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藤井風は中田英寿かもしれない。

昨今のエンタメ業界に【贋物】の逸材がはびこるのは、いかに宣伝文句で「逸材」のイメージを擦り込み実力などを誤魔化すかだと思う。

しかし【本物】の逸材は違う。

本物は必ず人々を掴んで離さない。本物には数字が集まる。もしかしたらこの人は世界と戦えるかも、そんな夢を感じるアーティストが現れた。サッカーで言うと中田英寿の登場と言っていい。

川谷絵音氏のコメントが私の感じたこととイコールだ。このnote書かなくてもいいや、というくらい共感した。彼を発見してしまった表現者達はその圧倒的な才能に絶望すらする。

先日の私の記事で、「帰ろう」のMVに触れたが、あの曲は序章にすぎないのだろう。まずはじっくり観てほしい。

音楽的な解説

名曲「帰ろう」の音楽面は専門家が語るだろうし、私が語るまでもないが一点だけ紹介したい。それは最初のサビ、所謂1サビだ。サビ前「忘れないから」の「ら」を伸ばしサビ頭を母音「a」のまま「ああ」に繋げている。正にビリージョエルのhonesty。この手法はBメロとサビの世界を繋げる効果はもちろん、メロディがステイしているのにコードが解放感溢れるM7で心地よさしかない。さらに編曲家のセンスなのかここでリズムパートが消え、ストリングスが伸びやかに前に出る……ここ数年で最も好きな曲だ。

歌詞

「何なんw」をはじめ、くだけた口語や岡山弁を駆使した歌詞が彼の持ち味だ。

英語っぽい響きに遊び心を交え、時に叙情的に混ぜる桑田佳祐とはまた違う。現代の口語と、岡山弁はそのまま使えばダサかったはずだ。それがカッコよくなってしまうのは、藤井風の音楽的説得力に他ならない。その点で桑田佳祐と共通していると言える。

と、説明しておいて「なんなん」だが、「帰ろう」は岡山弁とくだけた口語を封じている標準語バラードだ。しかもアルバムの最後の曲であり、思い入れが強いことが窺い知れる。彼の表現欲やモチベーションが枯渇しない限り、邦楽史に名を残すアーティストになるのは確実だと思う。

映像

「帰ろう」のみ、児玉裕一監督作品だ。日本で考えうる最高の人選であり、即再タッグを望みたい。

児玉裕一監督といえばUNIQLOCKだが東京事変と椎名林檎のタッグでよく知られており、その世界観は新作になればなるほど無限に広がっている。特に宇多田ヒカル・椎名林檎の「二時間だけのバカンス」はアーティスト2人にMVの世界観を話しても2人とも「ぽかーん」だったという話もある。観ればわかるが設定が、ぶっ飛んでる。

「帰ろう」で気になったのはその演出だ。

まず藤井風以外の俳優たちへ、恐らくはかなり細かい演出が施されているように思う。(勝手な予想だが)登場人物はそれぞれの人生を比喩しているような演技であり、その仕草ひとつひとつに意味を持たせているように思う。ソファを引いている岡山ナンバーの車からお爺さんがでてきて、挨拶をし「皆より先に」去っていくシーン。美しすぎる社交ダンス?の2人。若いカップルが離れていくときの視線。最後のワンカットに写る女子高生。一つ一つ読み解いてもまだまだ足りないくらい味わえる。それぞれの人生がたしかに存在している演出。リアリティが溢れている。

藤井風本人への演出も秀逸だが、もしかしたら本人に自由に任せている可能性もあって楽しい。1番終わり間奏で、ソファから捨てられた?荷物たちを眺める芝居なんかはもうその辺の俳優を蹴散らすほどの表現力だ。恐らくは演出で細かい設定の説明があったと思うが、あれが感覚だけでやっているのだとしたら恐ろしい。作品を厳選してからでいいので俳優もやってほしい。

書けば書くほど野暮だが、ワンカットずつ解説したくなるほどの作品であるため、全部解説するには岡田斗司夫さんのYouTubeぐらいやらなければならない。それはしんどいのでこのあたりで締めておく。是非このMVの威力を、感じ取ってみてほしい。

そして久しぶりの国産スーパースターの登場を楽しみたい。

中田英寿がペルージャでセリエAデビューを飾ったユベントス戦の2ゴール。ピアチェンツァ相手に決めたオーバーヘッドシュートからのゴール。

あの時のようなインパクトが近々、起こる。

著者・伊藤陽佑のプロフィールはこちらをご参照ください