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チェレスタ取扱説明書 part 2

チェレスタ語り、前回の続きです。

そしてプレイリストも改めてリンク。ソロであるかないかに関わらず自分がオーケストラにおけるチェレスタの使われ方が上手いと思う曲を好みで絞って集めたものです。

オケのどんな楽器でも(特に打楽器など常に使われるわけではない楽器では)作曲する側はどんな音・効果を具体的に求めるのかイメージして使う必要がありますが、チェレスタに求めるもの、そしてその数ある短所(前の記事参照)を最小限に抑えて魅力をどうやって引き出すか、みたいなことに今回は触れていく予定です。

出番の多さより印象に残る音

チェレスタをオケ曲で使う際、決してたくさん弾かせる必要はありません。前回も書いたように打楽器と似たような扱いで、特定の役割をしっかり果たすために働かせるのがベスト。
そこがショスタコーヴィチが毎回上手いところで、たとえば交響曲第5番の第1楽章では最後の最後に出てくるチェレスタの数音の存在感半端ないですし、出番を作るときのタイミングといい周りの雰囲気といい上手にセットアップしてくれるチェレスタにとって最高の作曲家。なので多めにプレイリストに入れてみました(ただショスタコはハープも同じような使い方をするのであちらはちょっと物足りなさそう)。

主役にするなら

チェレスタを曲の一部で主役として使うなら(別に全部で主役も歓迎ですが)背景になるオケの使い方にも工夫が必要です。周りの音量・音域・音の厚さなどによってとにかく音が埋もれる楽器なので。
主役としてのチェレスタを楽しむならプレイリストでいうと最初の2曲に加えてレスピーギの「カッコウ」、ラフマニノフ「鐘」の第1楽章あたり。それからヴォーン=ウィリアムズの交響曲第8番は始まってすぐにチェレスタという意外さも面白いです。

ただ意外とオケの他の楽器が特別に配慮しなくてもそれなりに意義があるパートになってるよね、と思うのがストラヴィンスキーの「ナイチンゲールの歌」とかリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」から「7つのヴェールの踊り」とかマーラーの色々な曲とか。もちろん要所要所でチェレスタを際立たせるようにはしてますがそうでない部分でも分厚い編成のオケの音にちゃんと存在している。

あと前回からチェレスタは鍵盤で弾く楽器なので機動力があるという話をしていますが一つ一つの音をしっかり弾かないと音がきれいに出ない楽器個体が結構あるのと、ペダルを踏んで弾くことが多く音が混じり合うことが多いため厳密に言えば実際の機動力はピアノには敵わないところもあるかも。

チェレスタが作り出す独特の雰囲気

Part 1でチェレスタに音や機能が似た楽器との比較をしましたがどうしてもチェレスタじゃいけない、と作曲家に思わせるのはこの楽器の音が醸す雰囲気が大きく関係していると思います。
チェレスタの丸く輪郭がぼけたような、密度が低く浮遊しているようで音程も厳密ではない音は独特の不安定さと不思議さをオケのサウンドに与え、半分機械のようで時が止まるようなエフェクトも得意なため、特に20世紀以降の調性がはっきりしない音楽、ダークな曲、そしてファンタジーやSFとの相性がとても良い楽器です。

プレイリストではその魅力を伝えるために特に後半に暗い雰囲気の曲を集めてみました。ホルスト「惑星」の「海王星」なんかいい例ですし(SF音楽の祖と思っています)、シチェドリンもサイコホラー風味があって好き。
大学の頃作曲科の生徒がオケのために課題曲を作曲するのを大学のオケが演奏する、という授業があったのですがその時に担当の先生がチェレスタを使うよう特に言及してくれたみたいで何曲かチェレスタパートを弾いたのですがチェレスタの音が幻覚や不安定さ、夢みたいなイメージで使われてるのがとにかく良い使い方だったのが嬉しくて楽しかった思い出があります。

雰囲気重視でチェレスタを使うなら必ずしも音がはっきり聞こえる必要はないケースも。チェレスタの音の魅力は実は音の周りの「halo(後光や太陽の暈など)」で、これが聞こえるだけでとても繊細な雰囲気の表現ができます。
ショスタコーヴィチの交響曲第5番の第3楽章のエンディングが一番有名な例と思いますがチェレスタを他の音楽(この例ではハープ)のソロに寄り添わせることでチェレスタの音の持つ余韻、haloをその楽器の音に足すことができます。プレイリストに入れたレスピーギの曲はほぼ全部そのテクニックを使ってますが聞こえますかね?

チェレスタがオーケストラの一部としてサウンドに貢献する得意技は「なじませる・ぼかす・濁らせる」の三つだと思います。合唱や金管楽器はちょっと難しいですが他の楽器、特に音の線がはっきりしている楽器の音を結びつける役割もあるのでは?特にレスピーギの「ボッティチェッリの三枚の絵」でピアノ、ハープ、チェレスタと他の打楽器が一緒に使われているのを聴くとそういった印象を受けます。

おわりに

もともと19世紀以前には存在しなかった楽器ですが、映画音楽や調があいまいな音楽との相性の良さ、内面心理の表現に長けていること、色々なパッセージを弾くのに十分な機動力などを考えてもチェレスタは今の時代、これからの時代に活躍する可能性を秘めているはず(とはいえ打楽器類全般20世紀以降の主役とはよく主張しますが)。
これから作曲される作品でも(オケに限らず)機会があればチェレスタをもっと使ってほしいなと思いますし、上手いこと使ってチェレスタそのものやアンサンブル全体の音の表現と可能性がもっと広がってほしいなと日々思っています。

歴史が浅い楽器ながらもプレイリストを作る際にはどの曲を入れてどの曲を省くかものすごく悩んだくらいには様々な作曲家が素敵なチェレスタパートを作品に残しています。それらを作曲する人・弾く人・聴く人みんなに知って参考にして欲しいと思ってこの記事とともにプレイリストをまとめました。是非チェレスタの活躍に耳を澄ませてみてください。

おまけ

数年前に今回と同じオケでショスタコーヴィチの交響曲第13番を相棒のチェレスタで(私が)弾いた時のダイジェスト動画。プレイリストにいれなかった最終楽章ですが5:30くらいから大きいチェレスタソロです。