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おすすめの女性作曲家

何のジャンルでもそうですが、クラシック音楽の世界も常に変わり続けています。その中でも女性作曲家やその作品をとりまく環境は最近いい方向に変化しているのがだいぶはっきり目に見えるようになってきました。
最近は英Classic FMでも男性中心のクラシック音楽史の中で埋もれかけていた女性作曲家を取り扱ったり特集したり、そしてもっと身近だとメルボルンでは存命の作曲家、特にローカルの作曲家の作品をコンサートで聴くことが増えるとともに女性作曲家の作品をプログラムに組むことも多くなってきました。もちろんこれらは「自然」な変化でなく弾く人や聞く人、放送する人などたくさんの人間が動かしてきたのが実った結果。

これからもこの変化が続くように、女性の作曲家が創った面白い音楽を知ってもらえるためにちょっと私も何人かオススメの女性作曲家を紹介することで流れに力添えしたいです。もし出会ったら是非聴いてみてください。

Elena Kats-Chernin

オーストラリアの作曲家、ですが出身は旧ソ連圏内で作品にもロシアのフレーバーが強いものが結構あります。それに加えてファンタジー感の強さ(ハリポタに並べるほど)だったりバレエ作品以外にも溢れるバレエの雰囲気だったりからチャイコフスキーから繋がっているものを感じます。
代表作であるバレエ「Wild Swans」の「Eliza's Aria」はヨーロッパ方面でテレビCMに使われて広く知られているので世界的にも知名度は高いはず。国内でも子供の試験課題曲からシンフォニーオーケストラの作品まで幅広く手がけて作品数も多ければ演奏頻度もかなり高い。編曲も色々あります。
とはいえソロ器楽曲は小品が多いのでリサイタルに採用するなら小品を選んで組曲仕立てにするかアンコールとして演奏が主になるかも。
まだKats-Chernin全集ボックスセットの録音に生演奏の録音が入ってるのみなのですが私がダントツに好きなのが打楽器とオーケストラのための「Golden Kitsch」。オーケストラをおもちゃ箱のようにきらきら、ワクワクなファンタジーに使える彼女の魔法の真髄が大編成&大規模作品で聴けるのは幸せです。

Lera Auerbach

いつだったかハンブルクバレエ団繋がりで色々探っているうちにSpotifyで出会った作曲家。ショスタコーヴィチみたいな音楽がもっと弾きたい、と常日頃思っている私にとっては天啓ともいえる音楽の出会いでした。
もうストレートに「ショスタコが好きな人はこれも好き」とほぼ100%断言できます。実際ショスタコより曲の書き方が洗練されている部分もあるといっていいかも(ショスタコの洗練されてないのもまた好きですが)。
Auerbachは「24の前奏曲集」のセットをバイオリン、チェロ、ピアノのためにそれぞれ書いてたり小品の集まりをいくつも作曲しています。なので演奏する際には24つのうちから選んで組み合わせて、という楽しみも。もちろん長期的に24つコンプリートする楽しみもあります。私はピアノのための24の前奏曲をあえてゆっくりと弾き進めています。
ただ初めましてでオススメしたいのはチェロとピアノのための24の前奏曲集(op. 47)。特に第12番(嬰ト短調)を別版「Postlude for Cello and Piano」と一緒に楽しむと闇が深くて素敵です。

Mary Finsterer

再びオーストラリアの作曲家から。自分の知っている女性作曲家で一番「Symphonic」な作曲家を挙げるとしたらFinstererになると思います。交響曲そのものを書いているというわけではなく、オーケストラやその楽器を使う上での言語が「交響的」というか。がっつりシリアスで程よく現代音楽要素もあるけど決して聞き難くはなく、オケ使いの完成度が高いという意味では同じオーストラリアのBrett Deanと通じるものがあるかも。あとオペラをメインジャンルの一つにしているのも。あとは現代音楽と古楽どっちにも影響されているのも私が好きなポイント。
そもそもこの記事を書いてこのリストに入れたのもこないだメルボルン交響楽団が演奏した「The Lost」に感銘を受けたのが理由の一つだったりするのですがまだ録音がない。

Lili Boulanger

ヨーロッパ周りで女性作曲家の特集とかやるとBoulanger姉妹の話は割とよく出てきます。私は長女なので姉Nadiaの方に興味があったのですが作曲家として多く作品を残しているのは天才と言われた妹のLili。最近色んなところで作品が聞かれるようになりましたが若くて亡くなったのでそんなに作品数は多くないにもかかわらずエンカウントする曲がかぶらない印象があります。
ラヴェル、フォーレ晩年、ドビュッシーあたりが好きで聞いたり弾いたりする私にとっては正にどんぴしゃで、小品を弾いてみたら長年の友のようによく馴染みました。演奏で聞くのもやっぱりそこら辺の作曲家の作品と一緒に演奏されることが多く、近い将来には印象派の男性作曲家と同列に語られるようになりそう。
とはいえピアノ独奏のための作品の少なさは弾きたい派としてはちょっと残念。声楽作品が大部分ですがIMSLPに無料で楽譜もありますよ。

岡本加奈子

まさかのここで個人的にお会いしたことのある作曲家の方を挙げてしまうのは(何よりものすごく長いことご無沙汰しているので)ちょっと照れ?があるのですがそもそもピアノで初めて弾いた女性作曲家の作品が岡本さんの作品で、作風的にもメシアン周りを永遠にうろついている私にはよく響いたのでこのリストに入れないと、ということで。
色彩だったり幾何学的なエレメントだったり、あとピアノ以外の作品でよりはっきり感じられる空間や間の感覚だったり、最近弾き直してないけどそれでも今学びたい要素が色々。
大学時代に弾いた「La Nuit」は題材がモローの絵画でそこからモローも好きになりました。好きのジャンルが広がるのも曲との良い出会い。そして着実に手元に育ちつつある20世紀以降の「夜の音楽」コレクションの大事な一曲です。

Deborah Cheetham

三たびオーストラリアの作曲家。オーストラリアの先住民アボリジニ(の中でもYorta Yortaの民族)の作曲家で、ソプラノ歌手としても有名ですが最近は作曲活動がかなり活発。
大規模作品では「Eumeralla, a war requiem for peace」がその題材もあって重要作品として位置づけられると思いますがちょこちょこ色んなコンサートに行く身として特に親しみ深いのがコンサートの前にWelcome to Country(コンサートなどイベントを開催する際に行われる土地の先住民の儀式)として演奏される楽曲「Long Time Living Here」。オーストラリアで定期的にコンサートに足を運ぶ人ならこの曲が一番頻繁に聴く女性作曲家の作品になるのかも。
オペラにも携わることが多いので声楽中心かと思ったらかなり色んなジャンルや楽器の組み合わせで曲を書いているみたいです。ただピアノ独奏の楽曲はなかったので今の所は聴く専の作曲家という位置づけに。

とりあえず6人、でもまだ6人。また機を見て紹介を、と言うのは簡単ですがそれまでに作品を弾いたりしっかり親しみを感じるくらいに聴き込んで・聴き広げていかないと。なのでまたこのトピックで独立した記事を立てるのはちょっと先のことになりそうですがプレイリストや他の記事でも女性が作曲した作品は出してるのでこの6人の作曲家以外も是非アンテナ張ってみてくれると嬉しいです。