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1日15分の免疫学(129)免疫応答の操作⑦

ワクチン開発で大事なこと

本「ワクチン開発の成功に必要なことはまず安全性大半の者防御免疫が誘導されること、長期の免疫力が誘導されること( T 細胞 B 細胞 両方の感作が必要)、 安価であること」
大林「安全性は勿論だけど、安価なのは実際問題として重要だよね」

本「効果的なワクチンプログラムの有利性は集団免疫
大林「数年前からテレビでも聞くようになったね。体質その他の事情でワクチン接種できない人を守るためにもワクチンを接種できる人は接種が望ましいって」
本「集団の中で感受性のある者の数を減らすと感染患者の自然なリザーバーが減り、感染が伝わる確率低下する」
大林「集団免疫は、多数が免疫しないとその効果を発揮できないんだよね」
本「流行性耳下腺炎では約80%の免疫率が必要とされる。これ以下だと散発的な流行が起こりうる」
大林「80%?!それはもう健常人ほぼ全員接種しておかないと達成難しくない?思想的にワクチンを嫌がる人もいるからなぁ」

ワクチンの種類

本「今のほとんどの抗ウイルスワクチンは生きた弱毒化ウイルス不活化ウイルスからできている」

大林「といっても原著は2016年出版なんだよな…不活化ウイルスは細胞に感染しないからMHCクラスⅠには提示されずCD8T細胞はあまり出動しないよね」

◆復習メモ
T細胞自己非自己を認識できる免疫細胞。胸腺Thymusで成熟するためT細胞と呼ばれる。MHC分子抗原ペプチド複合体を認識する。
細胞表面分子CD4を発現するT細胞は、CD4T細胞とも呼ばれ(ヘルパーT細胞や制御性T細胞に分化する)、MHCクラスⅡ分子を認識する。
CD8を発現するT細胞はCD8T細胞とも呼ばれ(細胞傷害性T細胞に分化する)、MHCクラスⅠ分子を認識する。
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。

MHC分子主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex。ほとんどの脊椎動物の細胞にあり、細胞表面に存在する細胞膜貫通型の糖タンパク分子。ヒトのMHCはHLAと呼ばれる(ヒト主要組織適合遺伝子複合体Human Leukocyte Antigen)。
MHC分子は2種類あり、クラスⅠ分子はほとんどすべての細胞に発現しているが、分子はプロフェッショナル抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)といった限られた細胞にしか発現していない。

本「弱毒化ウイルスの方が一般ははるかに強力。CD4T細胞やCD8T細胞をも含む多くのエフェクター機構を誘導する」
大林「弱毒化ってどうやるの」
本「伝統的にはヒト以外の細胞でよりよく育つものを選ぶ」
大林「なるほど、たとえばサル細胞で感染を繰り返して、サル細胞に順応したのをヒト細胞に使えば……つまりヒト細胞に感染して増えるのが下手っぴなウイルスになるわけか」

大林「伝統的、というからには最新は遺伝子技術かな?」
本「それは2つある。1つは特定のウイルス遺伝子を取り出してin vitroで突然変異を起こさせ、変異遺伝子をウイルスゲノム中の野生型遺伝子といれかえる。この方法なら復帰突然変異ができないように操作できる」
※復帰突然変異:二次的突然変異(先祖返り)により、祖先の遺伝子型または表現型に復帰する突然変異。
大林「そんなこともできるのか。たしかに、せっかくヒトに都合のいい変異を起こしたのにヒトの体内で増殖繰り返すうちに先祖返りされちゃたまらんものな」

本「インフルエンザウイルスには抗原性の変化が起こり、 免疫応答を優先的に免れるため、同じ宿主に何回も感染しうる」
大林「だから毎年インフルエンザにかかりうる」
本「まぁ、大人なら、異なるサブタイプのインフルエンザに感染していれば弱い防御能を授っているよ」
大林「インフルエンザの自然感染にも一応の効果はあるのか」
本「異型免疫heterosubtypic immunityと呼ばれる。インフルエンザワクチンは流行している株に合わせて内容を変えた不活化ウイルスを使う」
大林「インフルエンザワクチンには重症化を防ぐ効果があるんだよね」
本「ワクチンは中程度に有効で、高齢者の致死率低下させたり、健康な大人病状を軽くする」
大林「えらく留保したな」

本「最近のワクチン開発で使われてきた最も重要な弱毒化の例はBCG」
大林「なつかしい、昔うけたよ」
厚労省「BCG結核を予防するワクチンの通称。ワクチンを開発した研究者の名前を冠した菌:Bacille Calmette-Guerin(カルメットとゲランの菌)の頭文字をとったもの。この菌は、本来牛に感染する牛型結核菌を時間をかけて弱めたものであり、1921年に初めて新生児に投与されました。以後、1924年には日本にも菌がもたらされ、わが国においても長い歴史があります。1965年には日本の菌(Tokyo 172 strain)からつくられたBCGワクチンがWHOの国際参照品に指定されています」

本「BCGは小児で結核菌による重篤な全身感染を防ぐのに有効」
大林「大人は?」
本「有効ではない」
大林「オゥ…」
本「現在のBCG は20世紀初頭に実験室で植え継がれてきた株で牛結核菌から取られたもの」
大林「秘伝のタレ みたいだな」
本「遺伝学的に異なる PCG の株が進化し、 疾患防御率には大きな違いがあるため、新たな結核 ワクチンが早急に必要」
大林「開発しなきゃ」
本「2つの遺伝子組み換え rBCG ワクチンが最近、第Ⅰ相臨床試験をクリアした」※recombinant BCG
大林「原著出版年2016年の最近、ね。やはり原著で読まないとタイムラグが大きいな」
本「1つは主要抗原過剰発現させて特異性を高めたもの。もう1つは膜に穴を開けるリステリア・モノサイトゲネスのリステリオリシンを発現して、BCG 抗原がファゴソームから細胞質へと漏れるようにしてMHCクラスⅠ分子へのクロスプレゼンテーションが起こるようにしたもの」
※クロスプレゼンテーション:抗原提示細胞にエンドサイトーシスあるいはファゴサイトーシスで取り込まれた外来性物質MHCクラスI分子を介して提示されること。

大林「なるほどそれでCD8T細胞が反応できるわけだ。やはりワクチンで細胞性免疫をいかに効率よく誘導できるかが重要なんだね〜」

少し短いけど今回はここまで!

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