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お題でプレイリストその12「虫の音楽」

※通し番号が途中で間違ってたので直しました

夏の終わりは色々とばたばたしていたのでしばらくだらだらしていようかなと思ったのですが以前曲を集めておいたプレイリストにほぼ季節物といっていいのがあったので今年のうちに。

 自然界で音楽と関わりが深い生き物といえば鳥がまず浮かびますし実際メシアンの「鳥のカタログ」を筆頭に鳥を扱う作品がたくさん書かれていますが、昆虫を始め虫の仲間もよくクラシック音楽の題材になっています。

たまに蝉とか虫の声を音楽として認識するのは日本人だけ、みたいな説を聞くのですがこのリストに出てくる「虫の音」を見てわかるように全然そんなことはないと思うんですよね。むしろどんな鳴き声の虫が身近に住んでいるかなども影響があるようで。(例えばオーストラリアの蝉とオケラなどは自分の存在を遠くまで知らせる必要があるのか鳴き声が大音量かつ連続的かつ単調なのでどう転んでもノイズだったり)

今回集めたのは特定の虫の音だったり虫の様子だったり、元の詩などの題材に虫が使われていたり、あるいは虫の集合の鳴き声だったり、とにかく虫が絡んでる作品を色々と。

 「虫の様子」に関しては蝶の仲間が多いですね。あの不規則なリズムを伴う軽やかでふわっとした羽ばたきを音楽で表現したくなった作曲家は数いますが、私のお気に入りはラヴェルの「鏡」から「蛾」。もともと蛾が好きなのもありますが予測しにくい動きや光と闇の神秘、あと弾いてるときの手の動きの感覚もひっくるめてぴったりな表現です。

ヨーロッパの辺りでは鳴く虫としてセミの仲間とコオロギの仲間をあんまりはっきり区別していない一般の人もいるイメージがあるのですが少なくともこのリストに出てくる作曲家、そしてたびたび虫を題材にして詩を書いたのが音楽の題材になっているロルカもそこの区別ははっきりしているようです。(ちなみに以前どこかで言ったのですがロルカのセミの詩が歌曲にならないかなー)

さらに特徴的な羽音として蚊やハエを扱う音楽があるのは愛しさというより五月蠅さを伴う身近さ故ですかね(笑)「蚊」の愛称を持つ短いかわいい(作曲家当社比)前奏曲を書いたのはスクリャービンですが、彼のピアノソナタ第10番は彼自身によると「太陽から生まれた昆虫」のソナタだそうです。すごく難しい曲ですがいつか弾けるようになりたい。

昆虫を扱う音楽でなかなか土地柄を感じられることは少ないのですがオーストラリアの作品はちょっと例外かもしれません。Kats-Cherninのバレエ「Wild Swans」に出てくるGlow wormsとはこちらの洞窟で見られる青く光るツチボタル(ヒカリキノコバエの幼虫)のこと。タスマニアで見るのが有名です。

そして先ほどオーストラリアの蝉とオケラの鳴き声は単調なノイズと言いましたがそういった性質の鳴き声でもRoss Edwardsはいわゆるドローン(飛ぶ方じゃなくて持続される音)を捉えて音楽に組み込んでいます。同じくプレイリストに入れたバルトークやディーリアス、クラム(主にブラック・エンジェルズ)のように様々な虫が鳴くことで作られる音の風景という形で昆虫が登場しています。あとGoogleで色々調べ物する副産物としてだけでもそういう作品の分析論文とかたまに出てくるのも興味深い。

なので虫を題材にした音楽(そしてその他詩などの作品)は決して珍しくないですし、虫の声や音に対する音楽的な興味や好奇心って作曲する側も聴く側も分析する側も結構広くあるんだなということがこうやって曲を集めるだけでも分かりますし過小評価しちゃいけないなと思います。

あと録音がないので今回紹介できなかったのですが以前友人のリサイタルで演奏されたKevin Marchの「蝶のカタログ」という作品が好きで。メシアンの「鳥のカタログ」のように各曲が特定の種を題材としている作品なのが自分としてはポイントが高いです。昆虫や虫の仲間は例えば「蝶」の曲を書くよりも「ミヤマアゲハ」とか「コノハチョウ」みたいに種単位で題材にする方がずっとずっと面白いはずので虫に詳しくて虫をこよなく愛する作曲家が今後も出てくるのを密かに待っています。稀なことだと思いますが音楽と科学が近い今世紀にはきっと出てくるはず。