見出し画像

1日15分の免疫学(118)自己免疫と移植⑪

直接的アロ認識と間接的アロ認識

本「ナイーブアロ反応性T細胞は、アロMHCと補助刺激分子を発現する抗原提示細胞に活性化されてエフェクターに分化し移植片を拒絶する」
allo:非自己
大林「特定の非自己抗原に特異的なナイーブT細胞が、その非自己MHCをもつドナー由来の抗原提示細胞に出会ってしまうと、活性化してエフェクターT細胞になって、ドナーの移植片を攻撃排除してしまうわけだ」
※ドナー:移植臓器を提供する人
※レシピエント:移植臓器をもらう人
本「移植臓器にはパッセンジャー白血球と呼ばれるドナー由来の抗原提示細胞がいることもある」
大林「言われてみればそうだよね、マクロファージとか組織定住細胞だし…組織片にいるよな」
本「ドナーの抗原掲示細胞が移植片を離れてレシピエントの二次リンパ組織に移動して、ドナーに反応するレシピエントT細胞を活性化する」
大林「他のヒトの体に組織ごと移植されて、それに気づくわけもなく、いつも通り二次リンパへ移動しちゃうんだ……」
本「アロ移植臓器のリンパ液排出経路は移植によって断たれるのでドナー抗原提示細胞は血管を移動する」
大林「どういう意味?」
※推測メモ:たぶん、移植の際に組織片についてる血管は、レシピエントの血管につなげるけど、リンパ管はつながない?

本「活性化したアロ反応性T細胞は、移植片に移動して攻撃する。この認識経路を直接的アロ認識direct allo recognitionと呼ぶ」
大林「移植片から抗原提示細胞をとりのぞくのは難しい?」
本「移植組織にいる抗原提示細胞や抗体を長期培養によって除くと拒絶は遅れる」
大林「多少は除けるのか」

本「他方、レシピエントの抗原提示細胞がアロ蛋白質をとりこんで自己MHCで提示する機序は間接的アロ認識indirect allorecognitionと呼ぶ」
大林「つまり、
・ドナー由来の抗原提示細胞(レシピエントにとっては非自己MHCをもつ)をレシピエントのT細胞が認識するのを直接的アロ認識
・レシピエントの抗原提示細胞が移植片から非自己の蛋白質をとりこんで抗原提示して、それをレシピエントのT細胞が認識するのを間接的アロ認識
というわけね」

本「レシピエントでMHC不一致による直接的なアロ反応性T細胞が多いと、それが急性拒絶の主要な原因となると考えられている」
大林「せやろなぁ、でもそれって事前にチェックできそうだね」

本「細胞傷害性T細胞による直接的な攻撃は移植片の非自己MHCを直接認識するときのみ起こるが、自己MHCによるアロ抗原提示を認識するT細胞(ヘルパーT細胞)はマクロファージを活性化して組織障害と繊維症を引き起こすことで移植片を拒絶する」
◆復習メモ
T細胞自己非自己を認識できる免疫細胞。胸腺Thymusで成熟するためT細胞と呼ばれる。MHC分子抗原ペプチド複合体を認識する。
細胞表面分子CD4を発現するT細胞は、CD4T細胞とも呼ばれ(ヘルパーT細胞や制御性T細胞に分化する)、MHCクラスⅡ分子を認識する。
CD8を発現するT細胞はCD8T細胞とも呼ばれ(細胞傷害性T細胞に分化する)、MHCクラスⅠ分子を認識する。
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。

大林「ほぉほぉ。細胞傷害性T細胞は非自己のMHCを認識してそれを攻撃、つまり直接的アロ認識、ヘルパーT細胞はMHC上のアロ抗原を認識してマクロファージを活性化して……つまり間接的アロ認識か。ヘルパーT細胞はアロ抗原に特異的なB細胞も活性化して抗体を産生させる?」
本「そう。同種の非自己抗原に対する抗体はアロ抗体alloantibodyと呼ばれる」

血液型抗原と移植

本「血液型抗原と多型性のあるMHC抗原に対する抗体をすでにもっている場合、移植から数分以内に補体依存的な急激な拒絶が起きる。これを超急性移植片拒絶hyperacute graft rejectionと呼ぶ」
大林「急性に超がついた!数分以内って怖いな、まだ手術室から出てもいないじゃん」

赤十字「血液型は赤血球の表面にある抗原によって決まります。血清学的方法によって多くの型に分けることができます。
赤血球は、A型にはA抗原、B型にはB抗原、AB型にはAとBの両抗原があり、O型にはどちらの抗原もありません。
血清には、赤血球と反応する抗体があって、A型にはB抗原と反応する抗B、B型にはA抗原と反応する抗A、O型には抗Aと抗Bがあり、AB型にはどちらの抗体もありません」
大林「つまり、O型には血液型抗原がないからどの血液型を輸血しても基本的に攻撃されない、AB型の血液は抗Aと抗Bという抗体がないからどの血液型抗原も攻撃しない、というわけか」
赤十字「Rhという型も大事です」
大林「ABOとRhを要チェックというわけですね」
抗体は特定の抗原に結合して排除を促進する役割を担う


本「移植片の血管はレシピエントの循環系に直接吻合されるが、レシピエントがドナー抗原に対してすでに抗体をもっている場合がある」
※吻合(ふんごう):外科的手技の一つ。血管や神経をつなぐこと。


大林「リンパ管は吻合しないの?移植片からドナーの組織に垂れ流しって感じ?」
本は答えない!
インターネットで見る限り、リンパ浮腫の治療としてリンパ管を吻合する外科手技はあるようだが……

本「ABO血液型に対する抗体は、赤血球だけでなくすべての組織に結合する。抗体は、移植片の血管内皮細胞に反応して補体反応と血液凝固反応を起こし、移植片の血管は血栓で詰まり急速に破壊され、移植片は充血して出血により紫色に変色し酸欠状態となる」
大林「おそろしや……血液型がわかるまでの時代は移植危険すぎる。今は移植前にチェックするんでしょ?」
本「ドナーとレシピエントでABO型を一致させるのと、ドナーとレシピエントと交叉適合性試験cross-matchingをするよ」
大林「交叉適合性試験とは?」
本「レシピエントがドナーの白血球に反応する抗体をもってるかどうかを調べる」
大林「おぉ、ちゃんとチェックするんだね。それで超急性の拒絶を回避できるわけだ、よかった」
本「ちなみに、いくつかの臓器…特に肝臓はこの種の傷害の感受性が低く、ABO型があっていなくても移植可能」
大林「え?なんで?!」
本「わかんない」
大林「そっかぁ~」

他の動物の臓器移植(異種移植)

本「もし異種移植が可能ならドナー臓器不足が解決する」
大林「つまりヒト以外の動物の臓器か。ブタは比較的ヒトに近いって聞いたけど」
本「ほとんどのヒトは、ブタを含む他の哺乳類の細胞表面の糖鎖抗原α-Galに対する抗体をもっている」
大林「だから拒絶してしまうのか」
本「ブタ組織をヒトに移植すると、α-Galに対する抗体移植片の血管内皮細胞に結合して補体と凝固系を活性化して超急性移植片拒絶を起こす。異種移植では補体制御蛋白質が働きにくいため、より大きな問題となる」
大林「うわぁ……そのα-Galを発現しないブタは開発できない?」
本「α-Gal欠損ブタ開発の取組は始まってるよ」
大林「成功するといいね。まぁ、生命倫理的には再生医療がもっと進化してほしいなと思うけど」

今回はここまで!
サイトでは細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
現在、サイト改装と「Being」最新話作成中!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?