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日本の資産運用に黒船?バンガードが直販検討

バンガードは本当に黒船足りうるのか

ブラックロックやフィデリティなどの外資系大手運用会社が日本に来ていても、野村アセットをはじめ日系運用会社が生き残っているのにはそれなりに理由があります。例えば日本の機関投資家や個人投資家の要望は欧米の商習慣とは異なりますから、日本の外資系運用会社は本国に対して毎度説明に苦労しているという話はよく聞く話題です。

特に個人投資家向けのリテールビジネスについては、いわゆる本国からは非常に非効率な商売に見えるようです。設定時に1000億円集めて、半年で100億円まで資金を減らしてしまう、そんな日本の投資信託ビジネスはCrazyであるとどこかの国の人が言っていたような言っていないような。

そしてバンガードは販売会社(金融機関)に対してFeeを落とすことを非常に嫌いますので、投信業務に参入するとしても直販業務になるのは自然と言えます。投資信託販売の主流である販売会社を経由した販売が行われないというのはユーザーの利便性の面でみれば劣ることになります。Twitterにはみんな死ぬとか書きましたが、数年の内に既存のインデックスファンドがオワターとかなる可能性は、実際のところそんなに大きくないと言えます。

今回の報道の通りだとして、ついに黒船がやってきたな感はあるものの、いきなりゲーム・チェンジするかというと、どうやらそこまででもなさそうだぞ、という印象です。

直接販売業務の業務・システム負担

投資信託の場合、多くの運用会社は商品の組成・運用を行い、実際の販売は代理店である金融機関(銀行、証券、信金、その他いろいろ)で代行してもらうのが普通です。ところが直接販売業務になると投資信託の組成・運用・販売までを社内で行うことになります。(組成・運用)のシステムそして、(販売)のシステム両方を負担しなければなりません。これが結構重い。また個人情報を取りあつかうに際して社内の体制整備も必要となります。今でこそ幾分改善されましたが、2、3年前まではさわかみ投信以外の直販運用会社はすべて赤字、といった状況でした。例えばバンガードに馴染み深いセゾン投信では営業費用が毎年ざっと3億円必要となっています。セゾン投信の運用残高はざっと2,000億円、運用報酬は0.40%程度であり、これでようやく黒字化しています。バンガードの平均運用報酬が仮にこの半分の0.20%だったとすると、同社は4,000億円集めなければ投信事業で黒字化することは叶いません。この金額はさわかみ投信よりも大きく、日本の投資信託運用会社TOP20に入る残高です。

さらに言えば0.10%まで下がると8,000億円集めなければいけない、ということになります。

セゾン投信の損益計算書 P.66 

バンガードの平均信託報酬


バンガード社の場合はゼロスタートしかなかった日本の直販運用会社と違い世界最大規模の資産残高とファンドラインナップがありますし、様々なインフラを既に持っているはずですから格段にやりやすいとは思います。とはいえそのインフラが日本でも使えるのかは不明ですし、黒字化残高の前提条件を鑑みるにチャレンジングであることは間違いありません。当初はスモールスタートから始まるのではないかと思いますが、ここらへんはオーストラリアやイギリス展開時の事例を調べてみたいと思います。

でもセゾン死んじゃうかも

仮に直販に参入した場合、一番影響を受けるのは、バンガードの投資信託でFoFを組成・運用・販売しているセゾン投信なのは間違いありません。真っ向から勝負すると完全にセゾンが燃え尽きる未来しか見えないのですが、そこはこれまでのビジネスの関係性の配慮もあるでしょうし、顧客基盤にどうやって食い込むのかという話もあるでしょうから、バット振ったら脳天直撃していきなりセゾン投信が死ぬということにはならないとは思います。けれども一番揉めるところだろうな、と。

でも期待してる

とはいえ、日本の投資信託ビジネスの困難さを見続けてきた人間としては今回の報道に少なからず期待を寄せるところです。より良い商品・サービスをどのように提供するかという競争が加速するトリガーになってくれるのではないかと考えています。