【声劇】ココロミ
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男:2女:1
約15分~
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。
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【登場人物】
ジーニアス:亜米利加人の母と日本人の父を持つ少年。医者になるために、キヌガワに弟子入りしている。不器用だが、一生懸命な性格。
キヌガワ:ジーニアスの師匠。城下の名医。優しく穏やかな性格。
アマネ:不治の病に苦しむ少女。
【本編】
【キヌガワの家】
キヌガワ:——さっ、次は…このお皿に入っている小豆を箸でつかんで、こっちのお皿に入れてみようか。
ジーニアス:はい、っ…ぐぬぬぬ
キヌガワ:そんなに力まなくていいよ、もう少し力を抜いて——
ジーニアス:——はいっ、あ、ああー!…落としちゃった
キヌガワ:ふふっ、おやおや
ジーニアス:ご…ごめんなさい、
キヌガワ:家ではご飯はどうやって?
ジーニアス:ずっと、スプーンとかフォークで食べてました…
キヌガワ:なるほどねえ、
キヌガワ:まあ大丈夫、いつか箸も使えるようになるし、練習していれば手先はうまく扱えるものさ
ジーニアス:…がんばります、
【突然、外からキヌガワを呼ぶ声がする】
キヌガワ:ん?はーい、今行くよ…
ジーニアス(N):彼は、師匠のキヌガワ ミチタケさん。何のつながりもなかった僕を弟子にしてくれた、とても優しい人。とてもお世話になっているんだ。
キヌガワ(N):彼は、ジーニアス。なんでも、お母さまが亜米利加(アメリカ)の方だそうで、目がガラス玉みたいに青くて、髪は栗色でくるくる巻いている。お医者さんになりたいそうなんだが…正直に言って、彼の不器用さには驚いたよ。だけど、優しい心の持主だ。私も見習わなければな…。
【キヌガワが帰ってくる】
キヌガワ:…ふぅ、そうかそうか
ジーニアス:おかえりなさい。…なにかあったんですか?
キヌガワ:うん…診にきてほしいっていう人がいてね。一緒に来るかい?
ジーニアス:——はいっ、ぜひ!
【道中】
【しばらく歩いていると、大きなお屋敷が見えてくる】
キヌガワ:家主さんと話してくるから、少し待っててね
ジーニアス:…はい、
ジーニアス:…広い家だなぁ…庭に池もあるし、あれは桜の木かな。
ジーニアス:ん?…あそこに人がいる?
【ジーニアスは、建物の奥まったところにある一部屋に目をやった】
ジーニアス:女の子…?
アマネ:…?(ジーニアスの方を見る)
ジーニアス:っ…!
キヌガワ:ん…お待たせ、どうしたんだい?
ジーニアス:え、あ、あの…お屋敷の奥の方に女の子が、
キヌガワ:ああ、アマネさんだね。あの子が患者さんだよ。
キヌガワ:ただ…すこし厳しいかもしれないがね(小声)
ジーニアス:…?
キヌガワ:ジーニアス…君に任せたいことがあるんだ。…アマネさんの話し相手になってほしい。
ジーニアス:えっ!でも…ご両親は…?
キヌガワ:ご両親は…(不自然な間を開ける)
ジーニアス:…?
キヌガワ:とにかく、同じぐらいの年の君なら、話もしやすいだろうと思ってね
ジーニアス:…わ、わかりました、
【アマネの部屋】
ジーニアス:し、失礼します…
アマネ:…あなたは、さっきの…?
ジーニアス:あ、えっと…は、初めまして、僕はジーニアスと言います!…その、キヌガワ先生のところで修業をしていますっ、えと…今日はその付き添いで——
アマネ:——なんて、呼んだらいい?
ジーニアス:あ…ジーニアスと…でも、好きに呼んでください
アマネ:じゃあ…ジン
ジーニアス:っ、
アマネ:ジーニアスだから、ジン
ジーニアス:ジン…
【キヌガワの家】
キヌガワ:…様子はどうだった?
ジーニアス:お、お元気そうでした…
キヌガワ:そうかそうか、仲良くなれそうかい?
ジーニアス:はい、向こうから…いろいろ話をしてくれるので、助かります、
キヌガワ:…なるほどね
【ある日 アマネの部屋】
アマネ:…ジンは、どうして目が青いの?
ジーニアス:ん、ママが異国の人だから…変、だよね
アマネ:ううん、すごくすてきだよ。晴れた空みたい
ジーニアス:っ…あ、あり、がと
アマネ:…ジンは、異国の言葉がわかるの?
ジーニアス:うん、少しだけね。たとえば…女の子は、girl(ガール)、男の子は、boy(ボーイ)…部屋は、room(ルーム)とか
アマネ:すごい…!じゃあ、木は?
ジーニアス:tree(ツリー)かな
【キヌガワの家】
キヌガワ:はっはっは、それはそれはいい勉強になったね
ジーニアス:わ、…笑わないでください!あんまり英語使ったことがないから苦労したんです!
キヌガワ:ふふっ、でも彼女も楽しそうだったんだろう?
ジーニアス:ま、まあ…楽しそうではありました、
キヌガワ:なら良しだ。笑うのは健康のいいからね。
ジーニアス:…
ジーニアス:…師匠、
キヌガワ:ん?
ジーニアス:アマネは…あと、どれぐらい生きられるんですか?
キヌガワ:…詳しいことは言えないさ、あの子にも、君にも
キヌガワ:とにかく…今はアマネさんとたくさん話してあげなさい
ジーニアス:…はい、
【ある日】
アマネ:ジン…「好き」って、何て言うの?
ジーニアス:好き、か…
ジーニアス:例えば、散歩するのが好きっていうときには、like(ライク)、男の人や女の人がお互いを愛するっていうときにはlove(ラブ)、かな
アマネ:んー…愛なんだけど…人の気持ちに寄り添う「愛」は?
ジーニアス:うーん…僕の知っているかぎり、その言葉はないんだ…ごめん
アマネ:…ううん、いいよ
アマネ:ジン…言葉って作れるのかな?
ジーニアス:うん、たくさん言葉をつくったら、いろんな気持ちを表せると思うよ
アマネ:なら、ジンが次に来てくれるときまでにつくってみる!
ジーニアス:うん…楽しみにしてるよ!
【キヌガワの家】
ジーニアス:…言葉をつくる、
【回想】
アマネ:…人の気持ちに寄り添う「愛」は?
【回想終了】
ジーニアス:人の気持ちに寄り添う…愛、か
キヌガワ:…ジーニアス、ちょっとおいで。
ジーニアス:ど、どうしたんですか
キヌガワ:落ち着いて聞いてくれ、アマネさんの病状がね、よろしくないんだ。
ジーニアス:っ…そんな、
【お屋敷 アマネの部屋】
ジーニアス:アマネっ!
アマネ:あ…、ジン…来て、くれたんだ
ジーニアス:当たり前だ!っ、どこが痛い?…何か食べたいものは?
アマネ:…いい、何も、いらない
ジーニアス:…っ
【ジーニアスは病床のアマネの隣に座る】
アマネ:私ね…言葉、つくったんだよ
ジーニアス:…!
アマネ:ジン…だよ
ジーニアス:えっ…
アマネ:意味はね、人が困っているときとか、助けてほしいときに、手を差し伸べることができる…そんな「愛」
ジーニアス:ア…
アマネ:…ジンは、私の話し相手になって、って言われたんでしょ?
ジーニアス:っ…ごめん、実は
アマネ:お父さんも、お母さんも…私が病気になってから、話をしてくれなくなったの。きっと、もうすぐ私が…いなくなるからなんだわ。
ジーニアス:…ご両親がアマネと話したがらない理由は分からない。でもっ、僕がアマネと話したかったのは、本当なんだ!うつむいていて、元気がなさそうで…一度でいいから、笑顔を見てみたいって、そう思った!だから、だからっ…
アマネ:ジンは…優しいね。優しくて、人を思ってくれるジンに、私は、何もあげられなかった…だからね、言葉をあげる、あなたに、ぴったりの、言葉、を…っ
ジーニアス:っ…アマネ!
アマネ:ふふ…っ、あり…が…とう…
ジーニアス:アマネ…?アマ、ネ…
【…】
キヌガワ:…ジーニアス、しっかり
ジーニアス:ぐすっ…なんで、な、んでっ…!!
キヌガワ:医者というのは、こんな場面にたくさん出会う…分かっていただろう
ジーニアス:…っ、ぐすっ、…分かってます、分かってる…けど、
キヌガワ:その先は言うな…その通りだ、本当に
キヌガワ:…最期、彼女からなんか言われたかい?
ジーニアス:…ありがとうって、あと…言葉をもらいました。ジンって、
キヌガワ:仁(ジン)…思いやり、か。相当気に入られたみたいだね。
ジーニアス:え…?
【キヌガワは、ふと足を止める】
キヌガワ:アマネさんのご両親がね、あんなに幸せそうな娘は見たことがないって言っていたんだ。
キヌガワ:ご両親は、彼女が助からないとわかってから、接し方が分からなかった。彼女を目にするたび、自分たちが責められている気がして、遠ざかって行った…
【回想】
アマネ:…ジンは、私の話し相手になってって言われたんでしょ?
アマネ:お父さんも、お母さんも…病気になってから、私と話をしてくれなくなったの。きっと、もうすぐ私がいなくなるからなんだわ。
【回想終了】
キヌガワ:でも、アマネさんは、君に救われたと思う、幸せそうな顔をしていたよ
ジーニアス:…っ、そう、なんですか
キヌガワ:ああ…
キヌガワ:それに、欧米の方には、体と心は別物だって言う考えがあるそうだ。
キヌガワ:…体は救えずとも、心を救うことはできるかもしれない
ジーニアス:心を、救う…?
キヌガワ:…生きていくことは大事だ。でも、それが叶わないこともある。そんな人を前にして、私たちには何ができるだろう…
ジーニアス:…
ジーニアス:師匠
キヌガワ:ん?
ジーニアス:僕…人の心を救いたいです!
ジーニアス:悲しいけれど…人は死んでしまうのでしょう。でも、せめて心だけでも満たすことができるなら、きっと救われるんじゃないかと思います。
ジーニアス:それに…不器用な僕でも、きっとできることだと思う
キヌガワ:心を看る医者、か。…いいじゃないか。
ジーニアス:はい…でも、外科医もあきらめません!これからも、よろしくお願いします!
キヌガワ:ああ、よろしくね…ジン。
終
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