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お題でプレイリストその14「Anachronism」

久々のプレイリスト記事。一応いくつも作ってはいるんですがもっとぴんとくる曲を思いつく・出会うかもしれないとか思ってどうしても後延ばしにしたりしがちで。
特に今回のプレイリストは自分の頭で思いつかないと検索するのにはとても難しいので何か忘れてた曲はないか突然思い出すための猶予期間を長めに持たせてしていました。

さてAnachronism。一般的には「時代錯誤」と訳される言葉で、よく使われる例としては時代物の映画に現代のアイテム(腕時計とか)が映ってしまったり、というのがあるようにその異質さにフォーカスしてネガティブな意味で使われることが多い言葉です。
メルボルンだと建築に「折衷」というより「時代錯誤」の印象が強い例が結構あって、元々ある古いものに現代的な面白いものを融合させようとして時代錯誤どころかそれを超えた奇妙な物を作りだしてしまうことがあります。

その例自体は色々あれですが、時代錯誤的な違和感・奇妙さは必ずしも悪いことではないというか、他の記事でも書いているように楽しめる要素だと思います。ただそれをうまいこと作品にするのは難しい。
そんな難しいさじ加減で新と旧のミックスを楽しいものにしてくれている(と私の感覚では思う)音楽を集めてみました。ちなみにいわゆる「新古典主義」みたいなものより「隔たり」を感じるようもっと新しい作品中心です。

こういう音楽が好きなんですよね-、時代に関わらず複数の異なる要素を組み合わせる時は完全にスムーズに融合するよりある程度の違和感があった方が面白い。なのでクラシック音楽でのいわゆる「リメイク」の中でもちょっと変わったところのあるのが良いです。
必ずしも奇天烈な曲を選んだわけではないのでご安心を。

途中パッサカリア続きになってますがこのバロック時代に良く使われた形式を20世紀以降の作曲家達が頻用してるのは面白いですね。私も好き。むしろ昔よりも愛を持ってパッサカリアを選んで書いてる感があると思うのは気のせいかな。古い形式を再解釈してクラムみたいな特殊奏法を駆使した作品を書いてみたりショスタコのバイオリン協奏曲みたいに感情激重なパッサカリアにしてみたり、工夫と思い入れを感じます。

作曲家でいうとアデスがこのテーマが大得意。新・新古典主義と言えそうな方向性の作品(Three studies from Couperinみたいな)だけでなく現代音楽方向の解釈(Darknesse Visibleなど)も色々やってる。ただ新と旧を合わせるだけでなく様々な視点でつなげたりミックスしたりできるのはすごいですね。Darknesse Visibleは理解するとすごく面白い曲なのでピアノ弾く人で縁があればちょっとオススメ。

昔の音楽と今の音楽をミックスする際の「昔」はバロック時代を元ネタとすることが多い印象がありますがイギリス人はさすがというかダウランドも好きですね。その悲しみの色はイギリス音楽のルーツであり今にも通じるところがある、みたいな理由なのかな。

そして古い音楽で使われる楽器を全く新しい使い方で利用してみた作品の例としていくつかハープシコードの現代音楽を入れてみました。でも私が「ハープシコードこんな使い方できるんだ!」と思ったのはクラムの「Songs, Drones and Refrains of Death」(後半部分)。あのハープシコードが完全に電気的ノイズを発する現代楽器になる瞬間はたまげましたし今でもわくわくします。他の古楽器とされる楽器を使う作品、思いつかなかったのでこれだけにしたけど何かあるのかな。

あと面白いのがこのリストのうち3曲(Fantasy on the theme of William Lawes、ラクリメ、Darknesse Visible)が主題が最後にくる逆の変奏曲の形をとっていること。何百年も存在してある程度知られた元ネタがあるからこそ最後に正解を出す、ということができる。ただどの曲も原型をとどめてない時間はかなり長めな気が。タイトルや背景をしらないで初めて聴いたら普通はどこで分かるんだろう。大分遅いんじゃないかな。

先ほど書いたようにこのくくりで曲を探すのはとても大変でしたがもっとこういう昔と今をミックスしている音楽、中でもごっちゃな感じでうまいこと違和感を楽しめるようにしている作品をもっと見つけたいですね(あるいは入れ忘れてたら思い出したい)。変なほど楽しい。

一つ気になるのは20世紀初頭の新古典主義以来元ネタになる音楽はバロック時代以前の音楽であることが多く、それが今でも続いている気がしますがたとえばロマン派の音楽を題材にしたAnachronismな作品は今後生まれるのかな。ロマン派はまだまだ(少なくとも音楽弾く人やクラシック音楽が好きな人にとっては)心に近い音楽という認識なのか、もうちょっと距離が空かないとこういう扱いはされないのかもしれませんね。もう100年200年ほど待たなきゃ(笑)