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お題でプレイリストその8「ここではないどこかの音楽」

まだまだ遠くに移動するのもままならない時期ですが、時代・場所関係なく人間ってのは自分の居る場所、自分のホーム以外に思いをはせることが多い生き物なんだな、というのがクラシック音楽など多くの作品にも現れているような気が前々からしていて。今回のお題でプレイリストはそこら辺を思って曲を集めてみました。

このくくりの名前と範囲をどうするかは結構長いこと悩んでいて(Noteにこのシリーズ始めるずっと前の話)遠くにある神話的な場所を想うみたいなフレーバーの曲だけ集めてもいいかなと思ったのですが、実在の遠くの地に思いを馳せる曲も色々面白いものがあるので含めてみました。
例えばプレイリストには古代ギリシャでいうCytheraという島についての曲もいくつかありますが、それも全体で見ればヨーロッパの範囲内で地理的にだいぶ近い場所ですし、20世紀ともなればヨーロッパの様々な場所はもちろん、もっともっと遠いところまで人間が旅するのが普通になって。20世紀~21世紀の音楽に人間の移動の進歩がはっきり現れるのすごく面白い、という趣旨でもあるプレイリストです。

このテーマでなるべく入れたかったのがジョージ・クラムの「アメリカ歌曲集」から黒人霊歌がベースの歌。Promsied Landへ向かう歌詞は黒人霊歌で最も重要なテーマと言えますし、「ここでないどこか」への思いの強さと性質は他の文化のそれとかなり違うので見逃すわけにはいかなかった。

あと面白いのはオーストラリアの立ち位置。エルガーのエニグマ変奏曲は作曲家の友人が船で出発する先の遠い地がオーストラリア(またはニュージーランド)であると言われていますが、オーストラリアはその巨大さから国内にも遠い場所として描かれる場所がたくさんありますし、オーストラリアを出発点としてさらに遠くに=南極に旅する音楽まである。

南極は物理的な距離でもその厳しい環境や旅路から見ても人類ほぼ誰にとってもホームでなく、究極の遠い場所、究極の「ここではないどこか」みたいな場所なんだろうな。でも神話的な憧れじゃなくて畏怖の対象でもあり、人間の想像を超える現実でもあり。今回入れたヴォーン=ウィリアムズとちょっと時代が後のWestlakeでも似たような雰囲気がありますし、21世紀になっても南極を題材にした曲がいくつも書かれていますが音楽に現れる南極に対する見方はずっと変わらない気がします。

テーマからちょっと外れるのは承知でメシアンの「ダイシャクシギ」を入れたのもそちらのフレーバーがあるからだったり。この曲の題材になってるフランスのウェッサン島はフランスの最西端の島で、ここから西に進むとずっとアメリカ大陸まで海しかないみたいな場所なのですが、さらにその中で霧の中で夜が訪れるのを描いているのがまた人間の世界とそうでない世界とその間の鳥たちみたいな形になってて大好きな曲です。

先ほども書きましたが人類が地球のことだいたい分かってる時代になってもこのくくりに当てはまる作品は激減するわけでもなく。南極はまだ遠く厳しいですし、オーストラリアを筆頭にまだまだ未知で不思議な場所はたくさんあります。むしろ今のパンデミック&ロックダウンの時代にもしかしたら増える可能性があるジャンルかも。

あと毎回サムネ画像の説明はまあ良いか、なんとなく分かるかみたいな感じで来たのですが今回はちょっと説明を。上記ダイシャクシギのウェッサン島が「西に進んだら次たどり着く陸地はアメリカ大陸」なのと同じようにこの写真のVIC州Warrnamboolも「南に進んだら次たどり着く陸地は南極大陸」ということで選びました。昔はヨーロッパからオーストラリアに来る船はここの海を通ってたのでエニグマ変奏曲に出てくるエルガーの知り合いももしかしたら通っていたかも・・・?