいにおいだ、なんてことしやがる……ん?
【焼け落ちた民家の屋根の下、微かに動く小さな手】
ジュドウ:はっ!…待ってろ!
【ジュドウは、屋根に手をかけて持ち上げる】
ジュドウ:ぐっ…、うおおっ
【屋根をどけると、そこには、目を閉じた赤ん坊の姿】
ジュドウ:…っ、…ごめんな
【ジュドウはしゃがみ、赤ん坊の手にゆっくりと手を伸ばす】
ジュドウ:っ…?
【傷だらけになった人差し指が、赤ん坊の手に包まれる】
ジュドウ:生き、てる…?
ジュドウ:お前、なんで…?俺が、俺が誰だか知ってんのか?軍人だぞ、しかもお前たちの国を…
【何を言っても、赤ん坊は指を離さなかった】
ジュドウ(N):何もできない、何も分からない。かわいそうに、どんな境遇でも、目の前の人間を信頼するしかないんだ。
【赤ん坊は目をゆっくりと開いて、ジュドウを見つめてきた】
【「殺してくれるな、これ以上、殺してくれるな」、そんな目】
ジュドウ:っ…(涙をこらえながら)
ジュドウ(N):…いっそ、ひとおもいに、泣いてほしかった。
ジュドウ(N):人でなし、家族を返せと言わんばかりに、泣きじゃくってほしかった…。
ジュドウ:…ごめん、ごめん、間違っているのは、俺だ…
【そっと赤ん坊を抱きかかえるジュドウ、赤ん坊はジュドウをじっと見つめている】
ジュドウ:ああ、…警戒しているんだろう?俺が、敵か味方か、必死に見分けようとしているんだろう?
ジュドウ:…大丈夫、何があっても、俺が守るからな
【先に行っていたエリックが戻ってくる】
エリック:おーいジュドウ!あっちに少しだが食料が…
ジュドウ:っ!
エリック:…おい何してんだ、そいつもアジア人だろう!置け、ぶっ殺してやる…(銃を構えながら)
ジュドウ:…っ!(エリックを睨む)
エリック:あ?んだよ、お前の子じゃねえんだろ?
ジュドウ:俺の子じゃなくても!この子はまだ赤ん坊だ!
エリック:生かしたところで俺たちに恨みもつだけだろう!それに、どうせすぐ野垂れ死ぬんだ
ジュドウ:っ…、撃つな!
エリック:ジュドウ、それは規律違反だぞ、見つけ次第殺せと言われただろうが!
ジュドウ:いやだっ!
ジュドウ:この子だけはっ!!殺させない!!!
エリック:ああ、ああそうかよ、処分されても知らねえからな
ジュドウ:…上等だ、処分でもなんでもしやがれ!こんなクソみてえな組織なんざ抜けてやるよ!!
【数日後】
ジュドウ(N):俺は、上官にしこたま怒鳴りつけられた後、軍をやめさせられた、いや…やめてやった
ジュドウ(N):負傷兵らと一緒に引き揚げて、それから親戚を頼って…何とか家と仕事を見つけて、ひとまず落ち着くことができた
ジュドウ(N):いつ死ぬかわからない、それでも死んではいけない世界から、逃げてやるんだ
ジュドウ(N):俺は死んではいけないんじゃない、この子のために、生きるって決めたんだ
ジュドウ(N):何も後悔しない、もう、何も…
【ジュドウの家】
ジュドウ:さて、ミルクと、おしめと…
赤ん坊:うえぇえぇぇっ
ジュドウ:んっ?どうした~?…よっと(抱きかかえる)、えーと、(時計を見る)…おなかすいたのか?
【赤ん坊の口に哺乳瓶におそるおそる近づける…】
ジュドウ:…の、飲んだ…フフッ…かわいいな、お前
【夜中】
赤ん坊:、ふぎゃあぁあぁぁ
ジュドウ:…ん?…おーおー、どうした~?
赤ん坊:うぅぅ…
ジュドウ:んー?あやしてほしいのか…?あれっ?ちがう?……じゃあなんだろうな…ん…?
【赤ん坊のおしめが濡れている】
ジュドウ:ありゃあそっちか…ちょっと待っててくれよ…
【1年後 ○月×日】
ジュドウ:もう一度…ソ、ラ
ソラ:…お、あ
ジュドウ:ん~惜しいな、ソ、ラ
ソラ:お、わ!
ジュドウ:お、子音(しいん)が出てきたな…great(グレイト)!
ソラ:うえいお!
ジュドウ:そうそう、ぐれいと、ソラ
ジュドウ:俺は、ジュ、ド、ウ
ソラ:う、お、う!
ジュドウ:ジュドウ
ソラ:うおー
ジュドウ:フフッ…
【5年後 ○月×日】
ソラ:ジュドウ!ねえ起きてジュドウ!こうえん、いこ!
ジュドウ:ん…おはよ、って、まだ朝だぞ…
ソラ:はやくしないとブランコとられちゃう!ねえはやくー!
ジュドウ:はいはい…まてまて、せめて朝ごはん食べてからな…
【ソラ10歳の誕生日】
ジュドウ:ハッピバースデー「ソラ」~♪
ソラ:きゃー(ぱちぱち拍手)
ジュドウ:10歳おめでと~う!
ソラ:えへへっ、ジュドウ!ありがとー!
【ソラが寝付いた時】
ジュドウ:10歳…か。早いなぁ、こないだまで、あんなに小さかったのに…。
ジュドウ:仲のいい友達もいるみたいだし、これからはきっと…もっと、手がかからなくなってくるのか。
ジュドウ:それもそれで、寂しいもんだな…
【回想終了】
ソラ:…
ジュドウ:…いつか、言わなきゃいけなかった。気づいていたかもしれないが、俺は、ソラと血がつながっていない。
ソラ:…
ジュドウ:しかも俺は、無意味な戦争ふっかけて、命を奪った側の人間だ
ジュドウ:許してくれなんて言わない、俺は…
ソラ:ジュドウは、
ジュドウ:…?
ソラ:ジュドウは…私の国に償うために、私を育てたんだ
ジュドウ:っ…違…
ソラ:だって、子ども育てるのって、大変なんでしょ!…償うためっていう義務があったら、どんなことがあっても育てなきゃいけないもんね!
ジュドウ:違う!そうじゃない!
ソラ:嘘だ!
ジュドウ:嘘じゃない!
ソラ:絶対嘘だ!
ジュドウ:ソラ!
ソラ:…っ
ジュドウ:…ごめん
ジュドウ:確かに、俺たちはソラの人生をめちゃくちゃにした。お前は、本当はベトナムで、父さんと母さんと平和に暮らすはずだった。でも、俺たちが全部奪ってしまった。
ソラ:だったらなん…
ジュドウ: それでも!…俺は、お前と一緒にいたかった!
ソラ:…っ?
ジュドウ:大変なこともあったけど、でも、それでも…楽しいことの方がずっと多かった!
ジュドウ:ずっと暗かった俺の人生は、ソラがいたから明るくなったんだ!
ジュドウ:だから…義務なんて言わないでくれ。償いもあるかも知れない、でも、それだけじゃないんだ!
ソラ:…っ
ソラ:…ごめん、ちょっと、ひとりにしてほしい
ジュドウ:ソラっ…あ、
【二階に駆けあがっていくソラ】
ジュドウ:…そうだよな、重かったよな…こんな時期にこんなこと知りたくなかったよな、
普通の父さんじゃなくて、ごめん、ごめんよ…
【学校 ホームルーム】
【参観者たちで、教室の後ろが埋まっていく】
ソラ(N):前の子たちが先生に指名されて、次々に手紙を読んでいく。毎回の発表が終わると、すすり泣く声、大きな拍手が聞こえてくる。
ソラ(N):私の番だ。
ソラ:「私が一番感謝したいのは、ジュドウです。ジュドウは、私のために、いつも一生懸命働いてくれて、おいしいご飯を作ってくれます。」
ジュドウ:…ソラ
ソラ:「あと、海とか、遊園地とか、いろいろなところに連れて行ってくれて、とてもうれしいです。」
ソラ:「…ジュドウは、私のことを何でも知っていて、好きな食べ物も、気持ちとかも、隠していてもすぐにばれてしまいます。この間、隠れてプリンを食べてしまったことも、すぐに気づかれてしまいました…」
ジュドウ:フフッ
ソラ:でも…
【ソラが、持っていた用紙を机の上に置く】
ジュドウ:…?
ソラ:…でも、私は、彼のことを全然知りませんでした。
ソラ:彼は…私の本当の父親ではありません。ジュドウは昔、軍人で、ベトナムへ行っていました。そこで、私を見つけて、ここに連れてきてくれたそうです。私は小さかったのでわかりません。
ソラ:でも、ひとつだけ、かすかに覚えていることがあります。
ソラ:…煙と血のにおいがしていて、大きな音がして、体が痛くて、なぜだかとても心細かった時がありました。なんでそうなったのかわかりません。そんな時、大きな男の人が、私のことをぎゅっと抱きしめてくれました。今思いかえすと、あの時そばにいてくれたのが、きっと、ジュドウなんだと思います。
【声を立てる者は、一人もいない】
ソラ:…ジュドウがいないと、今の私はいません。私が今幸せなのは、ジュドウのおかげです。
ソラ:私は、ジュドウ…パパのことが、大好きです!…ソラ・スミス
【割れんばかりの拍手】
ジュドウ:…っ、ソラ…
【家】
ソラ:…ちょっとちょっと!何してんのよ!
ジュドウ:え、だって…これは飾るしかないだろう♪えーと、どこが一番目立つかな~♪…よし、ここかな!
ソラ:聞いちゃいないんだから…はぁ
ソラ:…ジュドウ、
ジュドウ:ん?
ソラ:…ごめんね、私、大人げなかったよ…ずっと意地張っちゃってさ。
ジュドウ:いいや、俺の方こそ…
ジュドウ:…久しぶりに、海でも行くか?
ソラ:…うん!
ジュドウ:もうさすがに浜辺だけじゃ飽きるだろうし…釣りとかどうだ?
ソラ:え!行く!
ジュドウ:じゃあどっちが大物釣れるか、競争な
ソラ:絶対ジュドウより大物釣るから
ジュドウ:お?張り合いがあるねえ
ソラ:フフッ、楽しみにしてるからね!…パパ(小声)
ジュドウ:っ?…ソラ、今なんて
ソラ:な、なんでもない!ほら行くよ!
ジュドウ:待ってくれソラ、もう1回!もう1回言ってくれ…
おわり
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