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【声劇】図書館の鍵(4人用)

【利用規約】
https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08

♂:♀=2:2

【登場人物】
リヒャルト (男)
オランダの諜報員。誠実で優しい性格。

マーク(男)
オランダで酒場を営む。粗暴だが人情ある性格。

ルーシー(女)
マークの妻。天真爛漫で活発な性格。

ダリア(女)
ブレーメンの図書館司書。物静かな美人。

本編

【ポストに手紙が投函される】

ルーシー:おや、はーい、はいはい

【ルーシー 手紙をよく見る】

ルーシー:…あら? あんた~!

【マーク ルーシー 部屋の中にいる】

ルーシー:…エンスヘデ市役所からよ

マーク:わしら宛てに?…なんじゃろうか。

ルーシー:どれどれ……あら、あんた!

マーク:うーん……誰じゃ?

ルーシー:あんたったらもう!リヒャルトよ!ほら!

マーク:リヒャ、ルト…?

ルーシー:そうよ!昔から仲良くしてくれてたじゃない!!

マーク:……

ルーシー:…マーク?

マーク:…リヒャ、ルト…ううっ…生きて、生きておった…、あいつ…うおおん

ルーシー:あんたっ……もう、情けないわねえ…

マーク:ああ…リヒャルトは、ダリアは…ううっ…

ルーシー:あ、どうしましょう…またはじまっちゃうわぁ

マーク:――あれは…40年ぐらい前のことじゃったなあ…

ルーシー:ほぉらはじまった…こうなるともう止めらんないのよね


【回想 40年前】
【オランダ エンスヘデ 閉店後の酒場】

リヒャルト:(N)オランダは、1940年、ドイツに支配された。今は43年の冬…。攻撃はやまない、食料も尽きてきた…。もうたくさんだ!早く戦争が終わるように、少しでもこの身を役立てたい…!そんな思いで僕は…

マーク:諜報員になったってわけだな!

ルーシー:いーじゃん!秘密を暴いて、悪い奴をやっつける!

リヒャルト:そんなんじゃないさ、情報を市民から聞き出すだけだよ

ルーシー:あんた顔に出やすいんだから気をつけなよ?

リヒャルト:わかってるよ…ただ、今回の任務が…ちょっと難関で

マーク:どんなんだ?

リヒャルト:それが…


マーク:(N)オランダはドイツ領だ。だが…最近は、イギリス、フランスの連合軍が、ドイツを攻撃しにかかってくれているんだ。

ルーシー:(N)でも、時々オランダも攻撃されてる。だから、次はどこの都市が攻撃されるんだろう…この情報は誰もが、喉から手が出るほど欲しかった。

リヒャルト:次に攻撃される都市はどこかっていうのを、聞き出さないといけないんだよ

マーク:……次に攻撃される都市…か

ルーシー:こりゃまた難しいことを請け負ったねぇ

リヒャルト:うん…運みたいなもんだから、どうしようってね

マーク:客の噂からも、そんなん出てこねえしなあ

ルーシー:うーん…あ、はいっ!

マーク:なんだ

ルーシー:…ちょっと気になってる人がいるんだわ!ブレーメンのね、「図書館の鍵」って言われている娘さん!

マーク:お!あの、謎の美人さんか?

ルーシー:そう!とにかく美人でねぇ…凛としててかっこいいんだわ!オンナの憧れよ!

マーク:あれにはルーシーもかなわねえよな!

ルーシー:あぁん?ふんだっ!リヒャルトぉ!旦那がいじめる!

リヒャルト:ははっ、こらこらルーシー、マークも!ケンカしないで

マーク:ま、いつものこった!心配すんなっ!

ルーシー:今度言ったらフライにして客に出してやるから

マーク:おー怖い

リヒャルト:はっはっ…。それにしても…図書館の鍵か…

ルーシー:行ってみたらいいよ!美人さん見てくるだけでもいいし!

マーク:おっ?じゃあ俺も――

ルーシー:あんたは店手伝えっての!


【ドイツ ブレーメン 図書館】

【リヒャルトは雪の中を歩く】

リヒャルト:…ふーっ…さむ…

リヒャルト:…ブレーメンの図書館…か

【扉を開く】

リヒャルト:…こ、んにちは

ダリア:こんにちは

リヒャルト:っ…(息をのむ)

ルーシー:「とにかく美人でねぇ…凛としててかっこいいんだわ!オンナの憧れよ!」

ダリア:…どうしました?

リヒャルト:はっ、い、いえ…

ダリア:…ご利用は、初めてですか?

リヒャルト:は、はい

ダリア:お借りする本が決まったら、こちらにどうぞ

リヒャルト:ありがとうございます

ダリア:ええ


リヒャルト:…あの、いつもこれくらいのお客さんなんですか?

ダリア:そうですね、冬なので、少ないかもしれません

リヒャルト:そ、そうですか…

ダリア:…?

リヒャルト:あ、あ…ちょっと用事を思いだしました!また来ます!ありがとうございました!

ダリア:ええ、


【酒場】
ルーシー:おっ?リヒャルトおかえり!いつもの?

リヒャルト:…あ、いや…ウイスキーを

ルーシー:あいよ~!

リヒャルト:……(頭を抱える)

マーク:よっ!…珍しいなお前がウイスキーなんて、どうした?

リヒャルト:いや、なん、でもない

【マーク リヒャルトの顔を覗き込む】

リヒャルト:なっ…なんだよ!

マーク:お前…さては……惚れたな?

リヒャルト:っ!(お酒を飲み干す)

マーク:はっは!ごまかそうとしたって無駄だぜ?

リヒャルト:っ…悪いかよ

マーク:悪かねえよ――っこりゃいいや!…んで、どんな感じだった?

リヒャルト:…端正で、すごく美人で…気品があって

マーク:おうおう、それで?

リヒャルト:司書さんってことは、頭もいい。でも…あんまり表情が無いんだ

マーク:あ~そうだな、あんまり笑ってるとこ見たことねえなぁ

リヒャルト:うん…だから……その、えっと

マーク:だから?その?

リヒャルト:……あの子の…笑った顔…どんなかな、って

マーク:ひぃーっw

リヒャルト:笑うなよっ!

ルーシー:あら、あたしを差し置いてどーこの「美人」の話をしているの?

マーク:だぁってろルーシー、男の話だ

ルーシー:あたしだって男みたいなもんなんだからいけるっしょ?

マーク:いけるかっつの!…ほら、注文来てるぞ

ルーシー:はぁーい♡たっだいまぁ~!

マーク:はぁー、すぐ首突っ込んできやがってまったく…

リヒャルト:そういえばさ

マーク:んあ?

リヒャルト:ルーシーとはどうやって知り合ったんだ?

マーク:…お前、話そらそうとしてねえ?

リヒャルト:いやいや!純粋に気になっただけだよ

マーク:っしゃーねーな…1回しか言わねーぞ

リヒャルト:うん

マーク:…一目惚れだ

リヒャルト:ひゅーっ(出来たら口笛)

マーク:や、やめろお前!!お前だって一目惚れだろうが!!

ルーシー:なーにぃ?マークが惚れ性って話?

マーク:だぁっ!ルーシーてめえっ

リヒャルト:っははは!!

マーク:笑うなこんにゃろうっ!…くっそ覚えてろ!


【1か月後 ブレーメン 図書館】

【扉を開ける】

リヒャルト:こ、んにちは

ダリア:こんにちは

リヒャルト:…っ…(小声)やっぱり…きれいだ

リヒャルト:(N)僕は、彼女を見に…(咳払い)…情報を集めに、ブレーメンの図書館に通うようになった。司書は彼女一人だから、規模は大きくない。けれど…驚くほど蔵書が多い。僕が小さい頃に好きだった絵本から、だれもが知る名著までそろえてある。

ダリア:…最近、よく来てくださいますね

リヒャルト:え…はい!この図書館に憧れていたんです…それに、小さい頃からいろんな本を読んでいたので…

ダリア:そうなんですね

リヒャルト:ええ…

リヒャルト:(N)それから僕は、彼女と話をする機会に恵まれた。彼女が生まれ育ったドイツの話。彼女が好きな本の話。いつか行ってみたい場所の話…とても、とても幸せな時間だった。

ダリア:…あなたは、おもしろい方ですね。人の話を聞き出すのが上手…こんなにお話ししたのは久しぶりです。

リヒャルト:それは良かった!あなたのことを知ることができて嬉しかったです。また来ます。

ダリア:ええ、

リヒャルト:…あ、あの!一つだけ…

ダリア:…?

リヒャルト:僕、リヒャルトと言います。えっと……お名前、聞いてもいいですか?

ダリア:…ダリア、です。

リヒャルト:ダリア…さん、素敵なお名前ですね…あなたによく似合っています。

ダリア:…ありがとうございます…ふふっ(顔をほころばせる)

リヒャルト:…っ…笑…った

ダリア:リヒャルトさんは…例えば、どんな書物をたしなみますか?

リヒャルト:…よく読むとすれば、スピノザや、グロティウスですね

ダリア:なるほど…そのお2人…

リヒャルト:あ、でも…最近はマンネリになってしまって…そうだ!ダリアさんのお薦めを教えてくれませんか?

ダリア:…わかりました。リストを作ります。また、来てください。

リヒャルト:…っ、ありがとうございます!…では

ダリア:ありがとうございました

【リヒャルトが扉を閉めた後】

ダリア:…スピノザ、グロティウス…オランダの、方ね


【酒場】
マーク:よっ!進んでるか?情報収集という名のウォッチング――

リヒャルト:――す、進んでるって!!

ルーシー:彼女の名前は?

リヒャルト:…ダリア…さん

ルーシー:ダリアさんかあ~!く~っ!いい名前だわ!

マーク:リヒャルトぉ!今度一緒に行こうぜ!

ルーシー:あんた!…あたし以外にも、愛されるつもりなの?

マーク:…っ!ルーシー…お前…

ルーシー:んでリヒャルト!どんな本借りてきたの?

マーク:…っ…ルーシー

リヒャルト:ルーシー…旦那めちゃくちゃ落ち込んでるぞ

ルーシー:あっ!ごめーん!

マーク:…うん、いいヨ……いつものコトだ

リヒャルト:はは…は

ルーシー:…平和、争いのない……平和の本ばっかりだね

リヒャルト:うん、これは囮(おとり)…彼女はきっと戦争なんて望んでいないはず。だから、僕が平和の本をたくさん借りていると知ったら、心を開いてくれるんじゃないかって

ルーシー:へ~!さすがはリヒャルト!

マーク:そうだよな、ドイツ人も悪い奴ばっかじゃねえもんな

リヒャルト:うん…戦争をはじめた奴は悪いけど、ダリアは絶対悪くない!だからもう少し、もう少し仲良くなって…

マーク:リヒャルト

リヒャルト:ん?

マーク:仲良くなるんはかまわんが、入れ込みすぎて忘れんなよ?お前の目的は「情報を聞き出す」ってことなんだからな

ルーシー:そーそー!ちゃんと次に攻撃される場所、聞き出さないと!

リヒャルト:うん…わかってるよ


【2か月後 閉館間際の図書館】

ダリア:…?

【扉を開ける音】

リヒャルト:…っ、はぁ、間に合った

ダリア:…あら、コートに雪が積もってますよ

リヒャルト:あっ、すみません…しかも、閉館間際になっちゃって

ダリア:いいえ、ごゆっくり

リヒャルト:ありがとうございます

ダリア:…


ダリア:…リヒャルトさん

リヒャルト:はい

ダリア:実は、あなたに一つお尋ねしたいことがあって

リヒャルト:、はい…なんでしょう

【手を止めて 真剣な面持ちで】

ダリア:あなたは…どんな情報を、お望みですか?

リヒャルト:っ…

ダリア:…ここに来る方とは、読んでいる本が違うと思っていました。

リヒャルト:……

ダリア:平和に関する本ばかり…最近あまり借りられない本ばかりを、あなたは借りていった。何かある、と思っていました。

ダリア:リヒャルトさん、あなたは、何者ですか?

リヒャルト:…僕は


リヒャルト:……僕は、オランダの諜報員です。

ダリア:っ……この度は、ご迷惑を…

リヒャルト:いえ…あなたが今回の侵攻に賛成かはわかりません。しかし、ドイツは今、いろいろな国から攻撃を受けて、多くの町が被害を受けているはずです。だから、僕は、次に攻撃を受ける場所はどこか…どうしても知りたかった。もし攻撃を受ける場所がオランダのどこかだったら…そんな危惧もありましたから。

ダリア:……

リヒャルト:いろいろ聞き込みをしました。…ですが、だれも知らなかった。…けれど、ある噂があったんです。

ダリア:噂?

リヒャルト:はい、「図書館の鍵」の噂です。

ダリア:…私が、次に攻撃を受ける場所を知っている、と?

リヒャルト:…ええ…すみません、最初は、あなたから情報を聞き出せれば、それでよかった。けれど、今は…あなたを見たくて、平和な世界で、あなたが笑顔でここに座っているのを、見たくて…

ダリア:……

リヒャルト:この度は、本当にすみませんでした。僕はこれで――

ダリア――待って

リヒャルト:えっ

ダリア:…以前、あなたは、わたしのお薦めの本を聞いてくださった。…リストを作るので、少々お待ちください

リヒャルト:は、はい…

【タイプライターの音が、静かな図書館に響く】

ダリア:…こちらです。

リヒャルト:あ、ありがとうございます…

ダリア:ぜひ、また来て…そして、この図書館の中から、探してほしいんです。

リヒャルト:…また、来ても、いいんですか?

ダリア:ええ…あなたには、来てほしいんです。

リヒャルト:…!

【数日後 酒場 閉店後】

マーク:…それでこの5冊を借りてきたんだな。

ルーシー:どれどれ…アダムスミスに、ジェンナーに、ヘッセときたか

マーク:それに、ブレンターノに…メンデル…さすが、頭いい娘さんは違うねえ

ルーシー:うん…でもさぁ、なんでこの5冊なんだろうね

リヒャルト:ん?

ルーシー:だって、ヘッセは文学でしょ、アダムスミスって経済でしょ?バラッバラじゃない?

マーク:な、お前…まさか、頭いいのか?

ルーシー:一般教養ですーっ!

マーク:なっ、なんだと!

リヒャルト:まあまあ…でもたしかに、なんでだろう

ルーシー:もしかすると…何かの暗号だったりして!

マーク:ああ、お前の正体はバレてるわけだし…もしかするかもな!

リヒャルト:そ、そうなのか?

ルーシー:しっかりしてよ諜報員!

リヒャルト:う、うん、

マーク:なんか聞いたことあんぜ!受け取った手紙を縦に読んだら、実は助けてっていうメッセージだったとか!

ルーシー:じゃあこれも何かのメッセージかな!ちょっとリスト見せてよ!

リヒャルト:ああ…これ

マーク:うーん…上から順番通りいくと、上から、ヘッセ、ジェンナー、アダムスミス、メンデル、ブレンターノ…か

ルーシー:ヘジア、メブ

マーク:なんだそりゃw――なぁなんかヒントないのか?

リヒャルト:ヒント…か…

【回想】

リヒャルト:僕は…諜報員として、次に攻撃を受ける場所はどこか…どうしても知りたいと思っていた。

ダリア:…私が、次に攻撃を受ける場所を知っている、と?

リヒャルト:…ええ

【回想終了】

リヒャルト:…攻撃される都市がどこか知りたいって打ち明けた後に、このリストを作ってくれたんだ。

ルーシー:ふーん…もしかするかもね

マーク:…何がだ?

ルーシー:リヒャルトが知りたい情報を、暗に教えてくれてるかもってことよ!

リヒャルト:…っなるほど

マーク:でもなあ…アダムスミスに、ジェンナーに…ヘッセ?

ルーシー:ア…ジ…へ

リヒャルト:…アーヘ?

マーク:ん?

ルーシー:…アーヘン!そうよ!アーヘンよ!

マーク:ドイツのか?

ルーシー:そう!教会がたくさんある、文化都市のアーヘン!

リヒャルト:すごいなルーシー!

ルーシー:へっへーん!

マーク:くっそやられた

リヒャルト:ははっ競争じゃないんだから

ルーシー:え、でもさ、アーヘンだけなら3冊でいいよね…メンデルとブレンターノは

リヒャルト:…たしかに、うーん…


マーク:…っわかったぞ…ブレンターノと、メンデルで…ブレーメンだ!

ルーシー:っマークあったまいい!

マーク:だろ!

リヒャルト:けど…ブレーメンって、ダリアさんがいるところだ!

ルーシー:いつ攻撃されるんだろ…怖いね

マーク:ああ…でも、攻撃の日時がわからねえかぎり、対処のしようがねえよな…

【その日の夜 リヒャルトの家 本をめくりながら】

リヒャルト:…


マーク:「うーん…上から順番通りいくと、上から、ヘッセ、ジェンナー、アダムスミス、メンデル、ブレンターノ…か」

ルーシー:「でもさぁ、なんでこの5冊なんだろうね。ヘッセって文学でしょ、アダムスミスって経済でしょ?バラッバラじゃない?」

ダリア:「また来て…そして、この図書館の中から、探してほしいんです。」

リヒャルト:えっと…たしか探した場所は…ヘッセが、文学…Literature(リテラチャー)、ジェンナーが、免疫学Immunology(イミューノロジー)、アダムスミスが、Economics(エコノミクス)、メンデルがBiology(バイオロジー)、ブレンターノが…Ethics(エシックス)

マーク:「なんか聞いたことあんぜ!受け取った手紙を縦に読んだら、助けてっていうメッセージだったとか!」

リヒャルト:L、I、E、B、E…Liebe(リーベ)?!!…これっ!…liebe(リーベ)…愛?

ダリア:「あなたには、来てほしいんです…」

リヒャルト:ダリアさんっ…もしかして…僕を……ん?

【めくったページに、栞が張り付いていた】

リヒャルト:栞(しおり)?くっついてる…43ページ…

ダリア:「あなたには、来てほしいんです…」

リヒャルト:4行目…17文字目…43年……っ!


リヒャルト:…行かなきゃ…ダリアさんが危ない!

【数日後 閉店後の酒場】

マーク:っはー、結局、攻撃の日時はわからねえままか…

リヒャルト:うん…

リヒャルト:…マーク

マーク:んあ?

リヒャルト:僕、明日この本を返しに行ってくるよ、ブレーメンに

マーク:謎が全部解けねえってのに、いいのか?

リヒャルト:うん…いいんだ。大丈夫

マーク:…


【次の日 休みの酒場】

ルーシー:――ねぇあんた!リヒャルトどこ行ったか、わかる?

マーク:んあ?なんだ血相変えて

ルーシー:あいつ本忘れてってんのよ…

マーク:ああ…ほんとだな、後で返しに行ってやるよ

ルーシー:それがね、見てよこれ!ブレンターノとメンデル!

マーク:ブレーメンの本か

ルーシー:そう、両方にね、1か所だけ栞(しおり)があるの

マーク:あん?…43ページ…これがどうしたんだよ

ルーシー:43ページだけじゃない!ほらみて!栞の位置!

マーク:4行目の…17文字のところか?

ルーシー:これさ、よく考えたら、今年…43年なんだよ、そして今日が4月17日

マーク:ブレーメン…4月、17日…まさか…ダリアの暗号って!

ルーシー:ねえ!リヒャルトは!?

【回想】

リヒャルト:僕、明日この本を返しに行ってくるよ

マーク:謎が全部解けねえってのに、いいのか?

リヒャルト:うん…いいんだ。大丈夫

【回想終了】

マーク:…っ!あいつたしか、ブレーメンに行くっつってた!

ルーシー:嫌な予感がする!

マーク:ルーシーっ!急ぐぞ!!

ルーシー:ええ!

【図書館前】

リヒャルト:はあっ、はあっ……っ…休館日?

リヒャルト:(扉を叩く)っダリアさん!…ダリアさん!!

【扉が開く】

ダリア:…っリヒャルトさん…どうして

リヒャルト:ここから逃げるんだ!今すぐ!

ダリア:……だめよ、

リヒャルト:なぜ?

ダリア:私は…ドイツ人だから

リヒャルト:え?

ダリア:戦争でたくさんの人が亡くなったのは、私たちのせいよ。それに…戦争がおわったとしても、遅かれ早かれ、裁きを受けなければならない

リヒャルト:それは…一般の市民も、悪いのか

ダリア:え…っ

リヒャルト:市民が戦争をはじめようといったのか?市民が、オランダを、ほかの国を支配しろといったのか?…僕はそうは思わない

ダリア:……

リヒャルト:ダリア、ドイツの戦犯どもは、裁かれてしかるべきだよ!だけど、君は、絶対に何も悪くないんだ!

ダリア:リヒャ、ルト…っ

リヒャルト:ダリア…あの暗号、解けたよ…だからここに来た!

ダリア:…

リヒャルト:あの暗号には2つ意味があった。1つ目は、本の作者の名前を並び替えると…次に攻撃される都市の名前になるということ。…攻撃を受ける場所は、アーヘン、そして…

【ドンっ!という爆発音が響き渡る】

ダリア:っ!!

リヒャルト:っ…もう来たのか!!

ダリア:っ…

リヒャルト:逃げよう!ここにいたら危険だ!!

ダリア:でも…でもっ

リヒャルト:大丈夫、僕が案内する!ちょっと遠いけど、ここよりは平和な町だ

ダリア:…リヒャルト

リヒャルト:大丈夫、ダリア、僕を信じて!

ダリア:…!(うなづく)

【リヒャルト ダリア 炎に包まれた町を走る】

ダリア:はぁっ、はあっ…あっ!

リヒャルト:っダリア!…しっかり!

ダリア:ええ…ありがと――いっ!

リヒャルト:っ…足か?

ダリア:ええ……ごめんなさい

リヒャルト:いいや…大丈――

【再び 大きな爆発音】

リヒャルト:――っさっきより近い

ダリア:リヒャルト…私を、置いて行って

リヒャルト:っ!?そんなことできるか!

ダリア:でも!ここにいたらあなたまで死んじゃうわ!

リヒャルト:っ…

リヒャルト:「Liebe(リーベ)…?愛…って」

ダリア:「あなたには、来てほしいんです…」

リヒャルト:ダリア…ごめんよっ――

【リヒャルトは ダリアを抱きかかえる】

ダリア:きゃっ!リヒャルト――

リヒャルト:――ダリア、僕はあなたに一目惚れしたんだ。あなたを、守りたいと思った。笑顔が見たいと思った。…こんな僕だけど、あなたを…愛している。

ダリア:っ…リヒャ、ルト

リヒャルト:ダリア…君がくれた暗号のもう一つの意味…君があのとき送ってくれた「愛」を、信じてもいいか?

ダリア:リヒャルト、…ありがとう


【マーク、ルーシー、ブレーメン市内を走る】

マーク:はぁっ!はぁっ!!リヒャルトぉおっ!!ダリアぁあっ!!

ルーシー:っ!あんたっ!見て…図書館が…っ

マーク:っ…!そんな…そんなの信じないぞ!

ルーシー:リヒャルト…ダリア…う…

マーク:やめろ…やめてくれよ…

ルーシー:だって…だって…もう…

マーク:う…う、うぅ…うおぉおぉっ!!

【町は 炎の中に包まれていく】

【回想終了 40年後】

マーク:…あの攻撃以来、わしらはあいつらに会えておらん

ルーシー:そう、だから…もう、2人はだめだったかと…ね…

マーク:でも、なんで手紙を送ってくれたのじゃろう、わしらは引っ越してしまったから、住所なぞ知らんはずなのに

【インターホンが鳴る】

ルーシー:はい…どちらさまかしら、はーい

【ドアを開ける】

ルーシー:…っ、ああ…、マークっ

マーク:んあ…なんじゃ……なっ!

リヒャルト:ルーシー…マーク…元気かい?

ダリア:こんにちは

マーク:あ…リヒャ、ルト…ダリア…

リヒャルト:久しいの…マーク

マーク:リ、リヒャルトぉお、お前…しわしわになりおってぇ!!うおぉぉん!

リヒャルト:馬鹿を言うな、お前こそしわくちゃじゃないか…ぐすっ…

ダリア:おやおや、ふふっ

ルーシー:あ~あ、まったくしょうがないわねえ…ほら、2人とも、ハンカチ

リヒャルト:ああ…すまない…ぐすっ


ルーシー:いやぁ〜、よく生きててくれたねぇ、もうだめだったかと

マーク:どうやって暮らしてたんだ?

リヒャルト:ああ、ブレーメンが攻撃されてからは、逃げながら生活していたさ。わしは諜報員だったし、ダリアも機密を漏らしたから…戦争が終わって、暫くするまで夜もおちおち眠れなかったよ

ルーシー:はあ〜、大変だったんだねえ

リヒャルト:居場所がばれたら引っ越し、その繰り返しで、やっと落ち着いたんだ。そしたら、久しぶりにお前たちに会いたくなってね

マーク:そうだったのか…でも、わしの住所はどうやって、

リヒャルト:エンスヘデの市役所に、お前たちにお手紙を渡してくれるように、何度も頼んだのさ。それで、やっと今日、手紙を出してもらえることになってな。せっかくだから、手紙と一緒に、わしらも行ってみようと思っての。

マーク:ほう…それで来てくれたというわけか

ルーシー:ダリアさんも一緒に、来てくれたんだねえ

ダリア:ええ…お話しするのは、初めてですねぇ…

ルーシー:…ふふっ…リヒャルトと一緒に、たくさん笑ったのね。おだやかな笑顔が素敵だわ

ダリア:あら…うれしいわぁ、ありがとう。

リヒャルト:ふふっ、ダリアも加わったことだし、一緒にいられなかった分、たくさん思い出つくろうな!

マーク:おお!まずは…いろいろ聞かせてくれよ!

ルーシー:あたしも、あんたたちに聞きたいことがたくさんあるのよ!まずはあんたたちの住所!そして電話番号!それから…

マーク:その前にまず…2人がどうやって仲良くなったか、知りたいねぇ

ルーシー:あ!それ気になるわぁ

リヒャルト:なっ…わしの話はいいだろう

ダリア:うふふ…リヒャルトさんはね、最初に出会ったときは――

リヒャルト:ダ…ダリアっ――やめんか!

【4人 思い思いに笑う 】

終わり

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