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特殊ニブのススメ

万年筆沼にはまるとどこかで太い字幅の方に流れていくことがある、という話は前々からちらほらと聞いてはいました。
元々最初の万年筆は細字で手帳に書く用をイメージして買い、さして大きい字を書くわけでもなく比較的漢字を書くことが多いので(平仮名を手書きするのが苦手なので漢詩を書き写したりします)日本の万年筆でいう細字や中細を主に使うだろうな、と思っていたのですが・・・
いつのまにやらスタブ・ミュージック・ズームが手元に揃ってしまいました。

ということでこれを機に通常の細字・中字などのスタンダードな字幅以外の太い字幅のニブや柔らかいニブをいくつか紹介して普段使いとは違う万年筆の楽しさを布教したいと思います。

注:ミュージックニブなど特殊ニブには同じ名前・記号で表されるものでもメーカーによって太さなど筆跡が大分違うことがあるため、手書きサンプルを参照したり実際試筆することを強くおすすめします。この記事ではなるべくメーカーまで明記するようにしました。あと手書きサンプルはインクの違いなどもあると思われるのであくまでも参考までに。

やわらかいニブ

字幅の名前に「軟」(S)が付いているニブ。その名の通りスタンダードなニブより弾力がある柔らかい書き心地。手持ちにはプラチナセンチュリーの細軟(SF)、そしてパイロットエラボーの細軟(SF)があります。

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パイロットの細字・細軟とプラチナの細軟、セーラーの中細を比べてみました。ニブが柔らかいだけで筆跡に大きく差が出るわけではないのですが個人的にやわらかいニブは癖字の曲線をうまいこと調節してくれるような印象があります。そして筆圧のかかり方がスタンダードなニブと違うので濃淡も出やすい。

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パイロットのエラボーは一段曲がっているような外見が特徴的。書いていて筆圧を吸収するような感覚です。これが自分の手書きにベストフィットかは分からないのですがかなり気に入っている一本。
同じ「軟」字幅でもメーカーやタイプによって書き味は色々変わりますしその繊細な違い(そしてその個人へのフィット)もまたやわらかいニブの魅力だと思います。元々いわゆるフレックスニブのように力をかけて大きく曲げる使い方は推奨されませんが、この微妙で絶妙な感触を味わうとそんな使い方勿体ない、みたいな気持ちになりますね。

参考までに私が言葉で表せない様々な軟ニブの書き味を説明してくれているツイートを引用します:

縦横の線の太さが違うニブ

いわゆるスタブやミュージック(MS)と呼ばれるニブの仲間。手持ちはTWSBI(580ALミニ)の1.1mmスタブ、そしてセーラー(ブングボックス限定品)のミュージックニブです。

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ペン先が目に見えて太く平たくなっています。こう見ると1.1mmもMSもそんなに違いなく見えますが実際書いてみるとこの通り。

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万年筆を持って線を書いたときに横の線は細く、縦の線は太く。1.1mmもMSも横の線の太さはほぼ同じですが縦の線の太さは大分違ってきます。言語関係なく面白い字が書ける魅力的な字幅。
ちなみにTWSBIのスタブには1.5mmもあります。パイロットのプレラのCMも1.1mmと同じくらいかな?気軽に手に取れる特殊ニブです(まだ未所持ですがいつか・・・?)。

自分の書く文字基準での話になりますが、1.1mmではまだ楽しく漢字が書けるもののMSになると漢字は細かいところは大分潰れますし横に太った字になるのでちょっと大変。ただ自分はちょっと丸っこい字を書くのでこういうメリハリが自然に付く字幅で書くとちょっとだけ見栄えが良くなる気がします。

ズーーーム

一番最近入手したのがズーム(Z)ニブ。セーラーの北米限定プロギアLucky Charmというモデルです。

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ズームニブはペン先がかなり分厚くなっているのが特徴です。
(ちなみにこのモデルはプロギアスリムなど他のスタイルでも購入可なのですが後述の理由でニブが21Kの大きいサイズ+軸が太くて寝かせて書きやすいタイプのプロギアにしました。ちょっと高くついたけど狙いドンピシャリ。)

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ズームニブの特徴は字幅が太いこと、だけではなくなんとペンを立てたり寝語りすることで細く書けたり太く書けたりすることです。どういうことかというと:

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最初はコツがいりますが上はほぼ垂直、下は寝かせ気味の普通書き、真ん中はなんとかその間をとってみました。普通の万年筆と違って垂直に立てても(多少はドライに感じますが)書けるのがすごい。そのためのペン先の厚みですね。
そしてもう一つの大きな特徴は太い字を書くときの「ぬるっ」とした書き味。フローは控えめにいってもすごいです。太い字幅を考えていてもいなくても一度は試してもらいたい感触。

そんな変わった特徴を持つズームニブはルビを振ってみたり宛名書きだったり同じインクで違うサイズ・太さの文字を書きたいときに便利です。あと書き心地の良さで自然と大きな文字も書くようになります。
ただズームはどうしても丸っこい文字を強調してしまうように見えるので筆跡を色々変えてお試し中。それもまた楽しいですが。

特殊ニブの楽しさ

やわらかいニブはともかく、ズームやミュージックのような字幅は普段あんまり使わないしお値段も使用頻度を考えると・・・というイメージがあると思います。
ただ万年筆全般にも言えることですが「持ってると結局なんか使い道みつけて使っちゃう」に尽きるといいますか。
日常的に使う万年筆の楽しさとは違う、それこそ四字熟語一つ、外国語の単語一つ書くだけでも意義があるみたいな。そして不思議と自然に大きい字を書いてみたくなる。

私の場合インスタに上げてる手書きでは特殊ニブで書きたい題材を見つけるのには苦労するのですが、逆に日常で思ったことを叫ぶ(そしてその画像を雑に撮ってtwitterに上げる)のにはよくミュージックやスタブやズームを使ったり(笑)。なので外出に持ち歩く際にも一本はそういうニブの万年筆を含めることが多く。やっぱりなんだかんだで使ってますし楽しく使ってます。

この記事で何度か言及したように特殊ニブには様々な種類があって書き心地・字のスタイルなどでフィットしたりしなかったりということがあります。やっぱり実際書いて楽しい!と思えるものを選ぶのが一番ですしね。なのでできればお店などでお試しする楽しみから、とおすすめしたいです。

楽しい万年筆の使い方、もっともっと見つけたい。