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フードフォレストのつくりかた:雑木と果樹の共生する森へ 地上編

この秋から冬にかけて、ACTANT FORESTでは、プロジェクトの一つとして「フードフォレスト」づくりに取りかかっている。フードフォレストについては、5月の記事で詳しく取り上げているが、一言でいえば、果物や野菜などの食べ物が収穫できる森のこと。リサーチの過程で発見した記事をきっかけに、自分たちの森でも挑戦してみようとなった。

12月現在、少しずつ果樹の植え付けを始めているところだが、こうして実行に移すまで、「雑木と果樹の共生」という観点からどうフードフォレストを計画すればよいか、メンバーで検討を重ねてきた。このnoteでは、私たちがそこで取り組んだことを、地上編と地下編、2回に分けてまとめてみたいと思う。地上編では、私たちが目指すフードフォレストの姿とその配置について、景観を含めて説明する。地下編では、具体的な樹種の選定や栽培の工夫について取り上げる。ともすると目に見える範囲の木々をどう配置するかという発想をしがちだが、実は菌や微生物を含めた地下のレイアウトのデザインも重要だ。地上、地下合わせて、どうフードフォレストをデザインしていくか、そのような試行錯誤をレポートする。

どんなフードフォレストをつくるか?

雑木林が広がるACTANT FORESTの敷地のなかに、篠竹が繁茂する荒れたエリアがある。もとは新たな雑木林に再生するつもりだったが、ちょうど刈り払いして開けた場所ができたところだったので、そこにフードフォレストも組み込んで、森づくりの一環として整備を進めることに決めた。

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このように荒れたエリアを、森に訪れるたびに少しづつ切り開き、なんとか下のような状態まで切り開いた。

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だが、いざ始めようと思うと、意外なことに「雑木林の再生」と「果樹栽培」をミックスさせたフードフォレストの事例や指南書というものが、なかなか見当たらない。林業的な森づくりの文脈で果樹栽培は前提とされていないし、逆に農業のノウハウにおいてもしかり。専門知識や経験のない私たちには、この場所で両者がちゃんと調和するのかも今ひとつよく分かっていない。そんな状態からのスタートなので、このフードフォレストづくりは、自分たちの目指す森の姿に向けて、いろいろな知見や手法を調べ、組み合わせ、試してみる「実験」プロジェクトと位置づけている。

まず最初に設定したのは、自分たちのフードフォレストの理想形だ。先の記事でも紹介しているように、フードフォレストには、畑然としたものからジャングルのような森まで様々なバリエーションがある。畑スタイルは環境も一定に整えられるし、まとめて手入れもできるので、自給自足や農産物の生産を目指す場合は効率的だが、私たちの場合、森で農園を営みたいわけではない。現地に通える頻度も限られているので、訪れた時々にそこで実りが味わえれば十分満足である。だから、雑木と果樹類のゾーンを切り分けるパターンもありえたが、それよりも森の体験としての心地よさを第一に考え、最終的には、雑木林を歩きながらあちこちに食べ物が見つけられるようなフードフォレストを目指すことにした。今は、少しずつ果樹の植え付けを始めたところだ。

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しかし同時に、人間が利用するための「フード」部分が、森の生態系に将来どんな形で残っていくのが望ましいのか、私たちの短期的な欲求をベースに外から食用植物を持ち込んでしまって問題ないのか、という気がかりも生じた。

フードフォレストがもたらすもの

だがこれに対しては、次の記事がポジティブな示唆を与えてくれた。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の針葉樹林に点在する、果樹やベリー。これらは元々自生していたわけではなく、かつて先住民族が食物や薬を得るためのフォレストガーデン(フードフォレスト)として意図的に持ち込んで植えたものだった、という発見だ。

研究者によると、このガーデンは、1800年代に入植者が先住民族から土地を収奪し、管理が放棄されたあとも生き残り、驚くことに、周囲の「自然な」針葉樹林よりも生物多様性と回復力が高い状態になっているという。森で優占する植物相の自然な再生に比べ、多様な植物の組み合わせがあることで、より広い範囲の生物のニッチがもたらされ、生態系に多様な機能が提供される。この「機能的多様性」と呼ばれるものが、森の生態系の健全性や持続性を支える鍵なのだそうだ。

この記事ではまた、手つかずの「自然」に見える景観の多くが、実際には人間の手が入ったものであり、それを形成してきた先住民族の土地の維持管理方法は、人間の存在を排除して「自然」を保全する環境保護よりも優れていることが多い、と述べている。つまり、人間が適切に手を加えるかぎり、人為的なガーデンも「自然」の一部となって、生態系に長期的にプラスの影響を残すことができるのだ。

ガーデンの計画:地上編

これを受けて、私たちは篠竹だったエリア一帯を「ガーデン」と捉えることにした。はじめから豊かな森があるわけではないので、人の手を入れることで雑木も果樹も活性化し、いずれ周囲の森と一体になっていくような庭だ。では、具体的にはどんな方法でつくっていけばいいのか。

まず、フードフォレストのデザインの仕方としてよく取り上げられるのが、パーマカルチャーの「7レイヤー」の考え方である(こちらも詳しくは5月の記事を参照)。樹高の異なる植物を立体的に構成することで、日光や水分などの資源を分け合いながら集約的に栽培するための方法だ。だが、ここで最も背の高いのキャノピー層に想定されているのは、成木でも5〜6mの果樹。一般に果樹には日照が必要とされるが、樹高が20m近くになるコナラやクヌギなどを一緒に植えると、他の植物に日が当たらなくなってしまう。

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こうした垂直方向の組み合わせとともに、各樹木をどのくらいの密度で植えるか、という水平方向にも配慮が必要だ。『土中環境』の著者、高田宏臣さんから習った植樹方法では、木々を植えるマウンド(盛土)をパッチ状に配置することが重要なポイントになっている。今後実生が育っていく余白をきちんと設け、均質ではないメリハリのある環境をつくることで、自然の力を生かした森づくりができるのだそうだ。

この2点をふまえて導かれたのが、次の配置ルールだ。

・雑木と果樹類は混植せずに、それぞれ別のマウンドをつくって植樹する。
・キャノピーとなる雑木のマウンドは果樹の北側に置く。南側の雑木との間には、十分な樹間をあける。
・低木や野菜類は(必要とする日照によるが)、主に果樹の南面に植える。

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無題 - 2021年9月28日 16.39

計画の順序としては、森のなかを歩きながら手入れや収穫ができるよう、まず人の動線となる道を(獣道を手がかりに)設定。それから果樹のボリュームを置き、周囲に雑木を当てはめていくという流れになる。

こうして大まかな配置を決め、次に考えるのは、どのマウンドにどんな果樹/雑木を植えていくかだ。その樹種が土地の風土に適していれば、どの場所でもそれなりに育つのかもしれないが、この場所が今後森として成長していく上で重要なのは、やはり実生がしっかり根付いていく環境だ。この実生の生育にかかわってくるのが、樹木の根と菌根菌が共生して形成される菌糸のネットワークらしい。次回は、この地下へのアプローチを紹介したい。


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