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Classic Music Best of 20 years ~21世紀最初の20年を代表するクラシック音楽作品~

2020年という1年の終わりで色々忙しくてしばらく気づかなかったのですが今年の終わりで21世紀の最初の20年=1/5が過ぎてしまうらしいです。大変なことです。
長かったような短かったような20年ですが、クラシック界では世界中で新しい作品が生まれたり弾かれたりしてきました。もちろん全部を把握することはできませんがせめて自分が知っている、聴いている分だけでも21世紀を代表する、今後に残したい曲を選んでみようと思いました。単純に自分が大好きな曲だけでも随分数が多いので「21世紀っぽい、社会的や他の意味で今の時代と世界を何らかの意味で反映しているもの」を大ざっぱな基準として10曲選んでみました。後世に残れ!

オスバルド・ゴリホフ  ソプラノと管弦楽のための3つの歌曲 (2001)

21世紀にもなると新しい巨大なオペラとか交響的作品を発表・演奏する場もちょっと限られてくるのかもっと小さい編成での表現が広がるようになったような印象があります。フルオケじゃない複数楽器アンサンブルが伴奏となる歌曲も色々あって面白いですね。中でもこの曲は3曲と短い構成ですが各曲が違う言語で歌われるのがちょっと変わった歌曲集。3曲それぞれ単体でも成立し、それでいて3つ合わせて小さい世界の中で完結している印象。各曲違う魅力があって全部好きです。それから第2楽章が別の大編成の作品に流用されてますがそれも最近よく見る傾向な気がします。(一つの曲を色んな文脈・背景で楽しめたり聴き広げるきっかけになるのでそういうの好きです)

アルヴォ・ペルト 「Lamentate」(2002)

今の時代でもソナタや交響曲、協奏曲みたいな形式で曲を書く作曲家もたくさんいますが伝統的な形式と似て非なる形式での表現を使った作品も数多く。このLamentateもピアノがソロのオケ曲ながらソロとオケの関係性が協奏曲とは違い、ミニマルミュージックの大御所ペルトの作品ながらシンプルに見えてもミニマルより広い表現の世界が広がっていて。それから同時代の他の芸術作品との題材としてのつながりもまた時代を感じますし、作品のスピリチュアルなテーマもまた今っぽい内的世界が絡んできたり。世界のどこかに置いておけばきっとふとしたことで再発見されて未来にも不思議と響く音楽になるかも。

ジョージ・クラム アメリカ歌曲集第5集「Voices from a Forgotten World」 (2007)

アメリカ(および他新大陸の国)におけるクラシック音楽の歴史はヨーロッパでのそれより大幅に短いですが、そんな中クラムが編曲してまとめたアメリカ歌曲集は重要な作品群に位置するのではと思います。この第5巻では特にアメリカ関連の様々な民族音楽(クラシック以前の文化)からを歌を拾い上げてますが、クラムのすごいところはそのメロディーを取って背景を描き直す・描き足すことでメロディーや歌詞には現れにくい歌の環境を補足するようなつくりになっていること。それが「正」であるとは言いませんがそういう視点でのバージョンも残しておくことも一つの役割を果たす、音楽が歴史や文化の記録になり得る例ではないかと思います。

ジョン・アダムズ 「City Noir」 (2009)

ミニマルミュージックで有名なアダムズによるミニマルミュージックの向こうに発展したオケ表現の作品(もしかしてポスト・ポストモダンみたいな風にも説明できるかな)。それだけでも21世紀だなーと思えますがジャズや都会、フィルムノワールのような20世紀のジャンル・題材を懐かしさとともに新しい作品に組み込む一種のロマンティシズムもまたこの時代ぽい気がします。ジャズでもありミニマルでもあり交響的でもあり、ダークでもありロマンもあり、様々な要素が詰まった楽しい作品です。

エレーナ・カッツ=チェルニン 打楽器のための協奏曲「Golden Kitsch」 (2009)

なんとなくですが19世紀末くらいから音楽におけるファンタジーの表現が広がり今では特に映画音楽でさらに進化しているような印象があります。カッツ=チェルニンもそんなファンタジー表現の使い手の作曲家で、この曲がその一つの集大成といえるのではないかと思います。交響曲や協奏曲といった伝統的な形式の中でもこういった雰囲気や表現を残していきたいですね。それからこの曲の主役である打楽器は20世紀~21世紀の間に使われる楽器の幅、そして使われる場の幅がぐーんと広がっていてそういう意味でもこの時代を良く反映していると言えそう。

トーマス・アデス 「Polaris: Voyage for Orchestra」 (2011)

アデスも(今年発表されたTotentanzを筆頭に)様々な作品、特に大規模な作品を作曲していますがやっぱりこれを推したいです。結構メッセージ性の強い音楽が多いご時世ですがこの曲は後期ロマン派あたりから続いている純粋な交響的管弦楽の進化形みたいで、そんな立ち位置もまた貴重と思います。あと単純に聴いていてまだまだオーケストラの音楽って進化して洗練しているんだなあと。それはマクロではなくミクロでの変化なのかもしれませんが、音楽にまるで画質がクリアになったみたいな感覚があってそれも含めて好きです。

ジョニー・グリーンウッド 「48 Responses to Polymorphia」 (2011)

最近の話なのかはちょっと分からないのですがクラシック以外のジャンルでミュージシャンとして知られている人がクラシック音楽の作曲家でもあるという例をちょこちょこ見る気がします。グリーンウッドもその一人で、クラシック音楽においては現代の音楽言語を操りながらイギリスの弦楽の伝統を一番濃く受け継いでいる作曲家の一人だと思います。この曲においてもハーモニーは現代的でもサウンドはどこかイギリス。さらにこの曲はグリーンウッドが「Polymorphia」の作曲家ペンデレツキに影響を受けたこと、そして二人の友情関係につながる作品でもあり。シンプルに素敵なことですし前の時代から今の時代にバトンを渡す側面もある大事な作品です。

ブレット・ディーン 「The Last Days of Socrates」 (2012)

作曲から8年、まだ円盤的な形式での録音を待ちわびている曲です(それもまた現代の問題の一つですが)。音楽言語でいうとがっつり現代音楽で交響的で、題材はキリスト教でなく古代ギリシャですが形式としては伝統的なオラトリオのようでもある、今の時代良くある古い形式に新しい意味と用途をもたらしている作品の例です。オラトリオというバックボーンがあるけれど合唱や声楽の使い方や物語の伝え方も伝統とは違って面白いですし、テーマ(大衆と知性とか)はとても現代に強く訴えかけるもの。なので是非オンラインのサブスク以外の録音を出したりもっと演奏したりして欲しいです。

リオル&ナイジェル・ウェストレイク 「Compassion」 (2013)

2人の作曲家の合作、アラビア語とヘブライ語の歌詞に象徴される文化多様性、キリスト教以外が題材の宗教的要素がある作品、などすごく21世紀らしい特徴が色々ある作品ですが、一つ特筆したいのが「特定の奏者を想定して書かれた音楽」であるということ。もちろんそういう作品は昔からありますが最近どうもソリストが特定の奏者じゃないと世界観が成立しないレベルで作り上げられている音楽が多い気がします。この曲が多分その最たる例で、リオルの美声が曲の魅力を何倍にもしているところがあります。そういった事情から演奏を聴ける機会は本当に少ないですがその分いつでもどこでも彼の歌声でこの曲が聴ける録音技術に感謝でもあります(それもまた今の時代ですね)。

デボラ・チータム 「Eumeralla, a War Requiem for Peace」 (2018)

今やヨーロッパに限らず世界中の国でそれぞれの国の(特にヨーロッパの文化が到来する前の)音楽文化や文化的題材をクラシック音楽に取り入れた作品が作られています。ヨーロッパから来た人々や文化に駆逐された文化をヨーロッパの文化の中で取り上げ残すというのもまた大事なことで。前述の通り古い形式と新しいものを組み合わせることは様々な作品で行われていますが、この作品では全く異文化と感じられることも多い先住民の物語をクラシック音楽の伝統的なレクイエムの形式と重ね合わせることでアプローチしやすくしています。さらに「駆逐した側以降の人間」として直面するにハードな歴史を音楽を通じて向き合えるようにという意味もあるのかな。音楽以外の歴史としてはもちろん、これからの音楽の役割を考えていくにも重要な作品かもしれません。

自分のチョイスが現代音楽好きにしては保守的なのは承知です(どうしてもちょっと古いところのある音楽が好きなんです)。そしてやっぱり身近なオーストラリアの作品も多くなります。ただ惜しむらくはもっと小編成の作品を挙げたかった。室内楽とか室内オペラみたいな作品はだいたいコンサートで初演として聴いて後からおぼろげな記憶をたどるしかないのでなかなかこういう場所には出せないのですが、様々な工夫やこれまでになかった編成など面白い文化がこういうジャンルではそこここに花開いているのでまたいつか話を出せればと思っています。

21世紀の最初の20年、自分でもよく新しい作品の演奏や録音を追っかけてきたと思います。次の20年も何らかの形で同じまとめがしたいのですがなかなか追いつかなくなってる感覚がどうしても。年齢的なものなのか環境(大学時代とか卒業後数年はよりアクセスが良かった)なのか・・・ただ地球の様々な場所で様々な作曲家が色々な作品を発表している(喜ばしい)状況も少なからず関係あると思います。それでも新しい面白い音楽に出会い続けたい、話し続けたいので来年から20年またできる範囲で追いかけていきたいです。