制作のつぶやき『エントロピーの法則』

少し時間が開きましたが、前回「大石Dの勉強会」の感想をまた、つらつら書いていこうと思います。

講義の内容は大きく分けて3つ

1.いきなりコーヒーブレイク
  「世界はプログラミングされている」

2.エネルギー保存の法則(熱力学第一法則)

3.エントロピー増大の法則(熱力学第二法則)

講義後の触感で言うと、最初のコーヒーブレイクはかなり大事な前提になりました。

1.いきなりコーヒーブレイク
  「世界はプログラミングされている」

大石くんが最初に持ち出したのはサイコロでした。
実際は、サイコロの出目をシミュレーションするプログラム。

サイコロを6回振ったと仮定して、出た目をシミュレーションすると、5が2回出たり、3が3回出たり、そのぶん出ない目もあって、いきなり1から6の目が1回ずつ出るなんて偶然はなかなか起きません。

これを今度は、100回振ったとします。
すると、大体どの目も10回くらいは出ますが、それでもたくさん出すぎる目があったりしてバラバラです。

1000回振った時に、少し雰囲気が変わります。
大体どの目も、150〜170くらいに均されていきます。
実際棒グラフで見ているので、棒の高さが一定になっているのがわかります。

10000回振るとさらに各目は1600回台に収まっていきます。

サイコロを振る回数が増えるほど、確率で出した期待値通りの数字に収束していきます。


続いて、サイコロを3つ振って、その合計値の分布を調べます。
合計値なので3〜18までの数字が出てくるはずです。

10回だと、出てくる合計値はバラバラで、完全なランダムのように思えます。

100回振った時、真ん中あたりの数字に結果が集まり、3、4、あるいは17、18あたりの両端の数字は一度も出てきませんでした。

1000回振った時には、真ん中が盛り上がり、両端に向かって滑り落ちる「釣鐘型」の棒グラフが出現しました。

10000回だと釣鐘はさらに綺麗な形になります。

これは、例えば
結果が3の場合、1の目が3つという1パターンしか存在しないのに対し、
結果が12の時、「1、5、6」や「4、4、4」など、6種類あります。
なので、合計が3よりも12のほうが6倍出やすいので、棒グラフも背が高くなっていきます。

これを中心極限定理と言います。

この現象はサイコロだけでなく、身長の分布や、年ごとの梅雨の時期など、平均が取れるありとあらゆるものに現れます。
あの人は背が高いなぁというのも今年は梅雨入りが早いなぁというのも、全て中心極限定理の釣鐘の中に収まっていくのです。

想像するとちょっと変な感じがしますね。

世界のほとんどの現象が、釣鐘型にプログラミングされているのです。

ただし、中心極限定理の通りにならないものもあります。
例えば体重なんてのは個人の強い意志である程度操作できます。
何人集めても体重の分布は綺麗な釣鐘型にはならないのです。

2.エネルギー保存の法則(熱力学第一法則)

これは中学物理で習った内容だと思います。
あんまり覚えていませんが。

「孤立系のエネルギーの総量は変化しない」(wikipedhia)

例えば振り子を想像してみてください。

振り子をある高さまで持ち上げて離すと、大きく弧を描いて移動し、反対側の、最初の高さまで持ち上がって一瞬静止します。そしてまた大きく弧を描いて戻り、最初の高さまで戻ってきます。

これは、最初の位置エネルギーが、移動の運動エネルギーに変換され、一番下で完全に運動エネルギーに変換されます。その後、今度は運動エネルギーが振り子を持ち上げ、到達点で完全に位置エネルギーに変換されているという現象を見ているわけです。
この時、最初に持っていたエネルギーの総和は変化しません。

これ、違和感ありますよね。

実際は、空気抵抗の摩擦によって運動は減速して、到達点の位置はだんだん低くなっていきます。
摩擦によって失われた運動エネルギーは摩擦熱の熱エネルギーになって空気中を飛んでいきます。
その分を捕まえておくことができたら、エネルギーの総和は結局変化しないということが言えそうです。

これが、次のエントロピー増大の法則につながります。

3.エントロピー増大の法則(熱力学第二法則)

エントロピーとは
一言で説明するのはほぼ不可能なのですが
「何をすることができて、何をすることができないかを、その大小で表すような量」で「エントロピーが低い/高い」という言い方をします。

エントロピーが増大するとエネルギーにできる仕事量は減ります。
振り子の運動エネルギーは反対側の位置エネルギーと空気摩擦の熱エネルギーに分かれます。
反対側の位置エネルギーは、帰りの運動エネルギーに変換することができますが、空気摩擦の熱エネルギーは何も仕事をしません。
この時、エントロピーはわずかに高くなりました。

また、火力発電を思い浮かべてください。

火力(熱エネルギー)

水温(熱エネルギー)

蒸気(運動エネルギー・位置エネルギー)

タービン(運動エネルギー)

モーター(運動エネルギー)

発電(電気エネルギー)

炎の力が、何度も変換されてから電気エネルギーに変わる様子がわかると思います。
この間にも、熱になって逃げていくエネルギーがたくさんあります。

火力(熱エネルギー)
↓オーブンの外に逃げる熱エネルギー
水温(熱エネルギー)
↓ボイラーの外に逃げる熱エネルギー
蒸気(運動エネルギー・位置エネルギー)
↓送気中にロスする熱エネルギー
タービン(運動エネルギー)
↓タービンと軸の摩擦で発生する熱エネルギー
モーター(運動エネルギー)
↓モーターと軸の摩擦で発生する熱エネルギー
発電(電気エネルギー)

こうしてみると、たくさんの熱エネルギーが発生していますが、この熱エネルギーは発電所の空気を暖める以外なんの仕事もしません。
暖まった空気を集めてボイラーの中に戻すこともできません。

こういった仕事しないエネルギーがどんどん増えていく状態を
エントロピー増大といいます。
(というふうに僕は理解しました)

世の中にはこういう、仕事をするときに、熱となって失われるエネルギーがたくさんあります。
ですが、本当に失われるわけではなく、やはり熱の状態で空や宇宙に放出され飛んでいくのです。
こうやって全てのエネルギーが熱となって放出された後の宇宙はどうなるのでしょうか。

一説によると、宇宙全体が膨張しきって、全て熱エネルギーに変わってしまった時、つまりエントロピーが最大になった時、宇宙全体は約-270℃(3ケルビン)の静寂となります。

これを熱的死と呼びます。

最近では、そうはならないだろう、という説が主流のようですが。

どちらにせよ、我々人間は、仕事をしてたくさんの便利なものを生み出していますが、同時にたくさんのエネルギーを熱に変えています。
人間でなくても生き物は、命として生まれ、エネルギーを消費して、熱を生み出して死んでいきます。
それでは、命とは一体なんなのでしょうか。

それこそ、文化、文明、遊びの熱を生み出すことこそが、命が生まれ持った使命なのではないでしょうか?
文化や遊びのために生み出される熱こそが、ただ燃え上がり消えていくより、ずっと価値のある熱なのではないでしょうか?

そして人間の持つ遊びの熱だけが、体重の統計分布のように、中心極限定理を無視し、プログラミングの楔を抜け出すことができるのではないでしょうか?

なんか壮大ですね。

(制作:河合厚志)

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